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書評:電子構造論による化学の探求 第二版


読んだ本

田崎健三 訳、電子構造論による化学の探求、第二版第6刷、ガウシアン社、1998年、302頁.

分野

計算化学、コンピュータ化学、DFT計算、量子化学

対象

GaussianでDFT計算を始める人

評価

難易度:易 ★★★☆☆ 難
文体:易 ★★★★☆ 難
内容:悪 ★★☆☆☆ 良
総合評価:★★☆☆☆

公式本だが良書とは言えない

内容紹介

 「電子構造論による化学の探究」は計算機化学の入門書です。化学現象の研究に電子構造論をどう適用したらよいかが説明されています。多くの例題や演習が掲載されており、それらはGaussianシリーズを用いて作成されています。Gaussianを用いて計算化学を行われる方には必読のGaussian利用のための教科書となる本書は、Gaussianを用いる研究室には必携の本であると考えています。例題や演習のためのGaussianのサンプルファイルはGaussian社のWebページからも入手できます。
 計算化学の経験の浅いか、または経験が全くない実験家の方には、電子構造計算への入門書として用いることができます。実験と一緒に使用すると、如何にして電子構造論が化学の問題に新しい洞察力を提供してくれるかを学ぶことができます。
 学部上級か大学院初級の物理化学のクラスを受講している学生の方は、教科書の便利な補習書として用いることができます。学生の方は、実際に計算機による演習問題を通して、電子構造論の基礎的知識を学ぶことができます。経験を積んだGaussianのユーザーは、新しいプログラムの機能を本書を通して学ぶことができます。
 本書は、学習のガイドとして書かれており、電子構造論を化学の系に適用する方法が学べるように、懇切丁寧なアプローチが取られています。自分のペースで学習するのもよいし、クラスで用いるのにも適しています。(第三版の内容紹介、引用:参考書籍:電子構造論による化学の探究 | HPCシステムズ・計算化学ソリューション

感想

 多くの量子化学計算のソフトウェアがあるが、少なくとも小分子系ではGaussianがデファクトスタンダートである。無料のGAMESSもよく聞くが、論文の引用を見ればGaussainが圧倒的に多い。大層な名前をしているため勘違いをする人がいるかもしれないが、当書はGaussianを提供しているガウシアン社による公式マニュアル本である(名前はガウシアン公式マニュアルとかでいいと思うのだが)。個人的にはあまりおすすめできない書籍なので、その理由を以下に述べる。
 まず第一に、読みづらい。文体が古臭い。そして、本の構成?が日本らしくない。英語版をグーグルカメラで翻訳しただけのような、何か言語化できない歪さを感じる。これは大手出版社を経由しているわけではなく、自社出版?だから、素人仕事と考えれば納得はいく。感じ方も人それぞれだから気にするほどではない。第二に、情報が古い。第二版は対象としているのがGaussian 92や94であり、もはや骨とう品である。計算レベルも、HFやMP2といった、実用的ではないレベルを使用しており、参考にはならない。第三に、購入難易度が高い。書店はおろか、amazonなどでも売っていない。どうやら公式?サイトから購入しなければならないようで、はっきり言って面倒くさい。また、お値段も1万円とかなりお高い。もちろん、それに見合う価値があれば1万ごときで文句は言わないが、個人的にはその価値はない。
 ただ、私が所有しているのは第二版であり、現在の最新の第三版ではない点にご注意いただきたい。最新版では上記の難点が克服されている可能性はある。しかし、中華人民共和国計算化学界の大御所であるsob大佬は以下のように述べている。

Gaussian官方的Exploring那本书的第3版里从头到尾几乎都用APFD泛函,令初学者以为APFD万能,这真是超级坑爹!在诸多泛函的测试文章里,APFD无一例外表现都极其平庸,比B3LYP-D3(BJ)没有什么优势,目前文献里也极少有人用APFD,这是个绝对冷门泛函。如果你也用这个泛函,到时候审稿人问你为什么要用这个,你就傻眼了,根本找不到什么像样的文章能支持你用这个泛函。所以大家切勿被那本书误导!

简谈量子化学计算中DFT泛函的选择 - 思想家公社的门口:量子化学·分子模拟·二次元 (sobereva.com)

 要するに、第三版ではAPDFという使う価値がない汎関数を使用しており、sob大佬はこの本に惑わされてAPDFを使用してしまうことを危惧している。実際、私もAPDFを使用している人を見かけたことがあるが、明らかに初心者で、恐らくこの本に騙されたのだろう。

 当書で全く学びがなかったわけではないので、最低評価はやめておいたが、自分の周りでは評価が低いのは確かである。ないよりはましだが、1万円を高いと感じるのであれば買うと後悔するかもしれない。これを買うなら、西長亨・本田康 共著『有機化学のための量子化学計算入門』(amazon)と、常田 貴夫『密度汎関数法の基礎』(amazon) を買ったほうが絶対にいい。『有機化学のための量子化学計算入門』はGaussianの使い方についてこれまでにないほどわかりやすく説明してあり、これ1冊で一通りの計算はできるようになると思う。『密度汎関数法の基礎』はDFTに関する理論書で、Gaussianを道具として使いたいだけなら買わなくてもいいが、わからないなりに読んでいると、少しは役立つと思う。少なくとも、上記の2冊はどちらとも名著であるにもかかわらず、合わせて一万円程度なので、同じ一万の当書を買うより”絶対”にいい。これは確実に断言できる。

購入

 私は中古で手に入れたので、公式でどのように買うのはか知らない。とりあえず以下にサイトをのせておく。どうやら学生だと7000円で買えるらしい(それでも高い)。訳アリ品が5000円で売っていたらしいが、私がみたときは完売していた。

参考サイト

  1. 参考書籍:電子構造論による化学の探究 | HPCシステムズ・計算化学ソリューション

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