彷徨うと流離う

彷徨うとは、あてもなく歩き回ること、または迷って歩き回ること。
心が安定しないでいることをいう。

流離うとは、どこというあてもなく、また、定まった目的もなく歩きまわることをいう。漂泊すること。

類義語、どちらも似ている。

共通するのは、あてどなく、動いていることだろう。

あてがないから彷徨う。

あてがないから流離う。

あてがあるというのは、幸せなことなのだ。

と、書いていたら、肩を叩かれた。振り返ると、伯父さんがいた。

辛気臭い顔をしておる。

いきなりそれ?

何を書いている?

日記。

日課?それはあれか?後になって読み返して、恥ずかしさのあまり七転八倒する読み物のことか?

そうかもね。

お前は長いこと日記を書かなかった。それは密かに偉いと思っておった。

そうなの?

お前は、小学生の頃、夏休みの宿題で、一度も日記を書くことはなかった。

そうだったね。

宿題出さなくて廊下に立たされたり、居残りさせられたりしても、一度も日記を書くことはなかった。

そうだったっけ?

そうだ。罰として廊下を雑巾掛けさせられていた時、わしはお前の傍にいて見ていたから覚えておる。

あ、そうだった。伯父さん、全然手伝ってくれなかった。

罰は受けねばならない。どうしてわしが手伝わねばならんのだ?

まあ、そうだね。

で?今になって日記なのか?

日記というか、随想だね。

徒然なるままにか?

今日の記録より良いでしょ?

今日の記録の方がましだ。

そうなの?

記録というのは、結果だ。意識やプロセスを経た始末のことだ。

それはまあ、そうだね。

だから、記録を読み返した方が、それに至った経緯がわかる。かつ、くどくどと書き綴る無駄も省ける。

一理あるね。時々伯父さん良いこと言うね。

時々とはなんだ時々とは。

あ、ごめん、いつも。

その通り。いつもだ。で?流離う、彷徨うがどうした?

読んだの?

肩越しにな。

盗み見って言うんだよ、それ。

盗んではおらん。

言葉の綾だよ。読む前に一言かけてよ。

一言かけたら、お前は読ませんだろう?

そうだけど。

なあに、青二才の未熟な文章など、すぐに忘れるから気にするな。

青二才だけど。否定しないけど。

あてがないから流離うのか?

そう思うよ。

あてがないから彷徨うのか?

うん。

なんとまあ。

どうしたの?

あてがあっても彷徨う流離う者たちのことを、お前は知らんのか?

うーん…

良いか?ことの深層は、お前が思うより深くて広い。

深いね。

そうだ。あてがないから彷徨う?流離う?馬鹿馬鹿しい。それで済むなら、わしは苦労せん。

そうなの?

わしが連れて行く者どもは、ほとんどが、行く道行き先を知っていて尚、彷徨う者たちだ。

そうなんだ。

あてがなくてもあっても変わりはない。業が深いのは、それが原因ではない。

原因?

まあ、良い。明日は早起きしなきゃならんから、これでな。

伯父さんはいつものように霞となって消えた。

僕はちらしの裏に書いていた日記を破って、鍵付きの日記帳を取り出して、今日の記録を書き始めた。

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