花の涙

泣きたい時に泣けるのは、幸せなことなのかもしれない。

涙が流れてしまうほどの悲しみにあって、そんなことを言うのは、人でなしの言葉だと思う。

けれど、世の中には、泣きたくても泣けない時もあるだろう。人もいるだろう。

そんな時、そんな人にとって、それは幸せなことだよ、と言うことだろう。

悲しいのは、何も自分の外にばかりあるわけではない。

自分の内に、悲しみが訪れてしまうこともあるだろう。

遣る瀬無い気持ちになることが、あるだろう。

笑っていても心で号泣していることも、あるだろう。

花の涙を見たことがあるだろうか。

花も泣くものだと思ったことがあるだろうか。

いつも美しくいるから、悲しい気持ちになることなんてないと思っていないだろうか。

花は悲しみを知る。

何もできないと無力を嘆く。

自分にできることを精一杯していても、それがなんの役に立つのだろう、と落胆している。

花はそれでも涙は見せない。

いや、ただ、見せられないだけだ。

花の一挙手一投足、所作を見ていたら、言葉の端々を受け止めていたら、そこに陰りを見るだろう。

悲しみに沈んだ、沈痛なおもてを、見るだろう。

笑顔の裏に隠された、悲しみと傷を見るだろう。

花の涙は雫だろう。

透明の、さらさらとした、一筋の雫が、人知れず、流れているのだろう。

誰もいない時に。

そっと流しているのだろう。

花と同じように、物言わぬ世界の中に身を置いて、花の声にならない声、言葉に耳を傾けて、心で聴き、初めてその悲しみを知るだろう。

花は真夜中に涙を流す。

それが、太陽が燦々と輝く真昼でも、花が涙を流す時、それは花にとっては真夜中なのだから。

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