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「プレイボーイのお話ですよね、うーん」おっしょさんは御機嫌斜め……

 昨日の茶道のお稽古の時のことである。
「お茶杓の御名は?」
「しるべ、でございます。伊勢物語の九十九のお歌で、

 しるやしる 何かあやなく わきていわなむ
   思いのみこそ しるべなりけむ

 という歌からとりました」
 と答えると事前の想定に反して、おっしょさんが茶杓の銘に難色を示した。
「伊勢物語はプレイボーイの話ですよね、うーん」
「トオルさんから伊勢物語も面白いですよ、とお勧めていただいたものですから」
 当の講師のトオルさんは、お稽古の日だというのに左目尻に青アザを作って来て、
「プレイボーイも、これじゃ台無しですよね」
 と本人は、話を振られて照れ笑いを浮かべている。
「短歌を使った歌銘には季語は関係ないと思うのですが、やはりあった方がいいのでしょうか」
 と再びおっしょさんに質問。
「やはりなんらかの形で季語に絡んでいる方がいいと思います」
「短歌とは直接絡んでなくても、間接的な形でもいいのでしょうか」
「とりあえずは、いいと思います。例えば、お家でお友達を呼んでお茶会を開くとします。お道具の銘に短歌にちなんだ歌銘を使うとなると、それなりのお道具立てが必要になって来ます。一般の家庭にお歌にあったお道具が一揃え揃うということは、なかなか無いことだと思います。ですから、とりあえずお稽古の間は季語を入れた銘がいいと思います」
「わかりました」
「それから、手にカンペを書くのはやめてね」
 と言っておっしょさんは微笑んだ。問答で紹介する短歌を覚えきれなくて、手に書き込んでカンペにしていたのを悟られてしまった。
「あっ、はい。これからは覚えて来ます」
 何人かの講師に「歌銘と季語」について聞いたが、答えは「ご主人の趣向による」というものだった。だとしたらとりあえず、おっしょさんの茶室ではお道具の銘は季語に絡めてた方が良さそうだ。それに、元の歌も覚えられる歌にした方が無難かも。

 お稽古を終わって控えの間で帰り支度をしている姉弟子たちと伊勢物語の話になった。
 姉弟子が笑顔で
「伊勢物語はプレイボーイの歌ばかりですよね」
 と話を振って来た。私も、
「そうなんですよ。どう扱っていいかわからなくて」 
 と笑顔で答えた。すると姉弟子たちも、
「古典文学って恋の歌が多いじゃないですか」
 と乗ってくる。私も乗り始めてこう答えた。
「そこなんですよ。石田純一が不倫は文化である、といみじくも言ったのは古典文学のことなんだと最近理解しました……。これ以上は、どんどん声が大きくなるので、やめておきましょう」
「ウフフッ。そうですね」
 控えの間で姉弟子たちと古典文学の恋歌で盛り上がりそうだったが、グッと堪えて、お教室を後にした。
 おっしょさんにもう一つ、聞くのを忘れていた。それは歌銘にちなんで「恋歌」についてである。これは次回の質問で……。

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