景虎
【あらすじ】 〝政治×モデル〟 政治家の家系に生まれた真野穣と母子家庭で育った七海愛里が、互いに人生の要所要所で交差しながらそれぞれの居場所を探して行く。 カリスマモデルになってランウェイを歩くと宣言した愛里と、政治の世界でもがきながら自分のやるべきことを見つけ出す穣。 それぞれが志した先で見えた景色とは——。 幼馴染のふたりが辿る数奇な運命。 〝すれ違いこそ、人生〟 〜出逢ったふたり〜 小さな丘の上にある海響公園は海を眺望出来、文字通り濤声が絶え間なく鳴
夏の暑さが徐々に秋へと移行する季節。自民党の総裁選挙が行われた。 「日本を取り戻す」 そう高らかに宣言した安倍晋三が総裁に返り咲いた。 戦後、一度総裁の座から降りた総理経験者が返り咲いた例はおそらく吉田茂以来だろう。 「国家、国民のため、この一点であります!」 心一は安倍総裁の言葉をどこまでも信じることができた。 同時に報道を目にしながら、口角を上げた。ようやく民主党という最悪の政権が崩壊する。そのカウントダウンが始まっている。 その前に始まったのは自
平成24年夏––––。 滴る汗を拭いながら、心一は猛暑の中をまっすぐ歩いていた。すれ違う人たちを横目に、やっぱりスーツで来るべきだったか、と少し焦りを感じていたが、うだるような暑さに、どうにもあの堅苦しい鎧を着る気にはなれなかった。 無論、黒のスキニーに白のTシャツである自分の格好が間違っている可能性は否めず、焦燥感からいくらか歩く速度を上げた。身なりよりも気持ちが大事だから––––と思ったもののきちんとした格好で来るべきだったと後悔し始めていた。 照り付ける陽
「鬼滅の刃 遊郭編」最終話の「何度生まれ変わっても」という題名に含意された美しさ––––。 というふうに帰結するわけだが、そう素直に言えた(気付けた)堕姫と受け入れた妓夫太郎––––享受し合えた最期のふたりは束の間、幸せに浸れたに違いない。 あれはおそらく三途の川とやらを渡る手前で、まさに魂が昇華された瞬間だろう。 「何度生まれ変わっても」––––何かしらの対象に対して、それほどの強い思いを現世で持ち合わせている人間がどれくらいいるだろうか。 かくいう私は身近で
令和4年2月1日––––。 もっとも尊敬している人物が不帰の人となった。 尊敬や憧憬は、これからもずっとそうであり続ける未来進行形のものだろう。 憧れの人物がこの世を去るという事の喪失感は、こうも寂寥と脱力をともなうものなのか。 翻って、叱咤されるように志を引き継ぐ事を原動力にしなければと思う自分もいる。 こうもさまざま感情が入り乱れる。しかし、当の本人は生前自分の死に対して興味を抱いていたのは間違いない。 死生観について多くを語るなかで、自分の肉体
電車に乗っていたときのこと。 疲労感から足腰も痛く、「早く坐りてぇなぁ。席空かないかなぁ」と、吊革に掴まりながら暗い窓枠ばかりを眺めていた。 速度を落としながら車両が停車駅のホームに入ったとき、杖をついた盲者の男性とその隣に立つ介助者の方が見えた。 介助者の方は身内かヘルパーの方なのだろうと、そのときは思った。 電車の扉が開き、杖をついた盲者の年配の男性を若い女性が支えながら、どの乗客よりも最後に乗車してきた。おそらくそれも他の乗客への気遣いだったのだろう。
1月5日といえば・・・「瀧川一郎の誕生日だ!」ということに気付き(?)筆を取ることにした。明日なら名前の通り、1と6で一郎なのだが・・・。 昔、私のなかの4大ギタリストといえば、hide、屍忌蛇さん、今井寿、そして瀧川一郎だった。 瀧川一郎は、D'ERANGER(当該バンドではCIPHERと名乗る)、Body、CRAZEを経て、再びD'ERANGERとして活動しているギタリスト。 ギターや車の色、あるいは着用するシャツと、紫色を愛して止まない一郎だが、そんな妖艶
書籍紹介 漢語でも外来語でもなく、日本古来の独自の言葉である「やまとことば」の美しさについて記されており、勉強になる本。 頁を開いてまず思うのが、普通の本と違う意匠。文字色が黒でなく、紫色っぽくなっている。 大きく三章に分けられているが、各章ごとの節も細かく分かれていて、気軽に読み進めることができる。 ただ、第二章のひらがな50音の一文字一文字に込められた意味が述べられているが、これが少々単調で飽きてくる。 しかし、やまとことば(大和言葉)の美しさやだんだ
1 遠くにあると輝いて見えたものが、近くに寄るとただのモノクロだった。何が光っていたのかその物体すら認識できなかった。 空に浮かぶ星たちとは違う。そこにあるのに届かない。届かないのは星も同じ。 願ったものほど、遠くなる。ほんとうに好きな人とは結ばれないというのが、ある種人生の定石であるように。願いを超えてそうなると決めてしまえば、それはもう祈りという尊さとはすでに次元の異なる精神的観念となるはずなのに––––。 凍てつく春––––春なのに凍てつく。 ぼくがアメ
もう駄目かな・・・ 真っ暗な部屋の中で死を連想した時、必ず暗闇の中から現れる奴が居る。 強風の中、ふたり立っていたあの海岸の、あの荒れ狂う海の、灰色の景色とともに、そいつは俺の脳裏に端然と姿を見せる。 そして告げる。 「負けんなよ」 その言葉でこれまで何度か立ち上がって来られた。 もう一度会う日まで負けちゃいけないよな、と。 その彼とは半年しか一緒に居なかったが、その半年間、ほぼ毎日一緒に居た。 苦しいだけの日々だったのに、今となってはあの十代最後
日常の何もかもが無聊だった。 金曜日の夜、元也は七時に会社を出るとそのままアパートに帰る気にはなれず街中を歩き出した。華金だというのに何の予定もない。週末に会うような恋人も居ない。 途中、コンビニで缶酎ハイにつまみ、そして煙草とお決まりの三点セットを購うと一瞬の人工的な涼しさも束の間、また温くじめじめした夜道を歩き出した。 向かった先は、会社から少し離れた大きな公園。都会の中に介在する大きな森のような空間。 大学を中退した元也は、しばらくフラフラした後、代議
玄関を出た文太を午後の日差しが出迎えた。 背伸びをしながら、その眩しさを受け入れた彼は、郵便受けに届いていた封筒を手に取った。 「また不採用か」 先日面接を受けた会社の印字を見つめながら、嘆息した。 バイト先で封を開けることにして、手にしたものを鞄に仕舞い込むと自転車に跨った。 厨房はいつも忙しい。気を紛らわすようにひたぶるにフライパンを振り続ける。踊る食材を見つめながら。 そろそろこのフリーター生活から抜け出したい。 業務を終えて店を出ると、自転車で夜深の街を走り出
部活帰りのいつもの帰り道。 友人たちと別れて、一人入る夕暮れの細道。 たんたららん、たら、たらららららららら 白亜の家の二階から、いつも拙いカノンが聞こえて来る。 校庭でボールを追いかけて、泥だらけになったぼくに語りかけている気がする。 たんたららん、たら、たらららららららら 音はいつもここで途切れる。 ぼくの足も止まる。 見上げた窓に向かって、 「あぁ、惜しい」 その先の旋律を期待するように心の中で呟いて、ぼくはまた歩き出す。 たんたらら
映画『HURRY GO ROUND』の一場面。答えているのはもちろん、INAである。 「Ja, Zooはあれで良かったの・・・?」 10年以上、Xに関する書籍や映像に目を通して来たからこそ、この言葉の重みがわかる。得も云われぬような感慨を覚えさせられた。 映画『JUNK STORY』でもINAは同様のことを云っている。 hide不在の中、INAがどれだけ苦心しながら最後の仕上げまで持って行ったのかがこういった言葉に詰まっている。ファンのひとりとして、Ja, Z
【あらすじ】 伝説のヴィジュアル系バンドの解散から十年。バンドブームは去り、V系シーンも下火となっていた。 ロックスターになる夢とベースしかなかったぼく(日和)に転機が訪れたのはスタジオに張り出されていた一枚のメン募チラシ。やがてVo.の瑠衣とGt.の颯斗に出逢う。そこにDr.の忍を入れて、HEAVEN'S MONSTER(ヘブモン)を結成。 平成生まれのぼくらはどんなロックを描いて行けるだろうか。だが、順調に活動して来たバンドは瑠衣に起こった異変によって形を変えてしま