見出し画像

自然と動物倫理の対話篇

ソーちゃんの家では、夜な夜な野生のハクビシンが忍び込んで悪さをしている。これまで一度も対面したことのなかった両者だったが、ついに邂逅することに…!

ソーちゃん:うわっ!!(衝突)

ハクビシン:誰だお前。ここで何をしている?

ソーちゃん:まさか、ハクビシンに話しかけられるとはね!長生きするもんだよ。おまけにそれはこっちのセリフだ。

ハクビシン:やけに大きな空洞だと思っていたが、やはり人間の住処だったのか。おそらくお前は人間の年老いたオスだろう?

ソーちゃん:さすがのワシもツッコミどころが多すぎてどこから話したらいいかわからないよ。
 すまないが、ひとまず区役所に電話して君を駆除しようと思う。

ハクビシン:何だと!?貴様、何故そんなことをする権利がある?ここは俺たちの住処でもあるのに。縄張り争いなら、正々堂々やろうじゃないか。

ソーちゃん:君、人間は縄張り争いなんてしないんだよ。害獣を見たら1人で対処したりせず、専門家に来てもらって駆除する。ここは私の家だ。人間の法律でそう決まっている。

ハクビシン:まず害獣などという言い方を撤回すべきだ。我々がお前に何をした?それに法律というのは人間が我々の許可なしに勝手に決めたものだし、それは自然の摂理に反している。

ぼくって意外とかわいいんです。

ソーちゃん:なんと幸運な日だろう。これほど聡明なハクビシンと遭遇するとはね!ならば私も、生物の垣根を超えて真摯に対応しなくては。

ハクビシン:ぜひそうしてくれ。それでは聞くが、法律は人間がいつ何のために作った?

ソーちゃん:驚いた!おまけにハクビシンがこの私に哲学対話まで持ちかけるとは!10年早い気がするが、ぜひとも受けて立とう。
 法律とは、私の知る限りでは村や小さな国家などの共同体が初めて形成された時代に作られたもので、目的は私有財産の保護や治安の維持などだ。

ハクビシン:そうか。では自然界でもその法律が通用し、お前たちが勝手に決めた私有財産の権利を主張して動物を排除することができるのか?

ソーちゃん:私有財産の権利は人が人に対して主張するものだから、動物に対して主張することはできない。
 だが人間は憲法上、健康で文化的な最低限度の生活を保障されている。その一環で自治体は害獣駆除に協力してくれるのだ。

ハクビシン:では、人間は自分達の健康で文化的な生活と引き換えに、自然を破壊することが許されていると言うのか?

ソーちゃん:私は君の命まで奪うつもりもなく、ただどいてほしいだけだよ。すなわち自然の破壊にはならない。君とて、人間の家屋よりも良い環境に住む方が良いだろう。

ハクビシン:いや、人間の家屋はなかなか居心地が良くてね。都市部にはエサが豊富にあるが木が少なく、巣作りは困難を極める。だから人間の家屋に住まわせてもらっている。

自分で駆除しちゃダメ。見かけたら自治体へ。

ソーちゃん:君、先ほど私有財産は人間が勝手に決めたと言ったが、人間の私有財産を勝手に共有していいということも君が勝手に決めたのではないか?我々とて生活していかなければならず、君たちの糞尿で家屋を壊されては困るのだ。

ハクビシン:そうなったら、また違う住処を見つける。自然とはそういうものだし、我々もずっとそうやって住処を転々としてきた。そもそもこの家だって、自然から木やら土やらを拝借して建てている以上は、自然の摂理に抗うことはできない。

ソーちゃん:それでは君、むしろ君の主張の方が自然の摂理に反してしまうよ。

ハクビシン:なんだって!?どうして!?

ソーちゃん:つまり君は、ひとつの住処に2種類の動物が住んでいたとして、片方の種族がもう片方の種族を一方的に追い出すことは自然の摂理に反すると主張している。
 しかし私から言わせると、この主張自体が自然の摂理に反する。そもそも大きな動物は自分より小さな動物を食べて生きており、そのおかげで自然界のバランスが成り立っている。つまり、弱肉強食の理論は自然の摂理に適うといえよう。
 無論、強い動物が弱い動物の住処を襲い、追い出してしまうこともあるだろう。しかしそれも自然の摂理であり、ここで無理に強い動物を押し退けたところで自然界のバランスはむしろ偏ってしまうだろう。最もそれ自体とても困難だがね。
 どんな種類の動物も増え過ぎても減り過ぎてもいけない。各々に適した場所を選んで暮らし、各々の役割を果たすべきなのだ。

ハクビシン:一見理性的に語っているが、野蛮で残酷な考え方だな。それでは強い物が弱い物を支配するだけだ。争いはやめて、共存していくべきだろう。

ソーちゃん:おや?よもや忘れたわけではあるまい。先ほど私と出会ってすぐ君は「縄張り争いなら、正々堂々やろう」と言ってきたではないか。聡明なハクビシン君!

ハクビシン:くそう…さすがは人間の知性!!でも悔しい、悔しすぎるっ!!明日警察を呼んでやるからな!!

ソーちゃん:お前も人間の法制度に頼っているではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?