見出し画像

電子書籍「川べりからふたりは」出版に寄せて

 切ないけれど、あたたかい気持ちになれる小説が書けたらなあ。

 そんな思いで、大学ノートに下書きを書きはじめたのは、確か三年くらい前だったと思います。
 それまでも自分をモチーフにして、いろんなかたちの小説を書いてきました。でも、できあがる作品はどこか暗く、重く、ネガティブな色の濃いものがどうしても多くなってました。無意識のうちに、自分の「障がい」をそういうものとしてとらえていたからかもしれません。
 それでも、それなりに評価してもらえたのか、地元紙が毎月主催している短編文学賞で何度か賞もいただいて掲載されたり、今は廃刊になりましたが、地元タウン誌に掌編を載せていただいたこともありました。
 もちろん嬉しかったですが、「本当に書きたいのは、こういうのだろうか」という思いが常にありました。

 そんな折り、ある方から、ひとつ作品を書いてみてくれないかというお誘いがありました。
 すでに体調が悪くなりはじめていて、筆が止まっていた時期でした。少し迷った末、書くことにしました。じゃ、どういうのを書こう、と思った時、ふと頭をよぎったのが冒頭の思いでした。からだの調子も悪く、ふさぎ込むことも多くなっていたので、自分で読んでほっとするような作品を書いてもいいじゃないか。そんな思いをいだきつつ、ノートにボールペンを走らせはじめました。
 そうしてできあがった作品の評価は、まあちょっと微妙なものでした。でもこんなふうに書き直したらよくなるよ、とのアドバイスを受け、大幅に加筆訂正をしました。

 それが今回、電子書籍として出版することになった「川べりからふたりは」です。

「幼き頃に下半身まひの障がいを負い、車いすの身となった涼。ひとりで生きることを自らに課し、職場でも孤独に過ごしていた。ある日、いつもひとりさびしげにスマホを見ている同じ職場の奈美と、ふとしたきっかけから交流を深めていく。だが奈美にはある秘密と過去があった…。障がい者の生と性を描いた、淡き恋物語。」

 上はアマゾンでの説明文です。障がいを抱えた主人公、涼と、ある悲しい過去を持つ奈美が、ぎこちなくも少しずつ心を通わせていく物語。かたちは様々ですがこのふたりのように、葛藤を抱えながらも互いをいたわりつつ生きている方々が、この世界にはたくさんおられます。そんな方々にそっと寄り添えるような物語であれたら。おこがましいと思いつつも、読み返してみてそんな気持ちになっています。

 「これは篭田さんの魂です」

 今回の出版は、このメッセージをいただいたことからはじまりました。
 
 noteをはじめた頃、連載していた「川べりからふたりは」を読んでくださった、のぎさんの言葉です。
 のぎさんはこの言葉に続けて、ぜひ電子書籍として出版しませんか、とお誘いしてくださいました。まったくの思いがけないお誘いに、一瞬頭が真っ白になったのをよく覚えています。

 それからは、のぎさんの全面サポートで作業が進みました。全面サポートという言い回しは誇張でもなんでもありません。実は今回、私のしたことといえば本文データをお渡しして少し直しを入れたくらいです。それ以外の作業―表紙作成の手配、あとがきの依頼、実際の出版手続きなど―はすべて、のぎさんが行ってくださいました。だからこの作品は、のぎさんの作品でもあります。
 この場を借りて改めて、心からお礼申し上げたいと思います。
 のぎさん、本当にありがとうございました。

 もうひとつ、大事なことを。
 今回あとがきを書いてくださったのは、皆さんもうご存じ、ライター・エッセイストの碧月はるさんです。
 
 「この作品は、私にとってもとても大切なものです」。
 そんな言葉と共に、あとがきを書くことを快諾してくださいました。そして、できあがったあとがきを読みました。繰り返し数回。その数回とも読後に涙ぐみました。本文よりもずっと情感に満ちたあとがきです。これを読むだけでも価値があります。
 はるさんにも改めてお礼を。この作品を、涼と奈美を愛してくださり、本当にありがとうございました。

 これから自分が、どんな作品や言葉を紡いでいけるか、自分でもわかりません。
 体調は正直よいとは言えません。もう長い作品を書くのは難しいかもしれない。書いたとしても「篭田さんの魂です」と言ってもらえるようなものを、また書けるかどうか。今回を機に一区切りつけようか、なんて考えがちらりと浮かんだりもしました。
 ですが、もうひとりの自分の声が聞こえるんです。
 それでも、もう少しだけ、がんばってみようか。
 この作品を書いた時のように、自分の心を自分で癒せるような作品を、最期に書いてみようか。

 やはり自分は、これからも拙いながら書いていくことになりそうです。

 
 


 


いただいたサポートは今後の創作、生活の糧として、大事に大切に使わせていただきます。よろしくお願いできれば、本当に幸いです。