『日出処の天子』
山岸凉子作
1980年～1984年LaLa掲載

聖徳太子没後1400年の今年は、数々の展示会や特別拝観など目白押し❤️

現在、大阪市立美術館で開催中の『聖徳太子～日出処の天子』
では太子の二歳像から摂政の様子などの他に、現代に活きる太子像として、山岸凉子先生の原画も展示されています🎵

展示会の音声ガイドは声優の鳥海浩輔さん❤️
柔らかな優しい声がキュンです。
BLワールド⭐️アニメ編で紹介している『純情ロマンチカ』で
主人公美咲の恋人秋彦の兄、春彦の声を担当されています🎵

『聖徳太子』ってどんな人？

飛鳥時代の政治家
西暦574年～622年

僅か2才で「南無仏」と手を合わせたり、空を飛び日照りに雨をふらすなど、神がかりな言い伝えが多々あり、

幼少時代から仏門への視野が広く国が神道一途であった中、政治的な意味での仏教布教に尽力した。
蘇我馬子と協調し、若くして推古天皇の摂政となる。
「十七条憲法」「冠位十二階」の制定や遣隋使の派遣による他国の文化導入に力を注いだ。
現存する寺院仏閣の建築技術の基礎はこのころ百済職人の知恵を汲んだものといわれている。
生涯、摂政のままで自らが王位につくことはなかった。

聖徳太子とは諡号で、当時は厩戸皇子または厩戸王と呼ばれていた。（『厩戸皇子読本』藤巻一保著より）

✨✨✨✨✨

そもそも私が聖徳太子に興味を持ったのはこのマンガがキッカケ‼️主人公厩戸の王子の美しさと、恋に苦悩する人間くささに、ガーンとやられたのがキッカケ‼️

が、この作品ほどマンガの内容について賛美両論が取り上げられた例はないのではないか。
容姿端麗、特殊能力、同性愛者、となれば今でこそBL界ではドンピシャのヒロイン（受けキャラ）像だが、連載当時はあの「聖徳太子」を侮辱するという新聞記事が出回るほど。（最終的には新聞社側のお詫び文で決着）

では、山岸凉子の厩戸皇子が「聖徳太子伝歴」とどこが違うのか？

伝歴では、
【厩戸の母穴穂部間人皇女は厩戸の受胎を夢で告知され、懐妊して生まれて来るまでの間にすでに胎内からお告げを聞き、それを父の皇子と共に喜ばしく、誕生を待った。
ある日厩のところの前で急に産気づき、あっと言うまにお産は終わった。
妃も皇子も厩戸が不思議な力を持っているのは救世観世音菩薩が姿を変えてこの世に現れ出でたと信じて疑わず、これを称賛した。】
（『厩戸皇子読本』より）

伝歴では、望まれて生まれ、その超能力は菩薩の生まれ変わり故の喜ばしいこととされ、万人に敬まわれ、神と崇められた厩戸の王子。

しかし、この作品の主人公の厩戸の王子は持って生まれた力のせいで、敬れるどころか不気味がられ畏敬の的にされ、母にまで怖がられ愛情の欠片も与えられないと言う、孤独な少年として描かれる。

「愛など要らぬ。」と開きなおって蘇我の馬子や物部守屋を相手に得意の知識でやり込め、冷然として見下す。産み落としておきながら恐々と様子を伺う母を忌みきらい、挙げ句に世の女全てを蔑んで寄せ付けない。

ある日、蘇我の馬子の長子、毛人（えみし）は池で水浴びをする少女を見かける。思わず、目を反らす毛人だったが、実はそれは厩戸の王子であった。
霊能力を持て余し、度々邪鬼の襲来に嫌気がさした王子は禊に入った池のほとりで運命の人、毛人（えみし）に巡り会う。
どんな物音も気配も逃さないはずの王子の結界をスルリと通り抜けて来た毛人に王子は戸惑う。

その後、何度も無防備な姿を毛人に曝してしまう王子。

誰にも見せなかった無防備な姿を毛人は恐れることなく、寧ろ心配そうに見守り、時には無意識に手を差しのべるのだ。

絶対絶命と思われた雨乞いの時、毛人は王子を抱きしめ、手に手を取り合って雲を呼び寄せた。
唯一無二の存在と気づいてしまった王子の心はもはや、毛人無しでは生きられなくなってしまう…‼️

更に、毛人の心を掴んだ布津姫を無きものにするために、女装して殺そうとする姿は、恋に狂うひとりの人間そのもの。その狂おしいほどの嫉妬を、隠すことなくさらけ出す王子は、聖人でもなければ仏でもない。誰よりも身近な存在なのだ。

山岸凉子さんがなぜ、聖徳太子を書こうと思ったかと言う質問に、「怖い人だと思ったから」と答えている。

祟り神とも語られる聖徳太子。
数々の偉業を成し遂げたのにその最後は壮絶で痛ましい。
8人もいた子女はことごとく死に耐え、その血を受け継ぐ者は存在しないといわれている。

文庫の巻末
『隠された十字架』の著者梅原猛氏との対談で、山岸氏は
「聖徳太子というあまりにも伝説化された偉い人を読者が自己投影しやすいような人間的な欠点というか傷を負った存在にしてみた」と語っている。

折しも、1980年といえば、BL進化論（溝口彰子著）におけるBL創世記にあたり、『ポーの一族』『風と木の詩』をはじめとする耽美世界で生まれた男の子同士の疑似恋愛＝ホモっぽい題材が好まれ出した、少女漫画の過渡期である。

傷を負う欠点＝同性愛とすることで、読者の中の王子が守ってあげたい存在、もしくは隣にいそうなかわいそうなヒロインとして支持されたのかも知れない。

聖徳太子は実は存在しなかったという虚構説が囁かれる昨今。
だからこそ、こんなにも人間らしい、感情のままに生きたこの厩戸の王子を愛してやまないのである。そしてこの作品がもっと注目されるべきだと私は思う。
王子、大好きです✨