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New York Times ニューヨークタイムズ

Kevin Shields on My Bloody Valentine’s Return: Time Is 'More Precious' 

ケビンシールズ、マイブラの復帰について語る:時間のほうが ’もっと重要’

                ジェレミー・ゴードン 2021年3月31日

シューゲイザーのパイオニア、MBVの前作から8年、バンドはレコード盤を再発売、ニューアルバム2作を現在レコーディング中、そして作品をストリーミングサービスに入れる。

とてつもない大音量、極めてファジーなロックバンドMy Bloody Valentineのリーダーのケビン・シールズは、40年近くもの間 ”エキセントリック” と ”引きこもり”の異名をとってきた。だが本当はそうじゃなくてもっと… ほら ”mundane - ありふれた” のほかの言い方ってなんだっけ? 彼は妻のAnnaと一緒に食事を作りそして犬を2匹飼っている。Spotifyで音楽を聴いたりFrank Oceanが好きだったりする。詠春拳を練習する。アイルランドにあるだだっ広い彼の所有地を散歩することを好む。そこに生息する鹿の群れについて何か発見したらしい。

「すごく自身過剰な奴らって、犬の場所から10フィート以内まで寄ってきて、ハイピッチのノイズ音で、”で?どうするつもり?” みたいなことを言ってきたりするんですよね。」と最近のインタビューで語っている。

バンドは1990年代から、新たな写真撮影を行っておらず、シールズはカメラの前に現れることがなかったのだが、MBVは「作品カタログの大多数をストリーミングし、レコード盤の再発売を行う。グループは影響力のあるインディペンデントレーベルのDominoと契約し、新作アルバム2作を発表する予定」とプレスリリースすると話していた。

「もともとは、アルバム2作とも続けて録音し、そのアルバムのツアーをする計画だった。」「今年それをやる予定だったんだけど、すべてがすごく遅れてしまった。」

MBVは常に、全くもって独自のやり方でやってきているため、遅れているとはいえ、そのニュースは注目すべきことである。時にそれは国ごとに違うレコード製作工場を呼び出し、どの製造者がベストか、より特定の音を出せるかを確かめる事であったり、また、MBVがよしとしない音楽をリリースするよりは、レコードレーベルにシールズを訴えさせる方を選んだりすることだったりする。(それはMBVがアイランドレコードと契約後、10年近くニューアルバムを出さずにいた結果、2001年に実際に起こっている)

渦巻くギターサウンドを魔法で呼び出すかのように、 足元にあるペダルを見つめながらテクノロジーを操作するしぐさから ”シューゲイズ” と名付けられた、ギター音楽のドリーミーなスタイルを高めた事でとても知られている。また、バンドは姿を消すことでも有名である。2枚目のアルバム ”Loveless” を1991年にリリースした後、続作のうわさが膨らんでは散り、20年近くもの間ほとんど活動をしていない状態であった。ライブ公演で再結成した後、バンドは2013年前告知もせず真夜中にオンラインで新作 ”mbv” を発表、ダウンロードに群れ集ったファンで、バンドのウェブサイトは即時クラッシュとなり、人々を驚かせた。

この10年の間に音楽業界はストリーミングサービスへ移行したのに対し、“mbv”やバンドの初期のカタログの多くはデジタルでの入手ができなかった。ゆえにレコード音楽はボタンをクリックするだけで入手可能な時代では、ある意味新種のミステリーだったともいえる。「僕の姪や甥に文句をいわれるんだよ、友達に音楽を聞かせようと思ってもどこにも見つからないって。」とシールドは語る。「なんでそんなに人に知られないよう意図的に隠すの?ばかみたい、って。そういう事があって考えさせられたんだ。確かに、僕が見ている世界は実際の世界ではないのかも。自分が全く知らない世界がそこにあるんだって。」

MBVは80年代の始め、シールズとドラマーのコルムによって結成された。初期はとげとげしく憂鬱な、当時よくあるギターバンドだった。だが、数年後シールズはギタリスト兼ボーカリストのビリンダ・ブッチャーとベーシストのデビー・グージをメンバーに入れ、バンドの音を完全に再構成した。グループは、実際にオーディエンスを打ちのめしてしまうほどの大音量ライブ演奏で知られるようになる。アンビエントなギター本来が持つ音の可能性を探りながら、そのノイズを、次第に絶賛されることになる一連のリリース作品へ結びつける方法を習得していく。

“僕にとって、感じることがなければそれを音にしていくというのはとても難しい。それが僕の音楽に対する根本的な関わりみたいなものかな“

”Loveless”に続くレコーディングをいったいどのようにして待ったかという経験について質問され、emailでこう答えた。「忍耐は美徳、忍耐力が無いとこのバンドはやっていられません。(その間に)子供をもう2人産んで、フラメンコ舞踊をかなりやっていました。」

ソニーが90年代にクリエーションレコードから買収した後、MBVのバックカタログは、これまでソニーが権利を所有し管理していた。ソニーとの関係は友好的でないわけではなかったが、バンドは今後リリースする新譜の所有権は自身で所有したいと考えていた。「どうしてもメジャーレーベルではなくインディペンデントレーベルと一緒に仕事がしたかった。」とシールズは語った。90年代半ばに出会ったDomino設立者のローレンス・ベルとの交友から、Dominoとの契約をする決断へと進んでいった。「Dominoはインディペンデントとしてはこの上ない環境が整っていて、メジャーと同等の多数の仕組みを持っているのに、個人所有のレーベルなんです。」

ベルは、親交が始まって間もない頃からずっと何よりもシールズと契約したかったのだと言う。だが最終的に契約がまとまったのは、ちょうど英国がコロナ禍ロックダウンとなった2020年である。シールズの計画に対し、こう述べた。「彼は自分が何をやりたいかについて、非常に明確な考えがあり、彼には聞こえていて見えていて、ほとんどの人には理解できなかい何かを感じ取っているんです。」

バンドは“mbv”に加え、“Loveless” 、1988年の “Isn’t Anything” 、そして1988年から1991年の間にレコーディングされた一連のEPをコンピレーションアルバムとして、すべてをレコード盤で再発売する。北米圏では版権がWarner社にあるため、EPはデジタル版では入手できないのだが、 “mbv” も “Loveless” と “Isn’t Anything” とともにストリーミングサービスと世界中のオンラインストアに加えられる。 David Conwayをシンガーとして録音したバンドのもっとも初期のリリースについても、きちんとリマスターできた時点で再発売したい、とシールズは言う。

コルムもアイルランドに住んでいるが、ビリンダとデビーはイギリスに住んでおり、現在、バンドのメンバーは、いつシールズのホームスタジオに実際に集まりレコーディングを開始できるかを待っている状態である。もしそれが実現しなければ、リモートという選択肢を検討する。2枚のアルバムの1枚目は“暖かでメロディー重視”、2枚目はさらに実験的で、

彼の言う “これまでのとてもトラディショナルな”ライティングプロセスとは全く別に発展させた作品になるだろうと語った。

「意図的にはっきり言わないようにしています。」と、やや曖昧な説明をした後「言葉で言ってしまうと、誰かが「それ、凄くいいアイディアじゃない」って持っていてしまうのが嫌なんです。」新作リリースのタイミングについては、何も言わなかった。(ビリンダはメールに「私のボーカルはだいたい最後に録るので、一旦アイルランドに行きさえすれば、すぐにできると思います。」「おそらく年末までには完成すると思う。」と書いている。)

バンドの存在感はデジタルプラットフォームでは僅かであったが、若い世代はMBVを探し見つけだしている。ライブ観客は若い世代にカーブしており、コンテンツを発表してファン層を攻めていかなければならない時代にあって、シールズはそれを意外な嬉しい出来事として受け取っている。特定のタイプの音楽ファンはこれからもいて、いろいろ探し出してチェックするんでしょうね。若い人達に会うと、なんか「あ、未来に希望もてるな。」ってなる。彼らは聡明で生き生きとしている。」(彼の90年代の功績に対するノスタルジアが起こっていることについては、「それ把握するなんて実際は無理だから、ある意味面白いよね。」と述べた。)

シールズは “mbv” の発表後間もない頃、バンドが耳をつんざくような音量の演奏を行ってきた結果として、自身の聴覚がこのままずっと衰えていくのではないかと心配していた。(公演会場では耳栓を配布していて、これはお勧めです。)幸運にも、聴覚の衰えは止まり、バンドは大音量の影響が続くのを緩和し聴覚を犠牲にせずにすむ方法をなんとか見つけ出した。

「感じるということがないと、音へ結びつけるのが非常に難しくなるんです。自分と音楽との関連性において、根本的なことというか。ライブ演奏をやって、自分が体感しているのと同じことを観客が体験できないというのが、本当に不思議だったんですよね。」

長い間、MBVが新作をリリースするという事自体、可能性がほとんどないことのように扱われてきた。ベルは、とにかく時間がかかる事で知られているMBVとの契約が、その性質上不安定になることは承知していた。しかしシールズは新作リリースに22年もの間をまた空けるつもりは全くない。キャリア開始以降数十年間定期的にレコーディングを続けてきたポールマッカートニーのようなアーティストを話題に出し、また、ブライアンイーノと2018年にシングルを2作共同制作したことで、音楽づくりに対しもっと敏捷にアプローチする気持ちになった、と語った。

若かった頃のシールズは、25になる前に音楽的にピークを迎えなければ、と思っていたらしい。だがMBVがある程度成功に達した後は、時間という事に関して考えることをすっかりやめてしまったため、このような長期中断がある。それはもう昔の話だ。「時間が少しだけより大切なものになった。 “mbv” 後の次のレコードを作りたいと思ったときに、70とかにはなっていたくないしね。やるなら今やったほうがクールだと思う。」

本記事の印刷版は2021年4月3日付New York edition のC欄、6ページにヘッドラインA Shoegaze Band Known for Disappearing Reappearsとして掲載されています。

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