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「対話と決断」で成果を生む話し合いの作法(中原淳)


0 イントロダクション

 FBフレンズの何人かがこの本を読んでいて、おススメをしてこられたので購入だけしていたのですが、ちょっと手を付けただけでもすごくよかったので、その内容を少し紹介します。

 この本では話し合いを「人々が、ともに生きる他者と対話を行いながら、自分たちの未来を自分たちで決めていく(自己決定・決断していく)コミュニケーション」と定義しています。
 平たく言うと、話し合いを対話+決断→実行としています。

 これまで読んできた本では、対話についてはよく書かれていたのですが、次の段階の「議論」からの「決断」については、全くないわけではなかったのですが、自分の中でストンと腹落ちするまでではなかったのです。そのような中、本書では「決断の作法」まで書かれており、今までの中で一番すっきりまとまって入ってきたので、一部をご紹介しようと思います。

 とはいえ、対話の作法に本の半分くらいのページを割いているので、まずは対話のポイントはさらっとご紹介します。

1 対話のまとめ


・対話の8つの要素
①対話とは「ケリのついていないテーマ」のもとでの話し合いである
②対話とは「人が向き合って言葉を交わす風景」である
③対話には「フラットな関係」がよく似合う
④対話では「自分」を持ち寄る
⑤対話では「お互いのズレ」を探り合う
⑥対話とは「今、ここ」を生きることである
⑦対話では「自分を疑い、他者に気づく」
⑧対話は「共通理解」をつくりあげる

 8つの中で、まずは、「ケリのついていないテーマ」というのが一番気になりました。これは「それぞれの人々が問題の当事者だけれどもいまだ解決していない問題」…例えば、自分の職場でのもやっとした経験等…ということだそうです。しかし、それだけでなく、どのような「問い」を出すかが課題で、ヒントとしては、①自由に意見を自由に言いやすいオープンクエスチョンであること、②相手の脳裏に発言者の考えや思いが解像度の高い状態で思い浮かぶこと、③それぞれの参加者が過去に経験したことと関連があること、となるそうです。問いのつくり方のヒントとしては、過去・現在・未来の時間軸を入れること、仮定を入れること、ジレンマを問うこと、等の事でした。

 問い、と言えば、「良い対話をつくりあげるには、ファシリテータ―が「参加メンバーが本気でそうしたい」と思う意見を引き出すような「問い」を、最初に設定する必要がある。」というまとめがありました。
 この、「問い」というのがいつも悩ましく、自分の経験上、考えすぎて意見を言いにくくしている場合もあれば、簡単に表現しすぎて、盛り上がったものの、対話が雑談になってしまう場合もありましたので、よい示唆を得ることができました。

 また、割と周りを気にする自分が気になったのは、「対話では「何を言っても干されない」雰囲気を作る」でした。
 そのほか、「対話では、自分が抱く意見や価値観を持ち寄り、メンバーに向けて「そっと差し出す」ことが大切(べき論ではなく、自分はどう考えているか)」
「対話とは「自分は何もわかっていなかった」という無知の知を自覚する場である。だから、「自分の考えが正しいOR正しくなくてはならない」と議論する必要はない。」
 というのが心に残りました。 
 また、自分への戒めとして、「人は年を取ると話が長くなる…素材が増える、権力に甘える、フィードバックが来にくくなる」は、心にとどめておきたいものです。

 そして、次のステップへの考え方として、「対話を繰り返すと、メンバーとの間に共通の理解が生まれることがある。これが、次へのスタートになる。」とのことでした。

2 決断の作法


 対話は、「私は~と感じる」、決断は「私たちは~したい」さらにその先の「実践(行動)」こそが「私たちの成果」を規定するとのことで、5つのルールが提案されていました。
・決断の「5つのルール」
①メリット・デメリットを明らかにする
 対話が終わった後、案を2~3に絞り、それぞれのメリット・デメリットをマトリクスの表などにして見える化する。このとき気を付けたいのは「この世にゼロリスクは存在しない」
②多数決に安易に逃げるな
 多数決は、1位以外の意見をなかったことにするので、その後の実行する段階においては、メンバーの納得度は低くなる場合が多く、それは失敗につながる危険性がある。
③「誰が決めるか」を決める
 基本的には、「メンバーで話し合い、メンバーが決める」という方法でいく。しかし、「どうせリーダーが決めている」「意見を聞いてもフリに違いない」との疑いは生じやすいので、決め方に納得感を得られるようにしなければならない。ちなみに、人間は責任を取りたくないので、誰が決めるのかを明確にしない場合があるので注意。
④「いつ決めるか」を決める
 「いつまでたっても決めようとしない」「何も熟していないのに、急いで決めようとする」をしがち。具体的な事例により必要な時間はいろいろだが、目安は「意見が飽和した瞬間」。どうしても急いでいるときは、時間で区切る。
⑤「どのように決めるか」を決める
 全員で合意する、多数決、多段階での多数決、スコアで決める、評価で決める…等がある。
 承知しておかなければならないのは、実社会には、「正解」ではなく、「納得解」があるだけ。すべての人が納得する決め方はない。
  
 そして大切なのは、自分たちで決めたことには、自分たちで従い、実行し、成果を出すこと。どんな結果になっても自発的フォローは行う。また、このプロセスは、一回やって入終わり、ではなく、小さなことからでも実践して、うまくいけば「やってよかった!」うまくいかなければ対話→決断→実行、を繰り返していく。

 この中では、決め方を考えるということと、多数決は正義ではないこと、また、「納得して実行する」ということが、特に印象に残りました。
 また、対話は確かに大切ではありますが、「対話万能症候群/対話ロマンティシズム症候群」(対話だけやっても何も決まらない、対話が目的化している)に陥らないようにしなければならない、と思いました。

3 最後に

 対話では何も決まらない、からの、どうやって決めるの?の疑問に一定の回答が出ていたのが本書でした。一定の、と留保したのは、著者も言っているように、「決める」というのは、本当に大変なことで、絶対的に万能で、すべての人が納得するという決め方がないからです。しかしそれでも「正解」はなくとも、「納得解」を導き出すことのヒントがたくさんありましたので、そういう意味では、折に触れて復習したい1冊でした。また、読書会などで他の方の意見も聞きたいなと思いました。


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