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介護施設配属前の日本語研修にあるといいな!  ~利用者様とのやりとり編~

はじめに

 こちらのNOTEを見つけてくださり、ありがとうございます。
 日本語教師兼介護士として両方の視点から感じたことを介護の日本語研修に携わる方用にまとめました。私の経験がいつか巡り巡って介護の世界に良い形でかえってくるのでは?そんな想いから共有いたしました。
 「介護の日本語の教え方」ではございません。あくまでも情報共有です。

 勤務した施設数は8か所、介助に携わった利用者様374名、お世話になった介護職員の諸先輩方98名とのやりとりをもとに、研修に優先的に盛り込んだほうがいいものをご本人が特定できないよう一部加工した上で情報共有させていただきます。日本語研修に取り入れる上での支障は一切ありません。
 文章の時制は、私の経験話では過去形を用い、何度も誰でも起こるような経験は現在形で表記しています。また、ルビがついていたり、字が小さかったりして統一性がないですが、学習者用に作ったもの、講師用に作ったものそれぞれのスライドからコピペしているので、ご容赦願います。

 最後に、「この文章がおかしい」「表現がおかしい」など日本語講師としてマウントするのではなく、知らなかったことを吸収しようという姿勢で読んでいただき、授業に臨んでいただけることを願っています。
 ※「職員間のやりとり編」「利用者様とのやりとり編」に分かれています。


1.挨拶、自己紹介

 利用者様に自己紹介する機会は何度でもあるので、長いものと短いものを用意しておくといいと思います。大勢の前では少し長め、すれ違いざまでは短めなどいくつかのパターンがあるといいでしょう。初日から自己紹介はたくさん機会があるので。


 「あなた、新しい人?」「名前、忘れちゃった」と何度でもきかれることがありますので、「今日からここのスタッフになりました〇〇です。」とか「先日」「先週」「先月」などその都度入れかえて事実を伝えればいいです。
 職員の名前や顔もほとんど覚えていなくても「この人優しい人」ぐらいの感情は覚えていらっしゃることが多いです。
 「先月入ったの?あら~、私は一度も会わなかったみたいね」「何も聞いてないわよ」「〇〇さんより私に先に言いに来なきゃね」とかもういろんな反応がありますが、パターンを練習しておけばあとは現場でかなりの回数をこなすことになりますのでアッというまに上手になります。

 ご家族が相手だとかなり丁寧な言葉でお話したほうがいいですが、それは現場で慣れてからでも十分です。

2.文字

 ひらがな・カタカナは読み書きをしっかり練習しておいた方がいいです。特にカタカナは使用頻度が高いです。

1)カタカナ
 カタカナは利用者様の持ち物に名前を書いてあげたり、洗濯物をご本人に返すときにも読めないと返せませんので。面会や入浴の時間や曜日変更、美容院などその日の予定で移動介助する人の名前をカタカナでホワイトボードに書いているところも多いです。
 薬の名前もカタカナ表記がほとんどです。よく使う薬の名前は読み書きできたほうが現場も安心すると思います。EPA介護福祉士候補者の中には看護師さんも多くいるので、名前は聞いたことがある薬の名前もあると思います。なじみのある音からの薬名をカタカナで覚えるのもいいかもしれません。
 指示はメモ書きされていることが多く、薬の名前がカタカナで書いてあります。介護士のやっていい範囲の指示しかありません。私が勤務した施設でよく使われていたのがカロナール(痛み止め)、アズノール(褥瘡治療)、ラキソベロン(下剤)、インスリン(血糖値を一定にする)、ロキソニン(痛み止め)、パットリハパン、ポリデント、バルーン、リネン、メイバランス、ジュース、コルセットなどでした。

2)ひらがな
 旧かな(ゐ・ゑ)は名前でよく使用されていました。部屋の入口に名前が掲示されていたり書類などでも目にすることがありましたので日本語研修では必要だと思います。

3.1日に何度も声掛けする介助

 ベッドからの起き上がり、ベッド上での座位なども多い介助ですが、日本語研修で毎日おこなうには準備が大変なので椅子を使った練習がいいかと思います。椅子に座ったり、椅子から立ち上がるのは利用者様におこなっていただく動作の中では非常に多いです。車いすから便座に座る動作もこれに含まれます。椅子を使った練習をぜひお願いいたします。現場に配属されてすぐにでも活用できる声掛けなので。

 これらの動作をしてもらうための声掛けは毎日頻繁におこなわれます。
 「ちょっと足をひいてくれる?」「ちょっと頭下げるよ」「足に力入れて」「足、少し開いて」など表現はさまざまです。トイレや食堂への移動時、そしてトイレ介助でこの動作はよく行われていました。車いすの人だけではなく、談話室でソファーや椅子に座っている人にも上記の動作の声掛けや介助をおこなうことが多かったです。

4.認知症で多い諸症状とその会話(3つ程度)

 複数施設で使われていたパターンをご紹介します。配属先によって異なると思いますが、イメージはつきやすいと思います。

 一口食べて、またその繰り返しなので、ある程度の量で終了します。時間をかけすぎるのも疲れさせてしまうのでよくありません。エンシュアという高カロリー栄養ドリンクも一緒にお出しするところもあり、これは甘くておいしいようで利用者さんは好んで飲んでいらっしゃいました。

5.動詞は辞書形、ます形、て形が使えればOK

 丁寧な表現を使わない人も多く、申し出や促す際には「~しようか。」もよく使われていました。
例:「お水持ってこようか?」「そろそろ行こうか?」など
 

 動作の指示を常に待っている状態なので、動詞が聞こえないと転倒したり不安でパニックになってしまう場合もあります。利用者様は「〇〇さん」と呼びかけられてから最初の数秒ぐらいしか集中していないと感じました。なので最初に何を行動していただくのか伝えることが大事です。きちんと伝わらないと、事故につながる場合もありますので。
 耳が遠い場合もありますので、大きな声で最初に動詞が聞こえるよう伝える必要があります。
 ほとんど聞こえない人には「立つ」「座る」と辞書形でほぼ命令口調のようになってしまいますが、それでも行動してもらうことを優先します。
 敬意を示すのはそのあと、言語・非言語で伝えれば十分伝わります。
 利用者様は敬意を求めるよりも、「次に何をしたらいいか」という指示、促し、誘導を求めています。
 

6.よく使う動詞(対利用者)

 おしぼりを丸める動作は生活不活発病予防やリハビリになるので、午後のレク後やすこしゆったりと過ごされているときにお願いしていました。個人介護援助計画に記載している内容を実施していました。
 自動詞・他動詞
 介助の説明では自動詞「(ベッド)あがります」「さがります」、介助時の指示、依頼、促しは他動詞「足、あげてください」「おろしてください」
「(ご自分で)ペダルさげましょうか」「腕をまげて」「もって」「おさえて」などがよく使われていました。
 手短に、利用者様にしていただく行動を伝えることは丁寧な日本語より大事です。

8.誘導

「そろそろ昼ごはんです。食堂へ行きませんか」「行きますよ」「エレベーター前まで行きましょう」など次に移動していただく場所へと誘導していきます。

9.目標設定は小さく

 一連の流れでテキスト通りに会話練習をおこなうのではなく、さらに細かく区切り、小さい目標設定をするほうが汎用性があります。
 もしお手持ちのテキストがありましたら、その会話の中で体調確認している部分を見つけてください。介助前には必ず体調確認が必要ですから。

 目標設定として「介助前に体調確認ができる」としておけば、どの介助場面でも使用できるので汎用性があります。
 「お変わりないですか」「調子はどうですか」「具合はいかがですか」「~はまだ痛いですか」「痛くないですか」「寒くないですか」など。
 介護職員自身の目でも確認します。皮膚が赤くなっていないか、痛そうにしていないか、など。

 そのあとの目標設定として「これからおこなう介助の説明ができる。同意を得ることができる」としておけばこれもどの介助でも使えると思います。
 同意を得るのは容態によっては難しい場合もあります。「~を手伝いますがよろしいでしょうか」「~させていただきますね」など目を見てしっかりと伝える必要がありますが、日本語研修の段階では「~させていただきますがよろしいでしょうか」「~しますよ。いいでしょうか」など相手が言葉を理解し、反応できる状態であるという前提のもとでの練習でいいと思います。

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