レストランに行ったら、思いがけず自分の過去と現在に向き合った話

 皆さんは、「BAKERY RESTAURANT BAQET」をご存知だろうか。
 大きく赤いBの前にBAQETと書いてあるロゴが目印だ。
 一部メニューにもよるが、様々な種類の焼き立てパンの食べ放題が味わえるお店だ。

 本当は腹を満たすついでに、「この間、BAQET行ってきました! BAQET最高!」みたいな記事を書こうかと思っていたけれど、思いがけず自分の過去と現在の性格に向き直るきっかけになったので、書いていきたい。

 パンが大好きだ。というほどではない。だけど、最近はパンが好きになった。
 我が家にはトースターがないのも大きく影響しているのかもしれない。結婚してからは、夫の仕事が不定休というのもあり、弁当に詰めるための白米を炊くついでに、朝食用に食べる機会が多くなった。
 そして、トースターがないため、弁当がいらないときはパンケーキなどを食べていた。

 だけど、パンケーキは腹が膨れる。いろんな味付けが楽しめるが、それでもだいたい甘い。つまり、飽きたのだ。
 世の中にはフライパンでトースターを焼く方法があるらしいと知り、すぐに実践。
 ただトーストしただけの食パンのなんとおいしいことか!
 炙られたサクサクの外側、ふんわりとした内側の黄金比。サクッとふわっと。
 目玉焼きとベーコンにケチャップを掛けて挟んで食べる。パンはちょっと冷えていたけれど、間違いなく私が待ち望んでいた「食パン」がそこにはあった。

 それから、パンを食べるのが楽しみになった。
 スーパーに行けば、併設されているパン屋さんを覗き見る。
 食パン本体もくるみ入りとかレーズン入りなどバリエーションが豊富で楽しい。

 あるとき、テレビでBAQETが特集されていた。
 登場している人はBAQETで提供されるパンをひたすら食べて食べて食べていた。
 そんなにおいしいのか。そんなに食べられるのか。
 とにかく凄い量を食べているのが印象的だった。

 BAQETには、一度両親と行ったことがある。
 そのときは「おいしいけど、そんなにパンってたくさん食べられないよね」と結論を出したのを覚えている。
 パンはたしかにおいしいし、三口くらいで食べられるサイズ。だけど、たくさんは食べられない。
 そのときのことを思い出しながら、テレビに映る爆食を眺めていた。

 そして、今回。
 パンを食べたい。たらふく食べたい。という欲求と、テレビ越しに見た爆食を思い出して、行ってみることにした。

 今回赴くに当たり、自分に条件を付けた。
 思いっきり食べること。
 最近、ストレスを感じることが多い。
 妊娠もしているため、食べ過ぎは良くないが、その言葉さえもストレス。
 だから、今日くらいは全部忘れて、思いっきり食べよう。
 テレビに出ていたあの人みたいには無理だけれど。

 ランチメニューを注文すれば、自動的にパン食べ放題がついてくるシステム。
 ランチは「若鶏と彩り野菜のグリルプレート」を選択。付け合わせのポテトサラダはもちもちの食感。滑らかでじゃがいものクリーミーさを楽しめるもの。メインの若鶏はジューシーで、適度なスパイスが食欲をそそるものだった。

 おいしくはあったけれど、こちらはあくまで「副菜」。今回の目的はパンだ。
 パンは10種類が常備されている。
 まずトングで掴んだのは、ホールホイートロールとチーズフォンデュ風トーストとシュガーロール。
 ホールホイートロールは全粒粉のように中も茶色の生地。もっちりとした食べ応え。
 チーズフォンデュ風トーストはサクサクの生地の上に、濃厚なチーズが乗せられている。
シュガーロールはおそらく看板商品。上のざらざらとした砂糖の量が絶妙で、食感も甘すぎない甘みも両方楽しめる。

 テレビに出ていた方は大皿にたくさんのパンを乗せていたけれど、私には真似できない。食べ切れそうな分だけ取り皿に乗せて何度も往復する。

 和風チャパタは醤油味。お正月の餅を思い出す。
 トーストロールはシンプルで、それゆえパンのサクサク感を味わえる。
 ミルクロールは家庭では味わえない、ふんわり食感。
 ミニクロワッサンはパリパリで、表面のバターが堪らない。
 チーズロングはチーズのザラザラに旨味が凝縮されている。
 ヨモギロールはよもぎの匂いが口いっぱいに広がる。

 一通りのパンを全て制覇した。
 まだ、食べられそう。
 以前、家族と来た時はいったい何だったのだろうか。全然余裕で食べられるじゃないか。
 妊娠してからは、食べられる量が増えた自覚はあるが、それにしても食べ過ぎではないだろうか。
 だが、今回はたくさん食べると決めている。
 自制する気持ちを無視して、再びトングと取り皿を持ってパンの元へ。

 BAQETには、期間限定のパンもある。
 現在は、前述のチーズフォンデュ風トーストとショコラハートパイ。
 先ほどは並んでいなかったショコラハートパイを取って席に戻る。
 甘い。チョコ最高。チョコが練り込まれた生地の上に、追い打ちをかけるようにシュガーロールのようなザラザラ砂糖が乗っている。
 おいしくない訳がない。

 シュガーロールとショコラハートパイを求めてもう一度立ち上がる。

 そこでふと、自分の人生を振り返る。
 こんなに好き勝手しているの、初めてかも。

 私の両親はたぶん厳しい。というか、母が厳しい。厳しさに助けられたこともあるけれど、苦しいときもある。
 実家でおやつを勝手に食べることはなかった。ファミレスでも値段を見る習慣がついた。冷暖房も必要最低限。
 母は「お金がない」と言い訳するけれど、両親とも正社員でしっかりと給料をもらっているのに、お金がないはずがない。
 将来が不安で言っているのはわかるから、私も騙されたフリをしていた。

 そのとき癖が未だに抜けない。
 おやつを食べる習慣がない。仕事で疲れたときに摘まむ程度で、家にいるときはほとんど食べない。
 今回のBAQETで若鶏のプレートを選んだのも、メニュー一番ヘルシーそうで、お手頃だったから。

 それからもう一つ、好き勝手できない理由。
 太りすぎを心配している。
 女性にとっては普通の悩みだとは思う。食べ過ぎは太りすぎ。
 だけど、あえて言っておくが、私は妊娠する前は標準的な体型だった。BMIで20くらい。
 「いや、20はデブだろww」とか言う人は、全人類の敵だと思う。保健体育を学び直してきてほしい。

 標準ではある。わかってはいるけれど、やはりスマートな体型に憧れる。
 普段は炭水化物は少なめを心がけている。
 シュガーロールやショコラハートパイのような甘いパンだって、普段なら「太るから一つだけ」と節制する。

 だが、結婚して、夫に衝撃を受けた。
 彼は基本的に節制しない。人生で節制なんてほとんどしたことないんじゃないだろうか。

 たとえば、誕生日のケーキ。
 実家ではピースのケーキを一人一つ。好みがバラバラなので、ホールケーキよりピースの方が喧嘩もなくていい。
 それが、前回の私の誕生日。
 夫とケーキ屋さんに行き、ケーキを買ってもらうことになった。
 ショーケースの前であれにしようかこれにしようかと悩む私に、彼は一言。
 「二つ買えば?」

 

 誕生日ケーキって、二つ買ってもいいのか!
 私は雷が落ちたような感覚を味わった。
 お言葉に甘えて、二種類のケーキを買ってもらった。

 ケーキ二つ事件。それから、最近よく耳にする「チートデー」の概念。
 その二つが重なりあって、私は2回目のシュガーロールとショコラハートパイに手を伸ばすことができた。

 そして思う。
 今までたくさん我慢してきたな、と。

 妊娠中というのも、たぶん作用している。
 妊娠中は食中毒の危険性があるため、生ものを食べてはいけない。
 私は刺身及び寿司が好物なのに、それらが食べられない生活を強いられている。
 お酒も飲めない。ビールやハイボールが恋しい。
 仕方がない。それらを覚悟して妊娠した。
 だけれど、280日は長い。
 しかも、体重を増やしすぎるな、甘い物を食べ過ぎるなと医者から指導が入る。

 刺身も酒も甘味もダメの三重苦。
 辛すぎる。私の好きなものをたくさん我慢しなければならない。

 それがパンを選びながら、解き放たれた。
 ちょっとくらい、たまにはいいじゃない。
 好きなパンを好きに食べるくらい。
 もう大人なんだから、お金もある程度稼いでいるんだから。
 好きな時におやつを食べてもいい。何を買ってもいい。

 幼い頃から身についた習慣を、ここで一つ脱ぎ捨てて。
 ほんの少しだけ、自由になって。

 まだ食べられそうだけれど、ほんの少しだけ自制心を取り戻して、最後にもう一度ショコラハートパイを取る。
 甘さが身に染みる。サクサクの食感にやみつき。

 お会計は1,419円。
 たくさん食べたということももちろん、それ以上に心理的に解放されて元が取れた気分。

 今度来るときはショコラハートパイには出会えないだろう。
 だから、今度来た時は、また別のパンから元気をもらおう。


 

店の中で勝手に過去の自分と向き合うなど、お世話になりました。

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