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24歳で事業継承した僕が「ファミリービジネス」の強みを考えてみた

はじめまして。
石川県の能登で酒蔵を経営している数馬嘉一郎です。
24歳で約140年の歴史を持つ酒蔵を引き継ぎ、10年間経営してきました。

そんな僕が今考える「ファミリービジネス」について、今回は書きたいと思います。

<目次>
1. 参考にさせて頂いた、おすすめの2冊
2. はじめに、ファミリービジネスとはなにか?
3. 日本の経済を立て直すチャンスはファミリービジネスにあり
4. ファミリービジネスの強みを活かせ
5. 最悪な経営パターンはこれだ
6. まとめ

1.参考にさせて頂いた、おすすめの2冊
この文章は、星野佳路さんの著書「ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論」「星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書」を元に、僕が自分の経験や実感したことを書いたものです。
ご存知の方も多いと思いますが、星野さんは、星野リゾートの経営者で、ご自身もファミリービジネス経営者であることからファミリービジネスを研究されており、関する著書も数冊出版されています。


2.はじめに、ファミリービジネスとはなにか?
ファミリービジネスに関して、特定の定義は存在しないようですが、EUの定義では
・直接的・間接的な議決権の過半数を、創業者、または株式資本を調達した人、あるいはその家族のメンバーが所有している
・会社の経営と管理に、少なくとも1人の家族または親族の代表がかかわっている
とあります。

また、著書の中で、星野さんは、ファミリービジネスは「立ち上げリスクが軽減されたベンチャービジネス」と表現されています。
継いだ時の状況にもよりますが、「立ち上げリスクが軽減された」とは、その通りかと思います。あくまで「立ち上げリスク」であって、「運営や経営するリスク」は軽減されているとは一概に言えないこともポイントです。
また、「ベンチャービジネス」という認識は、後継ぎ経営者が持っておくべき大事な認識かと思います。
周りから「親の後を継いで安泰やね。」とか「レール敷かれていて、羨ましい。」とか言われた時期もありましたが、これはお門違いの認識ですね。

特に僕の場合は、24歳で跡を継いだこともあり、経営に継いては、一から学ぶ必要がありました。
後継ぎ経営者は、第二創業・第三創業のつもりで新しく企業を経営する認識で経営を行うことをオススメします。


3.日本の経済を立て直すチャンスはファミリービジネスにあり
 こちらは、著書内の文章の引用になりますが
“日本企業の約97%がファミリービジネスで、ファミリービジネスの底上げが日本経済の逆転のチャンスである。”
また、「ファミリー企業の業績が一般に、非ファミリー企業よりも良い」ということが統計分析などで明らかになったことから、近年注目が集まっている経営学の1つであるため、“ファミリービジネスの成功事例は、もっと共有されて企業経営底上げに活用されるべきである。”


4.ファミリービジネスの強みを活かす
僕の周りの経営者には、ファミリービジネスの後継ぎもいますし、起業された創業者もいます。
そういった方々と、日々のコミュニケーションでの発言や事業展開を比較しても、ファミリービジネスと非ファミリービジネスでは、経営スタンスが異なる印象があります。
それでは、ファミリービジネスの特徴や強みは何なのか?
今回は3つにしぼってお伝えさせて頂きます。


<星野佳路さんが定義し、僕も共感するファミリービジネスの強み>
①定期的にイノベーションが起きやすい
→基本的に親から子に事業継承されるため、30年に1度くらいの頻度で、トップが30歳若返る。それによって革新が起こりやすい仕組みがある。

②長期的視野での経営が可能
→非ファミリービジネスに比べトップの座を失うリスクが低く、自分の使命と会社の使命が一致しているケースが多いため、理念が代々共有しやすく、時間をかけた長期的視点でのビジネス展開が可能。

③自由に、機動的に意思決定がしやすい
→ファミリービジネスは、概ね大株主と経営者が一致しているため、株主と経営者間で発生するエージェンシーコストが小さい。
もちろん、全員に当てはまらないことだとは思いますが、僕は上記メリットを全て実感しています。

これら3つを、僕が経験し、実感したことを元に詳しくご説明させて頂きます。


①イノベーションが起きやすい
事業継承時は、ざっくり30歳ほど経営者が若返ります。30歳も年齢が違うと例え親と子であっても価値観や生きてきた環境が違うため、イノベーションが起こりやすいと言えます。

 一方で、個人的には、30年も同じ人が経営することに対するリスクや30年に1度のイノベーションでは、現代社会では不十分だと感じています。
※ちなみに、事業継承時の経営者の年齢が若い企業の方が業績が良いデータもあります。
経営者が若くして世代交代を行う理由には、先代の急逝・息子のクーデターの2パターンが多いそうです。僕の場合は、先代が別企業のトップになるという理由で、24歳で事業継承が完了しました。
 社会人経験が少なく、実務経験も少ない僕が経営してきた弊社は、結果として様々な変化を連続的に行ってきました。
※例えば、人事制度や労働体制の改定・コア事業の拡大・コア事業以外のスリム化・原材料のオール能登産化など


②長期的視野での経営が可能

経営には、短期的視野も長期的視野もバランスよく必要ですが、ファミリービジネスの経営者は、非ファミリービジネスの経営者に比べて1人の経営者の任期が長いという特長があります。
酒蔵業界は、ファミリービジネスが大半ですが、中には、持ち株会社や売却により他者資本で経営している酒蔵もあります。

 そういった方々とお話をする中でも感じるのが、「自分がトップの可能性が高い時期の長さ・跡継ぎ候補の明確さ=長期的視野の長さ」ということ。
※多少人によっては例外もありますが、概ね比例すると思います。
長期的な視点で経営を行うファミリービジネスで最も大きいと感じるのが、次世代やその次、またはその先までを視野に入れて、経営をされている方が多い点です。そして、先代や先祖の理念や想いを大事にしている方が多いです。
手段や方法といった行動は、時代と共にどんどん変化していって良いと思いますが、軸となる理念や想いといった「あり方」は変えない方が良いと思っています。
実際僕も、事業を継いだ感覚ではなく、先祖代々大事にしてきた想いを継いだと思っています。
著書内では、「スチュワードシップ(受託責任)」という言葉で表現されていますが「永続」に焦点を当てて、「つなぐ」前提で経営を行う意識が高い人がファミリービジネスは多く、社会や自然との調和を図り、社会貢献への意識が高い傾向があるそうです。
なぜなら、スチュワードシップを発揮している経営者や管理職は「経済的で個人的な行動ではなく、社会的で集団的な行動をとることによって幸福を感じる。」からです。
引き継ぐタイミングから「つなぐ」意識を持って経営に臨む事は、自分の代での役割を把握しコミットすることが出来るため「利己的な経営になりにくい。」という事実があると思います。

うまく経営を行っているファミリービジネスの経営者と会話をしても、利己的な発言をする人はとても少ないです。
「自分がやってきたことは、自分に返って来るとは限らない。」ファミリービジネスにおいては、自分のやってきたことが後継者に返ってくることが多いので、結果として、日々の意思決定や投資をより慎重で誠実なものにし、真摯な経営につながります。
加えて、「自分の使命と会社の使命の一致」することで、より真摯な経営を加速させていると感じます。


③自由に、機動的に意思決定がしやすい
「株主・経営者が一致している」
僕は本業以外に、出資して経営に参画している企業が2社あり、そこでの経験を通して、これは、めちゃくちゃメリットであることを痛感しました。

株主と経営者が別の人だと、「調整業務」「報告業務」等に時間が取られます。これは想像している以上の時間が失われると認識しています。

僕は人生において「時間」を最重要資源と位置付けているため、これはストレスになりますし、成果をあげる大原則に「まとまった時間が必要」だという点から加味しても、調整業務に時間を取られすぎるのは、抵抗があります。

時間を取られるだけならまだしも、時には、企業としての意思決定が遅くなったり、柔軟性に欠けたりと中小企業の武器になりやすい要素を失う危険性もあります。
これは、結果として競争力の低下に繋がります。

もちろん、全ての機能を自分に集約することはリスクもあるますが、事業継承の際には、スピードや柔軟性の強化、時間の確保という点から見たら自分が株主かつ経営者の状態にすることはオススメです。

ちなみに僕は、経営者になった後、数年かけて株式を100%自分に集約し、株主=経営者の状態にしました。

繰り返しになりますが、「株主・経営者」が一致しており、自由に機動的に意思決定ができること。

これは大きなファミリービジネスの強みです。
後継ぎ経営者はこれを把握して、意思決定や実行をスピーディかつ柔軟に行うべきだと思っています。


5.最悪な経営パターンはこれだ

上記では、強みやメリットにフォーカスして文章にしましたが、当然、弱みやデメリットを含め、気をつけなくてはいけない点も多く存在します。

① イノベーションのない経営
ここで、後継経営者に伝えたいのは「イノベーションや変革を行えない人は、後継のメリットを活かした経営ができていない」ということ。
であれば、業界のことや会社のこと、お客様のことを理解しているベテラン社員が経営を引き継いだ方が良いのでは?とも思います。
よく「先代にそう言われたから。」「先代に反対されたから。」という理由のみ(他の理由や自分の考えと一致している場合は除く)で、変化を拒む後継ぎ経営者に出くわしますが、そのような方はだいたい良くて現状維持、もしくは衰退をしているケースが多い。
先代に相談することは良いと思いますが、最終的な意思決定は、最終的に責任を取る経営者が行うべきです。

もっとも、意思決定は経営者(子)が行うが、最終責任(経営権や借入の保証人など)は先代にある、という経営者もたまにいます。

意思決定の責任感と本気度に雲泥の差が出ますので、早く経営権や保証人を自分に変える方が良いと思います。
ちなみに、僕は24歳で事業を引き継いだ時点で、代表権を唯一保有し、借入の保証人にもなりました。
以来、先代は、経営の相談をしても「お前が経営者やろ?自分で決めんかい!」と一切意思決定に口を出さなかったことは、今となっては有難いことです。
一度経営を譲った先代経営者が口を挟みすぎたり、意思決定を覆したりすることによって跡継ぎ経営者のイノベーションの機会を潰している事例は多く存在しています。
顧客や社員、企業にとってより良い状態となるための変化を積極的に行わないことは、ファミリービジネス後継ぎとしての役割が発揮できていないと思います。
事業継承される際には、イノベーションを行う前提で準備されることをオススメします。

② 短期的視点の経営
短期的視点の取り組みや継続性が低い意思決定や目先の利益にとらわれた意思決定が、時には現場社員さんたちの混乱を生み、かえって業績を低迷させるケースも見てきました。
非ファミリービジネスの経営者は決められた、あるいは一定の任期の元で成果を出す必要があるため、短期的な成果へ目線がいく事は必然とも感じます。
もちろん短期的視点での成果の追求、取り組みや改革も必要ですが、同時に長期的に変革やイノベーションに取り組めるという点が、ファミリービジネスの強みの一つであるといえる以上、自分では気づきにくいことかもしれませんが「自分の代のことにフォーカスした、利己的かつ短期的視点での経営」は、強みを活かしていない経営と言えます。
社員さんの立場からしても、任期が決まっている、または、社長交代の可能性が高い経営者の長期的な施策にはコミットしづらいでしょう。


③ スピード感がない経営

ファミリービジネスは、基本的に「株主と経営者(一族)が一致している」ことが多いと思います。
これは、スピードのある意思決定や経営展開ができる大きな要因です。

特に時間をとられるのは、株主と経営者が異なり、さらに価値観が全然違う人が混ざっている場合や、経営したことがない人が経営に口を出してくるケースです。

中には、足を引っ張ってくる人がいることもあります。
本来とるべき意思決定や実行がしたくてもできない状態は、最悪な経営です。

知り合いの経営者がまさに足を引っ張られているのですが、コミュニケーションコストがめちゃくちゃかかっているのに加え、メンタルが怒りや悲しみといったネガティブ方向に持って行かれます。

 「スピード感がある意思決定と実行」これを発揮しやすいのが、ファミリービジネスであるということです。


6. まとめ

星野佳路さんの著書には、ファミリービジネスならではの課題や留意点もいくつか記載されていますが、今回は割愛しています。

ファミリービジネスに関して改めて整理してみると、結局はファミリービジネスであろうと非ファミリービジネであろうと、より良い経営に必要な考え方は共通していること。

つまり、「経営の原理原則は、普遍的でどのような属性の企業にも必要である」ということを再認識させられたと同時に、ファミリービジネスが経営に必要ないくつかの要素を発揮しやすい環境があるということが分かりました。


最後までお読みいただき、誠に有難うございます!始めたばかりで、不慣れなことが多いですが「スキ」ボタンを押していただけると励みになります!