見出し画像

介護用ベッド市場でシェア30%、後発ながら業界第2位!株式会社プラッツ〜医療・介護系企業分析シリーズ 17

記事の構成:
1. 会社概要
  - 1_a 歴史・沿革
  - 1_b 事業内容
2. 介護・医療用ベッド事業
  - 2_a 自社分析(売上・利益、KPI)
  - 2_b 市場分析
  - 2_c 競合と自社ポジションの分析 
3. 評価
  - 3_a 現状に対する評価
  - 3_b 今後取るべき戦略

1. 会社概要


1_a 歴史・沿革
 同社は1992年7月、有限会社九州和研として福岡県春日市において創業した。1995年に株式会社プラッツへと名称を変更し、1997年から現在の主力事業である介護用電動ベッドの製造販売を開始した。2000年から始まった介護保険制度を追い風に販売を伸ばし事業を拡大していった。2011年6月期には年間4万台の販売を達成し、介護用ベッド市場において台数シェアで30%(業界第2位)のポジションを占めるまでとなった。2015年3月に東京証券取引所マザーズ、福岡証券取引所Q-Boardに上場し、近年は海外市場・医療用ベッド市場への展開を狙っている。

1_b 事業内容
 医療および介護用電動ベッドの製造販売を行なっている。台湾資本の在ベトナム企業である「SHENG BANG METAL」に金属加工を委託し、連結子会社である「PLATZ VIETNAM CO., LTD」において組立と品質検査を行い、日本に輸入するという生産体制をとっている。国内では(1)福祉用具流通市場(2)高齢者施設市場(3)家具流通市場という3つのセグメントに対して販売を行なっている。

 福祉用具流通市場とは、介護保険制度における介護用品レンタル事業や販売に関する市場であり、主な販売先はレンタル卸業者と介護保険認定業者となっている。介護保険制度によって福祉用具がレンタル制度となったことを背景に、同社は当時20万円前後が相場であった在宅介護用ベッド市場に対して10万円以下の製品を送り込み、それによって後発企業でありながら大きなシェアを獲得し成長したという歴史がある。

 医療・高齢者施設市場とは、介護保険制度における高齢者施設の設備に関する市場であり、主な販売先は医療機器または施設設備の販売会社となっている。
 家具流通市場とは、介護保険制度とは関係のない一般の家具流通市場に関連する市場である。また、海外市場は東アジアに関連した市場であり、高齢化の進展度合いから中国が最重要市場となっている模様である。

2. 介護・医療用ベッド事業

2_a 自社分析(売上・利益、KPI)

 2006年と2016年は介護保険制度の大改正によって販売台数が伸び悩んだものの、2000年から始まった介護保険制度を契機に順調に販売台数を伸ばし売上は順調に推移している。

また売上高の構成をみると、福祉用具流通市場におけるものが7割強を占めている


 主要KPIである介護用ベッドの販売台数についても直近5年間においては介護保険制度改正の影響が大きかった平成28年度を除くと上昇傾向にあった。またこれまで長期的に販売台数が伸びてきたことも推察される。(薄水色部は不明値)

2_b 市場分析
 同社の競合の一つであるパラマウントベッドHDによると、医療・介護用ベッドの市場は以下のようなセグメントに分類されて、全体でおよそ330万台ほどの規模であるとされる。パラマウンドHDによると今後は「介護保険在宅サービス利用者」層が拡大すると見込まれ、2025年には現状383万人から463万人(1.2倍)まで伸びる予想である。介護保険在宅サービス利用者に占める介護用ベッドレンタル利用者の比率を仮に一定とすれば、「介護用ベッドレンタル利用者」層は94.8万人程度(1.2倍)にまて拡大するとみていいだろう。


 また上記をベースに一年あたりの市場規模感を算出することもできる。FISCO社による企業調査レポートによれば、(1)病院や有床一般療養所における更新需要は年間10万台、(2)高齢者施設における更新需要は年間8万台ほどであるという。また、介護用ベッドの更新サイクルを仮に7年とすると、(3)介護用ベッドレンタル利用においては年間11.2万台ほどの需要があると見込まれる。株式会社プラッツのメインの顧客層は上記(1)〜(3)であることから、それらに注目して図示すると以下のようになり、年間更新需要は水色部のように表示される。

 また金額ベースの市場規模については、医療機関を対象とした商品の平均単価を50万円、高齢者施設向けを37万円、在宅介護向けを10万円と仮置きすれば、それぞれ500億円、296億円、112億円ほどの規模であることが見込める。現状同社が強みとするのは介護保険在宅サービス利用者を対象とした市場であるが、上で述べたように台数規模が2025年までに1.2倍に拡大することを考慮すれば、金額ベースで年間134.4億円ほどの規模まで伸びることが予想される。

2_c 競合と自社ポジションの分析
 ダスキンヘルスレントをはじめとした介護用品・福祉用具のレンタル事業者の取り扱い製品から、株式会社プラッツの主な競合としてはパラマウントベッド株式会社、フランスベッド株式会社、株式会社ランダルコーポレーション、シーホネンス株式会社の4社が挙げられる。それぞれの基本的な情報は以下の通りである。


 自社のポジションについては、販売市場ごとに大きく異なる。(薄黄色部が自社のシェアを表す。)

 医療施設向け市場においては、同社のシェアは1~2%と見込まれ、8割から9割をパラマウントベッド株式会社、フランスベッド株式会社、シーホネンス株式会社の3社に占められている模様であり、寡占市場における小規模プレイヤーとして厳しい状況であることが推察される。
 一方で、高齢者施設向け市場、在宅介護向け市場においては同社はそれぞれ15%、30%ほどのシェアを獲得しており、比較的優位なポジションを取っている。とくに在宅介護向け市場においては後発ながら業界第2位のポジションであり、これが現時点における同社の最大の強みである。福山代表取締役会長は、後発ながらここまで成長できた要因として、介護保険制度がはじまった2000年以降競合各社が20万円前後で介護用ベッドを製造販売していたのに対して、同社は10万円以下で製造販売を行なっていたという価格差を指摘している。また近年の同社の会社説明資料においても、製品の価格差を訴求点としていることが窺われる。

3. 評価

3_a 現状に対する評価
 上で述べた通りではあるが、医療・介護用ベッド市場における後発企業である同社の成長の源泉は、「競合製品との価格差」であったものと思われる。しかしこの優位性は徐々にではあるが失われつつあるというのが本レポートにおける見立てである。大手レンタル事業者ダスキンヘルスレントの取り扱い製品を見ても価格差は最大で5000円ほどである。(メーカーごとの平均価格はプラッツ7550円、シーホネンス9417円、パラマウントベッド10575円)一見大きな価格差のように思われるが、ユーザーが実際に負担するのは介護保険制度によって1割なので、最大でも月500円ほどの差である。またレンタル事業者のカタログを見ても、製品を選ぶ際には「どういった機能か」という視点が重要視されているようである。介護保険制度がはじまってほぼ20年が経過しようとしているなか、競争の肝が価格から機能へとシフトしているというのが本稿における仮説である。そしてこれはこれまで価格競争によって優位を保ってきた同社にとって好ましくない状況といえるだろう。
 また同社のもうひとつの強みとして「ユーザー視点の製品開発力」も指摘しておきたい。一昔前までは「介護ベッドといえば白」という暗黙の前提があったなか、「白ばかりで家で使いたくない」といった顧客の声を元に、2001年に業界初の木調介護レンタルベッドを製造した企画開発能力は特筆すべき点である。とはいえ、介護用ベッドというフィールドにおいてこうした製品イノベーションが持続的に生まれるとは考えづらく、同社の製品開発力が今後も医療・介護用ベッド市場において優位性の源泉になるかどうかは不透明な部分が大きいといえるだろう。
 そうした状況のなか中期経営計画においては今後の方針として以下が提示されている。


①既存事業の拡大(介護レンタル市場のシェア拡大と高齢者施設市場の強化
②新規事業領域の拡大(病院向け営業のエリア拡大・中国、その他アジアを中心とした海外市場の拡大・医療介護ベッドの商品製品やセンサー、IOT系の新規製品の取り組み強化・サービスや介護保険外の新規ビジネスの取り組み強化)
③製品コストダウン(既存商品の継続的なコスト削減と新商品の開発コスト低減)
④生産性の向上・業務効率アップ


 ①に関しては既に述べたように、優位性が失われつつあるなかこれ以上シェアを伸ばしていくのは難しいという見立てである。レンタル事業者も、複数メーカーの製品を同時に取り扱い、消費者目線では機能が重視されるという構造は今後も続くであろうことから大きな伸びは期待できないと思われる。
 ②に関しては、論点が複数存在する。まず医療機関向け市場におけるシェア拡大については、現時点でシェアの8割から9割をパラマウントベッド株式会社、フランスベッド株式会社、シーホネンス株式会社の3社に占められているという寡占状態であり、同社のシェアは極めて低い水準であることからして、ここから大きくシェアを逆転していくのは難しいという見立てである。それ以外の、中国、その他アジアを中心とした海外市場の拡大・医療介護ベッドの商品製品やセンサー、IOT系の新規製品の取り組み強化・サービスや介護保険外の新規ビジネスの取り組み強化に関しては、基本的に不透明な点が大きいため評価は困難だが、今後の成長を期待できるポイントはここにしかないと思われる。
 ③④に関してはこれまでから取り組んできたことであると推察され、今後も引き続き取り組んでいくことが必要だが、大きなインパクトには繋がらないと考えられる。

3_b 今後取るべき戦略
 現状に対する評価で述べた通りであるが、今後同社が持続的に成長していくためには、中国、その他アジアを中心とした海外市場の拡大・医療介護ベッドの商品製品やセンサー、IOT系の新規製品の取り組み強化・サービスや介護保険外の新規ビジネスの取り組み強化が欠かせない。現時点での取り組みとして上海偉賽智能科技有限公司との業務提携があげられる。これによってアジア市場の拡大とIOT製品の開発を狙っている。今後もこうした海外市場への取り組みとIOT製品開発の動きを追っていくことが必要であろう。

医療・介護の企業様向けに、経営コンサルティング・M&Aサポートサービスを提供しています。 本領域への投資を検討中・投資後のPEファンド様のサポート(デューデリジェンス、PMI)も行っております。 お気軽にお問い合わせください。 HP:https://kaigokeiei.biz/