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介護保険制度のいま昔 ヘルパーの生活援助が厳しくなった背景にはこんな黒歴史が!!

ヘルパーがしてくれることは大きく分けて2種類あります。

ヘルパーができる家事支援

1.直接身体に触れて行う身体介護

着替え 洗面 排泄(トイレ介助・オムツ交換など)の介助
食事 水分補給 入浴 足浴 清拭の介助 服薬介助 車椅子への移乗・移動介助 歩行介助 買い物同行 通院の付き添い 
その他 刻み食などの特別な調理 
排泄に関わるポータルトイレの掃除など


2.家事を助ける生活援助

掃除 洗濯 調理 食事のあたため配膳 買い物 布団干し ゴミ捨てなど(あくまでも本人のものだけ)

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身体介護に関してはみなさん理解しやすいのですが、はじめてヘルパーさんに来てもらうときに分かりにくいのが、2.の「生活援助」です。
ヘルパー事業所さんとのトラブルは直接的な「身体介護」よりも、関節的な「生活援助」でより多く起こっています。
「生活援助」は基本、同居家族がいる場合には提供できません。
 ※例外的に認められる場合もあります

ヘルパーができない家事支援

・介護を受けられているご本人以外の家族の洗濯、調理、買い物、布団干し、玄関マット干しなどの家事援助

・介護を受けられているご本人以外が使用している場所以外の掃除(使わない部屋 上がれない2階のトイレ、ディサービスで入浴しているので使用していない浴室など)

・来客のためのお茶出し ・車の洗車 ・犬の散歩

・植木の手入れ、草むしり ・仏壇の掃除 ・神棚のお供え
※日常的に行われる家事の範囲をこえる支援もできません。

・家具の模様替え、電気器具の移動、修繕(電球の交換を含みます)

・年末の大掃除 窓ガラス拭き 床のワックスかけ 電気の傘掃除

・家具の修繕 ペンキ塗り

・正月、節句などのために特別な手間をかけて行う季節のイベント料理(おせち料理も、かしわ餅も、恵方巻きを作るのもダメ!)
 
・銀行、郵便局での預貯金の出し入れ、振込など

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市町村によって多少の違いはあるものの、上記がおおむねヘルパーさんに禁止されている行為です。ひとり暮らしのお年寄りの家の電球ぐらい替えてあげても……という気持ちにもなりますが、立派な介護保険法違反です。

監査で発見されるとヘルパー事業所は売上金の返還を迫られることになります。

どうしてこんなに厳しくなったの?介護保険の黒歴史

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訪問介護による生活援助が厳しくなった理由としては、介護保険法が制定されたばかりの頃に家政婦さんの代わりのようなことをして、税金や保険料を湯水のように費やしたという背景があります。

~2000年まで
介護保険法開始の準備段階。この頃は家政婦さんと訪問ヘルパーの区別は曖昧でした。調理や洗濯、掃除の支援にご本人の分と家族の分という境界線はなく、庭の草むしりやタンスや家具を動かしての大掃除などもやっていた「何でもあり」の時代です。

2000~2005年頃まで 
介護保険のジェラ期と呼ばれる時代。現在のように「介護保険は必要に応じて計画的に使いましょう」という方針ではなく「とにかく沢山いっぱい使ってこの素晴らしい制度を世の中に広めましょう!」という指針。
恐竜のように生まれたての制度が暴走し、要介護高齢者の家事支援に莫大な保険料がつぎ込まれました。

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2005~2010年
さすがにこのままでは財政がヤバイ!ということで、生活援助の基準も再度、見直されてきます。原則、同居家族がいる場合には家事支援ができないことになっていますが、その基準は今よりゆるく、要介護者の使う部屋の掃除だけはできる。日中家族が仕事をしていれば本人の分だけのご飯は作れる。要介護者の夫または妻も高齢で家事が困難なら手伝ってもらえる。   

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引用元:2009年 厚生労働省より
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0926-6.html

2010年以降~
介護保険法は3年ごとに見直され、改正があります。ここからは法改正ごとにだんだんと厳しくなり、子と同居していれば子が就労している、していないに関係なく生活援助は完全に利用できない。高齢の夫婦ふたり暮らしでも、両方が介護認定を受けていないと生活援助ができないなど。2019年の法令改正ではさらに、ひとり暮らしでも、同居人が要介護者でも障害者でも、生活援助に入る回数そのものが制限されるようになりました。

【厚生労働大臣が定める訪問介護における生活援助の回数】

 ※生活援助の時間は45分未満か60分未満になります 

要支援   週に  3 回まで
要介護1   月に 27 回まで
要介護2   月に 34 回まで
要介護3   月に 43 回まで
要介護4   月に 38 回まで
要介護5   月に 31 回まで
※ケアマネージャーさんがケアプランを市役所に提出して認められれば越えても可

そして、二世帯住宅、同一敷地内の建物に家族が住んでいる場合も『同居家族がいる』とみなされ、生活援助が受けられなくなります。

これからの家事は、自立支援のための見守り的援助

では、訪問ヘルパーさんから必要な家事支援を受けるには、いったいどうすればよいのでしょうか?

介護保険法 第四条 
国民は要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。※一部省略
2019年の法令改正のその後、訪問介護の生活援助は介護保険の原点に立ち帰りました。

それは『自立支援』です。

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団塊の世代が後期高齢者の年齢に到達する2025年に向けて、いま介護保険の財政はパンク状態です。
ご家族ができることは、働きながらでもご家族にしていただきたい。
そして、たとえ要介護状態になったとしても、できる家事は支援を受けながら、可能なかぎり自分で続けてください。それがこれからの国の指針です。

たとえば
・軽い認知症で、声掛けがあれば洗濯物を干したりたたんだりできる。
・立位が不安定だが、すぐ手が届き支えられる範囲で見守ってもらえば台所に立って調理ができる。

見守りや声かけなどの支援があれば家事を継続できる方を対象に、訪問ヘルパーが一緒に家事を行う『自立支援のための見守り的援助』という新たな身体介護のサービスが導入されています。
※寝たきりなど重度の方には困難かもしれません

『共に行う家事』という身体介護は2000年代前半から実施されていましたが、さらに進んだ自立支援を促しています。

そして、自立支援に基づくサービスを提供したヘルパー事業所は、1時間224単位の生活援助を行った倍近くの395単位か算定できます。

ヘルパーさんに手助けしてもらいながら、家事をおこない、身体と頭を働かせることはIADL能力を維持・向上させることにつながります。
身体機能の維持にも認知症の予防にも最適な生活リハビリになるのです。

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※自立支援のための見守り的援助はヘルパーと要介護者が同じ部屋、同じ空間で同一の作業をするときのみ算定できます。

たとえば
○ ヘルパーが洗濯物を取り入れて手渡し、要介護者がそれを受け取ってたたむ。
○ 立位不安定な要介護者をいつでも支えられる位置でヘルパーが見守り、台所に立って調理してもらう。

× ヘルパーが洗濯物をたたみ、要介護者が隣の部屋で掃除をするなど、それぞれが別の部屋で別の作業をするときは算定できない

さらに2021年度介護報酬改定にむけて、介護業界における業務のICT化、AIの導入なども推奨されています。

令和3年度介護報酬改定の主な事項について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000727135.pdf

これからの家事は、お掃除ロボットの活用や、仕事中に家族さんが遠隔操作で高齢者の自宅の室温調整ができるなど、スマート家電を活用する機会もより増えていくのかもしれません。

そして、ボランティアさんや、シルバー人材センター、食材の宅配や配食弁当、移動スーパーなどの地域で活用できるサービスも充実してきました。
インフォーマルと呼ばれるこれらのサービスを介護保険と合わせて利用することで、さらに生活も豊かになり地域での助け合いの和も広がってゆくことでしょう。

まとめ


・訪問ヘルパーさんの支援には、入浴、排泄、食事の介助など直接身体に触れて行う身体介護と、掃除、洗濯、調理などを支援する生活援助の2種類がある。

・ヘルパーさんの生活援助は『できること』と『できないこと』があり、その基準は年々厳しくなっている。それには、必要以上の家事支援を行なって介護保険料を膨大に費やしてきた歴史がある。

・これからの時代は生活リハビリも兼ねて、できる家事はヘルパーさんと一緒に身体を動かして要介護者の皆さんも参加していきましょう

・スマート家電 AI家電の活用による家事負担の軽減。ボランティアや移動スーパーなど地域資源の活用。
そして、忙しい家族も工夫して家事に参加しましょう。

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時代が移り変わり、高齢者の家事は訪問ヘルパーさんや女性だけが担うものではなくなりました。
要介護状態になった高齢者ご自身も、お仕事をしている息子さんや、子育てで忙しい娘さんにも参加することが望まれています。
これからの時代は上手にIT技術を取り入れて、地域で助け合い、便利にスマートにみんなで工夫して家事を分担していきましょう!

フッターB


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