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社会心理学は社会に提言できるか(3)

第3弾です
2021年8月開催の日本社会心理学会第62回大会の「新型コロナウィルス1・2」セッションでの質問への回答第3弾です。他の回答はこちらから御覧ください。

現状の社会心理学から、新型コロナ対策にかんして何かしらの提言(社会的提言、政策提言)などをすることは、どの程度まで可能/適切と考えますか。Covid-19パンデミックに対して、社会科学の知見を積極的に発信するべきという立場と (Van Bavel et al., 2020など)、それらの知見はまだ頑健性や一般化可能性が低く、慎重であるべきという立場があるように思われます(IJzerman et al., 2020など)。新型コロナに関係する研究をされている立場から、ご意見をいただければ幸いです。

岡田 陽介さん(拓殖大学政経学部)

新型コロナウイルス感染拡大と投票参加:
緊急事態宣言は投票率を引き下げたのか?

岡田 陽介 拓殖大学

回答
平石先生,ご質問ありがとうございます.私個人として,また,今回の報告内容から言えることとしてご回答いたしますと,積極的な提言ということについてはやや慎重な立場をとった方が良いのではと考えます.

今回の報告では,緊急事態宣言の1回目と2回目以降では,人々の意識や行動が変化したことが推測されるものでした.これは,(ないことが望ましいですが)今後,緊急事態宣言が繰り返し発出された際には,やはり変化が生じる可能性を含んでいるということになろうかと思います.そうすると,現在進行形の新型コロナウィルスの感染拡大に対して,現時点で頑健な結果であり,それを基に提言を行ったとしても,後の変化した状況において果たしてそれが意味をなすものとなっているのか(さらには,負の影響を与えうるものになっていないか)という問題が生じかねないと考えます.もちろん,目の前の問題解決に研究の知見が利用可能であるならば積極的に提言を行うことに意義はあろうかと思います.ただし,より長期的な(しかも現在進行形の)問題解決への提言という点では,やはり慎重である方が望ましいと考えます.

他方,そうした中でも,(変化を含めて)現状を記録する,また,し続けるという意味での研究蓄積は,とても重要なことではないかと思います.
うまくまとまらず,ご質問の回答になっているかわかりませんが,回答とさせていただきます.最後に,セッションを通しての質問に回答するという機会を頂戴できましたことに感謝申し上げます.

平石の返信
ご回答いただき有難うございます。

1つ1つの出来事(今回で言えば1回目と2回目の緊急事態宣言)の独自性(ユニークネス)にまつわる難しさは確かにあるな、と思いました。ちょうど辻さんから頂いた返信を読んだ後だったので、なおさら、そうした感想を強く持ちました。

そうした難しさを踏まえた上で、現状を記録し蓄積しておくことの重要性について、同意いたします。実際、私どももそのような考えでデータを集めております。

有難うございました。

「メディア利用と日本人意識」研究会

メディア利用と日本人意識(4):
世の中の出来事・新型コロナウイルスの情報入手タイプと日本人意識の関係

メディア利用と日本人意識(5):
新型コロナウイルスについて求める情報タイプと日本人意識の関係

メディア利用と日本人意識(6):
新型コロナウイルス蔓延による日本人意識の変化の検討

有馬 明恵 東京女子大学
山下 玲子 東京経済大学
藤井 達也 武蔵大学
志岐 裕子 慶應義塾大学

シリーズでのご発表でした。統一見解と個別のご意見とをいただいます。著者順は発表ごとに異なりましたが、スペースの関係上「メディア利用と日本人意識(4)」での順番で紹介させていただきました。

回答(統一見解)
平石先生、ご質問ありがとうございます。

同一の研究プロジェクトの発表のため、メンバー全員より統一見解を回答させていただきます。

各自の発表においても回答を掲載し、そこでは各メンバーが統一見解に加え、意見や疑問などを披露する場合もあります。よろしくお願いします。
確かに社会科学の知見は必ずしも頑健かつ正確とは限らず、そのためCOVID-19のような人類の生命の危機に関わるような事態においては、それを積極的に発信し政策提言に寄与するようなことには慎重であるべきという意見もごもっともなことと思われます。

 その一方で、COVID-19に限らないリスク事象(事故・自然災害、紛争・戦争など)下において共通に発現する可能性の高い人間の心理的反応や行動について、またそれらに関する対策については、社会心理学に限らず社会科学的な見地から蓄積した研究知見等を発信することは重要と考えます。ただし、その際、単一の研究データや単一事象を扱った研究から結論を急ぐことは避けるべきではないでしょうか。歴史学、社会学、教育学、地政学的見解などの幅広い視点からデータを解釈する必要があると思われます。

 我々の研究プロジェクトは、メディア利用と人々、特に日本人の国民意識やグローバル意識との関連性を検討してきました。その中で、メディア利用の多少やパターンからそうした意識に違いがあることや、国のコロナ対策に対する考え方に違いがあることを見出してきました。コロナ対策に対する考え方はメディア利用の他に元々の国民意識やグローバル意識とも関連していることが現在取り組んでいる研究から確認されつつあります。COVID-19はもちろんですが、その他のリスク事象に関する情報についても、私たちの情報源はメディアであることが多いと考えられることから、やはり報道のあり方や市民の不安を考慮した報道、またメディア利用者のメディアリテラシー教育等にも社会科学的な見地からの提言は必要であり可能であるとの考えから研究を行っております。

「メディア利用と日本人意識」研究会  
有馬明恵・山下玲子・藤井達也・志岐裕子

有馬明恵さん(東京女子大学)
 基本的に統一見解に記したことは、私自身の考えでもあります。それに少しだけ付け加えるとすれば、以下の2点となります。

①学問のための学問ではなく、社会とのつながりを意識した研究を行いたいというのが、大学院博士課程に進学した目的でした。青臭い考えかもしれませんが、指導教授の故・岩男寿美子先生もそのようなことをはっきりとではありませんが、おっしゃっていましたし、そのような姿勢をずっと見させていただいていました。

②社会心理学の分野に限らず、学問間の垣根を越えて知見を共有し提言をする必要があるのではないかと考えます。統一見解にいろいろな見方をすべきだと書きましたが、それに加えてプロジェクトチームや学問間の垣根を超えた協力すべきだと思っております。

以上、どうぞよろしくお願いいたします。

山下 玲子さん (東京経済大学コミュニケーション学部)
ここからは、独自の見解です。
新型コロナの問題に限らず、メディアから人々がどのように情報を取捨選択し、どれを真実として信じるかについては、私たち社会心理学の研究者が想像しえないような形で行われていることを、日々の生活の中で経験しております。そのため、社会心理学からの知見が固まっていない中、積極的に発信すべきかどうか、という問題は非常に重要な問いであるとともに、たとえ知見が固まり、それを発信したとしても、それが人々にどれだけ正確に、また広く伝わるか、ということが、また別の課題として存在しているのではないか、と考えております。

 今回、コロナウイルスをめぐる研究として発表させていただいておりますが、私個人の関心は「人々に情報がどのように伝わるか」いう点にあります。したがって、何かを積極的に提言していくべきか、というより、「どのように発信したら、必要とする人々に必要な情報が伝わるのか」を問いとして設定し、研究と実践を通じて明らかにしていきたいと考えております。                  

平石の返信

統一見解へ
ご回答いただき有難うございました。また週末にも関わらず、研究チームでの統一見解をご用意いただきまして、有難うございます。
単一の研究から結論を急ぐべきではないというご指摘に加え、他の視点(歴史学、社会学などなど)からデータを解釈する必要があるとのご指摘に、なるほどと思いました。

「社会心理学からの提言」という形に拘るのではなく、少なくとも社会科学のさまざまな視点を統合した上で、提言を考えていくほうが、各分野が(どうしても)持っているバイアスと言ったものを減らすことが出来そうです。それはそれで衝突もありそうに思いますが、研究者間で意見が一致しないものを、そうした不一致を隠したまま社会に提供するよりは、ずっと良いことのように思われます。

回答いただき有難うございました。

有馬さんへ
有馬様の追加意見への返信を書かせていただきます。

私個人について言えば、根底には「社会を変えたい」という気持ちがありつつも、それだからこそ、直接に社会的発言をすることを控えていたというのが、東日本大震災までの自分でした。震災と原発事故を機に考えを改めようとしたところに心理学の再現性問題が生じ、それらが連なって、今回のような質問をさせていただいております。そうした意味で「学問のための学問」に引きこもっていれば良いとは全く思っておらず、その点は、有馬さんと同じと言えるかなと思います。

また、「学問間の垣根を越えて知見を共有し提言をする必要」について、これは頂いた統一見解への返信でも述べましたが、仰るとおりであり、それを実現するために何が必要か、考えねばならない問題と思いました。

ご回答いただき有難うございました。

山下さんへ
ご回答有難うございます。

「どのように発信したら、必要とする人々に必要な情報が伝わるのか」という観点は重要であると、今更ながらに感じているところです。特に不確実性を含む情報(社会心理学の知見にはそれが少なからず含まれると思っています)について、不確実性をも含めた形での、情報の情報の発信と受信を可能とする仕組みを考えることが、社会心理学(さらには社会科学全般)にとって、必要なのであろうと、改めて感じました。

ご回答有難うございました。

第3弾はここまでにしたいと思います。明日の第4弾をお待ち下さい。


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