見出し画像

子どもの「ばーい」に ふと思い出す

usually「ばいっ!」(めちゃ早口)
sometime「ばーい」(伸ばす)
miracle「ばい、ばーい」(2回聞いたことがある)

我が子が話せる数少ない日本語ワードの一つだ。
一つと言っても細分化すると3種類ある。
彼女が自覚して言い分けているのかは別として、
「ばーい」が出ると、おお!となる。
差し詰め「ばーい」が銀のエンゼル、
「ばい、ばーい」が金のエンゼルか。

その銀のエンゼル、我が子が「ばーい」を言った時、
驚嘆の感覚だけではなく思い出すことがある。

以前予防接種をしてもらいに近所の小児科に言った時のことだ。
予防接種は種類が豊富で、中には複数回打つものもある。
生後1歳半くらいまでは結構な回数小児科に通うことになる。
我が子の記憶力はまだ曖昧だ。
病院の待合室に入っても、予防接種の痛い思い出はよみがえってこないのだろう。
そして診察室に入る。
先生と対峙する。
ここで嫌な思い出がよみがえるらしい。
(あー、この人あの時の痛いことする人、ぎゃー)
それはそれは、わんわんと泣き出す。
先生と看護師さんが
「ごめんよー、すぐ済むからなー」
と優しく声かけしてくれながら、素早く注射をする。
「1、2、3、4、5・・・」
数を数えてから注射跡に小さなパッチを貼ってくれる。
「はい、もういいよー。頑張ったねー」
と先生がまだ言い終わる前に、ずっと泣き続けていた我が子が、
泣くのを一生懸命こらえて、すごく小さな声で、
「ばーい・・・」
と言ったのだ。先生には大変申し訳ないが、
(君とは早くお別れしたいです)
という1歳児の精一杯の意思表示だった。

私たち親も先生も看護師さんも、その場にいるみんなが思わず吹き出した。
「はーい、バイバーイ。お利口じゃなー」
そう言った先生に私たちは、
「スイマセン、ありがとうございました・・・」
と診察室を後にする。
診察室から抜け出せた我が子はケロっとして、何事もなかったように小児科のおもちゃに興味を示し出す。
切り替えが早い。

後は受付の看護師さんに呼ばれるのを待つだけだ。
私は我が子を抱っこしながら、
いいなー、そのスキル。
誰も傷つけず、嫌な思いもさせず、むしろ少し幸福感を味合わせて、
苦手な人から遠ざかっていく。
大人が使えたらどんなに便利だろうか。
などと考えたりした。

そんなことがあってから、
君の「ばーい」を聞くと、
あの時の妙な可笑しさを思い出してしまう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?