見出し画像

課題設定はむずかしい

経験上、「課題の設定」ってとても難しい、と思う。目指すべき未来に対して「現在なぜそうなっていないか」「どこが課題なのか」をしっかり見極めないと、打つべき手段を見誤ってしまう。かつて自分もその設定を間違えて、ずいぶんと遠回りをしてしまった経験がある。



15年前、ぼくは初代の「医師確保対策」担当になった。

当時、研修医制度の改正に端を発して、全国で急激に医師不足が叫ばれるようになっていた(単純化して言えば、医師免許取得と同時に、医師は自由にどこでどんな診療をするかを自由に選べるようになった。結果的に人気のない診療科・地域が選ばれなくなった)。

宮崎においても同様で、特に中山間地域には必要とする医者が来てくれない状況が続いていた。そこで県庁では新たに医師確保を専門に考える職員を1名配置し、なんとか突破口を見つけていこうとした、というわけだ。

ぼくの課題設定は、「どういう環境・メリットをつくれば地域に医師が来てくれるか」だった。在籍した3年間を通して、たくさんのプロジェクトを立ち上げた(そのほとんどは現在の医師確保政策のベースになっている)。

成果がなかったわけではない。施策の成果で一定数の医師は宮崎に定着した。県庁で直接雇った医師もいれば、修学資金を貸与し返還を免除する要件として地域で勤務いただいた医師もいる。だが、それでも私の立てた課題設定は間違っていた、と思う。

間違いに気がついたのは10年後、介護保険「地域包括ケア」の担当になったときだった。介護の世界から医療を眺めて、ようやく本質的な課題は「地域医療の先進性・専門性や、やりがい・面白味が、若い医師・医学生に正しく伝えられてない」ことだと気がついた。

ぼく自身、地域医療とは、漠然とではあるが医師の善意とか自己犠牲の上に成り立っているもの、と理解していたように思う。十分な医療設備もなく、スタッフも限られる中で診療することはただただ大変なことでしかない、と感じていたからだ。

実はそうではなかった。地域医療は、医療という枠に留まらず、保健や介護・福祉といった分野も巻き込み、あるいは地域の住民たちも巻き込んで「みんなで健康で楽しく暮らすことを実現する」という、極めて専門性が高く、またとてもワクワクする世界なのだ。その専門性は今は「総合診療専門医」として制度的にも認められる状況になった。

図2

もちろん、医師の苦労は多いし、学ぶべきことも多い。だがそれは地域医療に限らず全ての医療に言えることである。地域医療だけが特別大変、ということではないと思う。むしろ魅力の方が圧倒的にあって、まさに時代に求められる専門性なのだ(と医師ではない事務屋がいう w)。

近年、そういった地域医療(総合診療)の魅力に気がつく医師は増えつつあり、全国各地でようやくその情報発信や人材育成が始まっている。

しかし、まだまだ他の診療科に比べれば圧倒的なマイナー診療科である。早急に人材育成プログラムを確立する必要がある。つまり、本来、定めるべき課題は「いかにして地域医療の専門性を学べる教育の拠点を整備し、またその魅力を情報発信していくか」であった。

私が医師確保を担当してから16年目の春。なんとか自分の責務において都農町に宮崎大学医学部の寄附講座(地域包括ケア・総合診療医学講座)をつくり、「地域医療教育の拠点づくり」をスタートすることができた。課題だらけとはいえ、大きなステップだと思う。本格的な成果がでるには相当の時間を要するが、進むべき方向はここしかない。初代担当として、これからも責任を持って見守っていきたい。



さて。この4月からはまた新しいテーマに向き合っている。どういう課題設定をすべきか。じっくりと向き合っていこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?