カイ書林 Webマガ Vol 13 No12

本年中は一方ならぬご厚誼をいただきありがとうございました。どうぞ佳いお歳をお迎えください。このメルマガおよびWebマガは、弊社がお世話になっている先生方に毎月配信します。
毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。


【近刊案内】

・杉本俊郎編集:内科専門医が教えるジェネラリスト診療ツールキット
 A5判 140ページ ¥2,750 来年1月末刊行 ISBN 978-4-904865-66-8


【好評発売中】

1 医療者のためのリーダーシップ30 の極意
Sanjay Saint&Vineet Chopra,翻訳:和足孝之
A5判 116ページ カラー30ページ ¥2,750 12月1日刊行 ISBN 978-4-904865-64-4


2 長瀬眞彦著:東洋医学診療に自信がつく本
A5判 350ページ ¥4,400 11月25日刊行 ISBN 978-4-904865-65-1


3 梶 有貴、長崎一哉 編集:ジェネラリスト×気候変動―臨床医は地球規模のSustainability にどう貢献するのか?ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.17

4 筒井孝子著:必携 入門看護必要度

5 筒井孝子著:ポケット版 看護必要度

6 鎌田一宏・東 光久編集:再生地域医療in Fukushima(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 16)

7 東 光久編集:「患者力」を引き出すスキル・ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ③)

8 金子惇・朴大昊監訳「医療の不確実性をマッピングする」

9 島田長人編集:急性腹症チャレンジケース―自己学習に役立つ18症例(日本の高価値医療シリーズ⑦)

10 石丸裕康・木村琢磨編集:ケア移行と統合の可能性を探る(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 15)


■全国ジェネラリストリポート

「見え方は,生き方を変える」南砺マルモカンファレンスの紹介

大浦 誠 南砺市民病院 総合診療科

 私は富山県南砺市で病棟や救急,在宅などに関わる病院家庭医をしています。ジェネラリスト教育コンソーシアムシリーズ 17「ジェネラリスト×気候変動 臨床医は地球規模のSustainability にどう貢献するのか?」(http://kai-shorin.co.jp/product/consortium017.html)に関わらせていただいたおかげで,このような機会をいただきました。私は気候変動の専門家ではないのですが,多疾患併存(マルチモビディティ;以下マルモ)を広く勉強している立場から,地球をマルモになぞらえてアプローチする考え方を紹介しました。もしご興味があればご覧いただければ幸いです。

 そんなマルモ診療のレベルアップのため,当院では「マルモカンファレンス」と名付けた多疾患併存を対象にした多職種連携カンファを1年前から始めました。参加者は医師,歯科医師,歯科衛生士,看護師,薬剤師,リハビリ,臨床検査技師,公認心理師,介護福祉士,鍼灸師などの医療・介護職だけでなく,教育学者,デザイナー,一級建築士,行動経済学者など非医療者も参加し,事例を通じて視点を広げる事を主眼にしたカンファレンスです。これだけの多業種が自由に意見交換できる場はなかなかないと思います。1年も続けると参加者の視点の動かし方がガラリと変わった手応えを感じています。

 この活動を所属学会である日本プライマリ・ケア連合学会だけでなく,日本心不全学会や緩和医療学会,日本老年医学会,日本鍼灸学会など多くの他流試合で紹介させていただき,藤沼康樹先生や徳田安春先生,山中克郎先生など総合診療の著名人や総合診療の有名施設とのコラボをさせていただき大変光栄でした。

 表題はマルモカンファレンスのキャッチフレーズです。見え方を変えてみたい方はご連絡ください。


■マンスリー・ジャーナルクラブ

岡田博史 京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 

メタボリックフェノタイプと糖尿病発症リスク

Metabolic phenotypes and incident type 2 diabetes: population-based Panasonic cohort study 6

Obesity (Silver Spring). 2022 Sep 25. doi: 10.1002/oby.23544.

 皆さんこんにちは。メタボリックフェノタイプという言葉をご存知でしょうか?肥満と代謝異常(耐糖能異常、高血圧、脂質異常)の有無によって分けられた4つのフェノタイプのことです。かつてはいわゆる健康的な肥満(代謝異常を伴わない肥満)が糖尿病や心血管疾患のリスクになるかどうかについて多くの検討がなされてきました。現時点では代謝異常を伴わなくとも肥満はやはり糖尿病や心血管リスクであると結論づけられています。一方でこれらのフェノタイプは年々変化を伴います。今回はメタボリックフェノタイプの変遷と糖尿病発症リスクについて検討した論文を紹介します。

【要旨】
 年齢48.3±6.4歳の健診受診者58,638名を対象とした。肥満(BMI 25kg/m2以上)と代謝異常の有無(高血圧、耐糖能異常、脂質異常症のうち2項目以上が該当)によってメタボリックフェノタイプを4群に分けた。メタボリックフェノタイプを2008年と2013年に2度にわたり評価し、メタボリックフェノタイプの変遷(16群)とその後5年間(2013年から2018年)の糖尿病発症リスクを評価した。

 年齢、性別、尿酸値、喫煙歴、食事速度、朝食の欠食、飲酒習慣、運動習慣で調整後の5年間の糖尿病発症に対するハザード比は5年間非肥満・代謝異常なしのフェノタイプを維持していた群を1とすると、5年間非肥満・代謝異常ありのフェノタイプであった群は11.86 (95%CI; 10.03-14.00)、5年間肥満・代謝異常ありであった群は20.97 (95%CI; 18.19-24.20)であった。また、肥満・代謝異常なしのフェノタイプは5年後に非肥満・代謝異常なしのフェノタイプに変化すれば糖尿病発症リスクの上昇は認めなかった。一方で肥満の有無にかかわらず代謝異常ありの群は5年後に非肥満・代謝異常なしのフェノタイプに改善したとしてもその後5年間の糖尿病発症リスクは高いままであった。

【コメント】
 日本人は欧米人と比較して平均BMIが低く、糖尿病を持つ人とそうでない人のBMIの差は小さい。その背景にはインスリン分泌能の低下や異所性脂肪の存在が大きく関与していると考えられる。本論文において、過去に一度でも代謝異常を起こしてしまうとその後の糖尿病発症リスクは高いままであるということを報告しており、糖尿病発症に関してメタボリックメモリーが存在することを著者は述べている。このことから保健指導等において体重管理の指導だけではなく、代謝異常にも着目し、できるだけ早期に個別化した保健指導が求められるといえよう。


■カイ書林図書館

地域医療を担う中規模病院での内科系診療の実践書 近刊:「内科専門医が教えるジェネラリスト診療ツールキット」

本書で総合内科学講座の設置背景や歴史について述べた。誤解されやすいのであるが、総合内科学 = 総合診療ではなく、幅広い診療能力を備えた領域別専門内科医の集団である。そういう観点からすれば、総合内科学よりも統合内科学と呼ぶ方が相応しいのかも知れない。

また、医師一人ずつは総合医としてのレベルは高くないかもしれないが、毎朝の情報交換による結びつきが強いため、全体を俯瞰すれば総合診療としての機能をしっかり果たすことが可能となっている。

今後も地域医療を担う中規模病院での内科系診療を実践するあり方の一つとして参考になれば幸いである。(本書のPreface:辻川 知之先生のことばより)

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