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会計検査院のお仕事 その1

はじめに

皆さんは会計検査院という役所をご存知でしょうか。この時期になると検査結果のニュースが増えてくるので名前くらいは聞いたことがある方もいるかもしれません。

簡単に言うと国の税金の使い道(無駄遣いがないか)をチェックする機関で、政府からは独立した憲法上の機関と位置付けられています。この辺のところは追々記事にしていきますが、検査結果を見ていただくと仕事ぶりが想像しやすいと思うので、本記事では筆者が担当した検査について守秘義務に反しない範囲でご紹介します。

なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、在籍時の会計検査院の意見を示すものではありません。

筆者について

筆者は、公認会計士の実務経験に基づき、特定任期付職員として会計検査院調査官に採用されました。ちなみに本省課長補佐級(6級相当)の国家公務員として処遇されます。年収は、俸給表が別テーブルのため、同級のプロパー国家公務員よりも高く、1000万円を少し超えます。監査法人の中堅マネージャーくらいですね。結構魅力的な待遇ではないでしょうか。この辺も別の機会に詳しく書きたいと思います。

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検査結果(筆者担当案件)

在籍していた期間は3年半と短いですが、数多くの検査を行なってきました。その一部をご紹介します。

東京電力に対する指摘

こちらはニュース記事にもなっているので、リンクを貼っておきます(URLをコピペしてください)。

福島第1、舗装40カ所ひび 点検対象外、雑草も放置―検査院報告
https://www.google.co.jp/amp/s/www.jiji.com/amp/article%3fk=2019110800298&g=soc

そもそも東京電力のような民間の上場会社がなぜ検査対象なのかという点があります。福島第一原発事故後、国は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて東京電力の株式の過半数を保有しています。いわば国の孫会社に当たるため検査対象になっているわけです。もっというと、国は、肩代わりしている原子力損害賠償に要した費用を東京電力の株式の売却を通じて回収する計画です。このため、東京電力が無駄遣いをすることによって株式の価値が毀損されては大変困るのです。株価をどんどん高くして売らないことには、国民負担が増える結果となってしまいます。

さて、東京電力は、福島第一原発構内の放射能汚染水の増加抑止や放射線量の低減のために、203億余円を掛けて敷地全体にモルタルを吹き付けるフェーシング工事を行なっています。この維持管理がきちんとできていないため、ひび割れが放置されていて、結構な額を費やした資産の耐久性に懸念がある状況となっていました。ご興味のある方は、検査報告本文に詳しく書いますのでこちらをご参照ください。

https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy30_05_20_01.pdf

ここでは、検査報告に書いていないエピソードをご紹介します。福島第一原発の検査は、2回ほど現地に行かせていただきましたが、この事態を指摘するきっかけは2回目の検査時です。1回目の検査時にもひび割れは見つけており、この事態そのものは別に国会に提出した検査報告に記載していますが、そのときは緊急対応として突貫工事をやらざるを得なかった事情もあり、踏み込んだ指摘にはなりませんでした。少し見方を変えて維持管理がきちんとできているかに着眼して検査をしてみたところ、前記のとおりの指摘に至りました。

ちなみに、福島第一原発の検査は、事務棟での書面検査にとどまらず、防護服を着用して放射線量の高い原子炉建屋のすぐそばでひび割れの計測等を行いました。油断すると被ばく線量の許容値に直ぐに達してしまうので、厳しい時間との戦いだったのを覚えております。ただ、東京電力の方々は検査に非常に協力的で、前向きに改善に取り組んでいただけました(先人の苦労の賜物か)。

工事検査

ここまで読んでいて、あれ?と思った方もいるかもしれません。お金の流れの検査じゃないの?と。もちろん過大な支払等の単純な無駄遣いの指摘も数多くありますが、税金で作った構造物に必要な耐久性がなかったら、もっというと指摘される前に壊れていたら、これも立派な無駄遣いですよね。

このため、会計検査院では、公共工事の設計や施工に不備がないかの検査を行っており、ある意味で花形的な検査となっています。筆者は、文系学部出身なので、会計検査院に採用されるまで構造計算ないし構造力学には触れたことがありませんでした。しかし、文系学部出身のプロパー調査官でも工事の指摘を行っているのに触発されて、筆者も日々猛勉強してキャッチアップしました。遂には不当事項の指摘の山を築いて置き土産にしてきました。そのうちの一つをご紹介します。

街路灯の設計が適切でなかったもの

https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy30_04_12_03.pdf

検査報告本文しかなく、読みにくくて恐縮です。簡単に言うと、風力発電と太陽光発電装置を備えた街路灯2基の強度計算に誤りがあり、想定される風荷重に耐えられる設計になっていませんでした。実際の施工状況に基づき改めて安定計算を行ったところ、斜面下部の基礎の前面地盤における水平地盤反力度 51.9kN/m²は、受働土圧強度 22.8kN/m²を大幅に上回っていたのです。

この辺の計算も全て自分で行うことになるので、かなり大変でした。技術畑の参事官のチェックが入ったり、受検庁にもソフトを回してもらって再計算したりするので正確性は担保されますが、このやり取りで構造計算を理解していないと結構苦しいかなと思います。

なお、福島県の事業ですが、福島第一原発事故後の復興を目的とした国の補助金(元は原発設置に伴う迷惑料である電源立地地域対策交付金)を使って設置しているものです。このため、工事費=補助金相当額5,852千円が不当と認められました。

このほかにもバラエティ豊かな指摘を行なってきましたので、またの機会にご紹介したいと思います。

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