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鰻重が食べたい

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鰻重が食べたい。漆塗りの重箱に入った、てりっと光った鰻重が食べたい。鰻には白焼やう巻きなんて食べ方もあるけれど、僕はやっぱり鰻重が食べたい。鰻重はなんと言っても重箱に入れられているのが良い。鰻丼も鰻重もどちらも白いご飯の上に鰻の蒲焼を乗せた料理だが、やはり重箱で頂きたい。

重箱は高級感があって良い。高級な料理は、大きいお皿の真ん中にちょこんと収まってるものが多い。だけど鰻重はぎっしりと肩を寄せて詰まってる。そこが良い。運動会でもお正月でも、重箱で食べるだけで幸福に包まれる。

鰻重はお高い。だから僕は年に1回か2回しか食べられない。3回食べられたら幸運だ。スーパーにお安く売られている鰻もあるけれど、やはり僕はそこそこの値段のする老舗で頂きたい。まさに有り難さを感じて食べたい。滅多に食べられない鰻重を目の前にした高揚も合わせて鰻重を食べたい。

鰻重が運ばれきたら、十秒待ってから蓋を開けたい。早く中が見たいけど、蓋の下で鰻重が蒸される十秒が大切なのだ。蓋を開けると、鰻がふかふかの絨毯のように広がっている。赤茶色のタレが白く反射している。何粒か見えるお米も可愛らしい。今すぐにでも食べたい。

まずは重箱の左下から箸を入れたい。僕は右利きだからそこが一番上手にすくえるのだ。ふわり。鰻の白い身と黄金色のご飯が顔を見せる。自分から迎えにいくように、それを口にほうばりたい。

鰻が口に入ったら、ほろほろの鰻の歯触りともっちりしたご飯を口の中に確かに感じたい。鰻がまとった甘い香りをご飯が調和させる。喉を通って鼻から抜けた甘い香りで鰻重を感じたい。鰻重の偉大さを感じたい。僕は今幸福である。

食べ進めたら、お好みに山椒をかけても良い。山椒は鰻重に良くあうのだ。だけど僕は山椒はかけない。鰻重本来の味を両手広げて感じたい。

その代わりに肝吸いはしっかりと味わいたい。湯気立つ肝吸いをずずずっと吸うと、ダシの効いた淡い香りが鰻重の甘みを立ててくれる。

体がぽかぽか温まってくる。額に汗が光ってくる。それでも僕は必死に鰻重を食べたい。僕はいま、鰻重の魔力に包まれたスター状態なのだ。

鰻重を食べきったら、ざらざらの湯呑みでお茶を飲みたい。ほどよく冷めたお茶で落ち着きたい。僕の食道に鰻重を感じる。できればこの余韻で気の利いた一句でも詠みたい。

チラッと目の前に座る彼女の鰻重を見る。まだ半分も残ってる。是非とも「もうお腹いっぱい」と言って頂きたい。彼女の鰻重も食べたい。

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