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『東京百景』又吉直樹 「外に出たくなる」と、風を切って

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『東京百景』又吉直樹

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【又吉直樹の作品を語る上でのポイント】

①言葉選びに注目する

②過剰なセンチメンタルさを指摘する

の2点です。

①に関して、又吉は『火花』が有名ですが、小説だけでなくエッセイ、俳句も書いています。その言葉選びが繊細で上手で、更に笑いの要素もあるので敵なしです。

②に関して、又吉さんの作品は彼のセンチメンタルさが色濃く出てます。何をするにも人の目を過剰に意識して、人の目を意識する自分すら意識しているという、二重にも三重にもぐるぐるに巻かれた自意識から発される言葉が魅力的です。


○以下会話

■読むと散歩したくなる本

 「外に出たくなる本か。そしたら又吉直樹の『東京百景』がおすすめだよ。これはピースの又吉が太宰治の『東京八景』を模して書いたエッセイなんだ。太宰の『東京八景』は、東京での思い出を風景と共に振り返った自伝小説で、『東京百景』は、同じく又吉が上京して以来、印象に残った東京での思い出と風景を百箇所書いているんだ。都内の色んな場所が書かれているから、実際にそこに行って又吉が感じたことを追体験したくなるんだよね。又吉は上京して最初に三鷹に住んだから、中央線沿いの街並みが多く書かれてて、『火花』とか他の小説でも中央線沿いでの出来事が多く登場してるんだよ。又吉の今の文化活動の基盤に中央線沿線の街並みが築かれてるんだなって感じるよ。

百編もエッセイが書かれてて本当にほぼ全部面白いから選ぶの大変なんだけど、気に入った部分をいくつかあげるね。例えば、「恵比寿駅前の人々」という恵比寿の駅前で人を待ってる時の情景の文章。

行き交う人の流れを見ていると、様々な種類の人間がいることに気付く。仕事終わりで家路を急ぐ人。これから飲み会に向かうように見える会社員風の団体。その内の一人が、東急ハンズのパーティーグッズコーナーに売っている「本日の主役」というタスキをかけていた。僕の人生にとっては脇役中の脇役だ。

脇役中の脇役、面白い。そして、観察を続けると、20歳前後の女子四人組が自主映画で、通りすがりに空き缶を拾うシーンを撮影してたんだよ。空き缶を券売機の前に置いてカメラを回すと、別方向からホームレスがやってきて空き缶を拾って、残りを飲み干してしまうんだよ。その後の描写が

女子達がゴミだと見なした、それは誰かにとってはゴミじゃなかったのだ。<中略>ゴミを失った彼女達は何を拾うのだろう?そんなことを考えていたら、誰かに肩を叩かれた。振り返ると自主映画の出演者達だった。「ピースの人ですよね?」と言っている。その様子を遠くから監督が撮影していた。誰がゴミやねん。

どうこのクオリティ。凄すぎるでしょ。すべらない話で披露できるよね。オチだけ抜き取っちゃったけど、全部読むともっと面白い。68番目の「恵比寿駅前の人々」だから読んでみて。

あとは、スカイツリーの描写が良い。

スカイツリー。キミはどこからでも丸見えで恥ずかしいことになってるよ。大きい怪獣が出てきたら真っ先に狙われるよ。<中略>なんかキミを見ていると、本人は迷子になってるのに、大きくて目立つから皆の待ち合わせ場所にされている哀れな男みたいに見える。でも良いよ。キミ。僕みたいに隠れてなくて。

こういう何度も題材にされてるものを書いた文章を読むと、その人特有の色が分かるよね。

他には、コンタクトを地面に落として探している女性を

遠くから見ると地球に喧嘩を売っているようだった。

って表現してるんだ。「眉間にシワを寄せて探してる」って書かれているより、端的で面白くてパッてイメージできるよね。

あと、1番目の風景として書いてる「武蔵野の夕陽」っていう井の頭公園を書いた文章が凄い良いんだよ。井の頭公園にいる多様な人たちを描いているんだけど、初めて読んだ時衝撃的で何度も読み返して次のページにいけなかったんだよ。僕が人生で読んできた好きな文章ランキングで第4位くらい。だけど、全部載せるには長いし要約すると良さが損なわれそうだから、これだけは実際に読んで欲しい。間違いなく井の頭公園に行きたくなるよ。実際に僕は行った。実は、「武蔵野の夕陽」は太宰治の『東京八景』で書かれてる最後の風景のタイトルなんだよね。それを真似て書いてるから、又吉も気合い入ってたんじゃないかな。

■芸人だから書けるエッセイ

『東京百景』の良いところは、笑える文章もあれば、ハッと息を飲むくらい真剣なものもあって、心が揺さぶられるところなんだよね。それでも着想はやっぱり芸人さんだなって感じるんだよ。言葉の表現が小説家というよりも大喜利の感覚で書いてる感じだ。文章って発想で魅せるところがあるから、劇団ひとりとかバカリズムとか文章が面白い芸人さんって多いよね。かっこいい。

あと、『東京百景』の単行本は透明のフィルムで覆われてる装丁が良い感じなんだよ。女優ののんさんが表紙になった文庫版が最近出たけど、オススメは単行本かな。中身は一緒なんだけどね。今度感想聞かせてね。」



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