日本小児科学会のコロナワクチン推奨声明への批判的吟味 その2 (2022/8/25)

注釈:「批判的吟味」という言葉は専門用語であり、「批判」とは違います。論文や学会声明など科学的内容に対峙するときの科学者の基本的姿勢を表した言葉です。批判的吟味を行った結果、その論文の内容に賛成する、ということも多いです。論文に関わった人達や小児コロナワクチンを推奨する医師個人の価値観を批判しているわけでもありません。

以下はIDATEN(医師などが多数登録している感染症に関するメーリングリスト)に私が2022/8/25に投稿した内容になります。

前回は合併症・リスクを過小評価している可能性について投稿しましたが、今回はメリットを過大評価している可能性についてです。具体的には「オミクロン株を含めて重症化予防効果が40~80%程度認められることが確認されました」との記載が過大評価にあたると思います。

【5〜11歳へのワクチン】の項で重症化予防の根拠として以下の4つの文献が挙げられていました。

19) N Engl J Med. 2022;386(20):1899-909.
21) N Engl J Med. 2022;387(6):525-532.
22) N Engl J Med. 2022;387(3):227-236.
23) Lancet. 2022;400(10346):97-103.

19)「入院予防効果68%」とは・・・
オミクロン時期にアメリカの病院に入院した5-11歳のコロナ患者537人のうち、接種済み7%:未接種19%ということ。
ちなみにICU入室は接種済み5/18(28%):未接種55/244(23%)、人工呼吸器・昇圧剤使用などの重症者は4/18(22%):38/241(16%)。

21)「2回接種の入院予防効果83%」とは・・・
シンガポールのオミクロン流行期2.5ヶ月間にCOVID19で入院したのは、5−11歳26万人のうち2回接種群42人:1回接種群100人、未接種群146人ということ。
ちなみに酸素投与5名(2回接種2、1回接種2、未接種1)、死者0名。

22)「発症予防効果48%」・・・
イスラエルのデルタ+オミクロン期における前向き研究で、2回接種後7−21日のタイミングで、5-11歳2.2万人のうち発症者は接種群68人:非接種群133人ということ。
ちなみに入院者数は接種群1人、非接種群2人と稀であり、入院予防効果の判定は不能。

23)「2回接種の重症化予防効果41%」・・・
イタリアのオミクロン期2ヶ月間にCOVID19で入院したのは、5−11歳297万人のうち、2回接種59人、1回接種75人、未接種510人ということ。
ちなみに本文献での重症化予防の定義は "admission to hospital and death" と記載されており、死者数は2名だけで、実際は入院予防と言い換えた方が的確。

以上4つの文献からは、5-11歳の重症化率は極めて低く、重症化予防は証明されていないと言えます。唯一、23)文中に「15人がICUに収容され、2人が死亡、全員ワクチン未接種」との記載がありましたが、これは特定の状況における結果であり、ワクチンと重症化の因果関係を示すものではありません。実際、19)ではむしろワクチン接種済みの方がICU入室率・重症率が高い、という結果になっています(サンプルサイズが小さいため統計学的解析はしていないとの記載がありました)。

23)のようなRWDは、研究目的や対象集団などに多様性があるため.結果についても一貫性がないことが最大の特徴であり、1つのRWDの結果だけをみて判断することだけは避けるべき、というのが原則です。例えば、23)ではワクチン接種者・非接種者の2群間での基礎疾患(肥満含め)に偏りがあった可能性もあります。

因果関係を示したいのであればRCTですが、RCTはサンプルサイズの影響を受けやすい(小さすぎると有意差出にくかったり再現性のない結果になる、大きすぎると無意味な有意差まで出てしまう)のが問題点で、小児コロナワクチンの重症化予防という稀少病態の証明は困難です。言い方を変えると、5-11歳では新型コロナは非常に重症化しにくいため、ワクチンの重症化予防は根拠をもって証明できている状況ではない、ということです。

現状では5-11歳対象のワクチンが重症化予防に役立つか不明、というのが妥当だと思います。事実を直視することで、次の対応が見えてきます。つまり、ワクチンを接種しても致死率・重症化率を下げられない可能性があるのであれば、他に死亡や重症化に関わる要因を探して対策を練ろうと考えます。

今回の日本における小児COVID19流行では高熱・痙攣が多いことが特徴です。例えば小児インフルエンザ脳症の要因の1つと言われているCPTⅡ酵素の一塩基多型(日本など東アジアに多い)が、小児COVID19でも関与しているのでは?といった仮説です。そうだとすれば、小児重症化の予防策はワクチン接種ではなく、十分な解熱・クーリング方法の周知、糖分・VitB1の補充となります。これは明らかにワクチンよりもリスクの少ない介入であり、仮説が違っていたとしても害が少なく、検討の余地はあると思います。

そもそも、なぜコロナワクチンが緊急承認されたかと言えば、高齢者・ハイリスク患者での高い死亡率・重症化率があったからです。第1−2波の頃は高齢者の致死率は25%程度であり、そのような経験の後で第4波(α株)が到来、ワクチンは希望の星として広まりました。長期的には未知の要素があれど、目先の死亡率を下げるために接種を推奨したわけです。変異株以降は高齢者の致死率は2%程度まで下がり、小児はオミクロン以降に患者数が激増するも軽症が大半で、致死率0.0007%です。致死率2%と0.0007%では対応を変えるべきです。

5−11歳へのワクチン接種に関わる情報をまとめます。

日本の現状
・小児罹患率20%まで達した時点で、10歳未満の死者数は8名
・8/23の重症者数は全国で全年齢合計しても636人(小児の内訳不明)
・5-11歳のワクチン接種率は20%弱

ワクチンのメリット
・確定的:入院予防効果40〜80%程度
・未確定:入院予防効果の持続期間、重症化予防の有無

ワクチンのデメリット
・確定的:登校登園・日常生活への支障、重篤な合併症(まれ)
・未確定:副作用による死亡、免疫系への不可逆的な影響、未知の長期的副作用

「ほとんど軽症なのに、仕組みの良く分からないワクチンを子供に打たせる必要性って本当にあるの?」という漠然とした不安・疑問を保護者が抱くことは、あながち間違いではないような気がします。今回、私は声明文中の文献を読み、日本の現状を調べてみた結果、今このタイミングで5−11歳にワクチン接種を推奨する必然性はないと判断しました。ただ、他の文献まで詳しく調べたわけではありませんので、もしこの問題を考察するに当たって重要な文献を御存知の方がいらっしゃいましたら、御教示頂けますとありがたいです。

最後に、今回激増した小児COVIDー19患者(統計を調べるまで5人に1人までもが既感染とは知りませんでした・・・)の対応に日々当たられている全国の小児科の先生方に、子を持つ一人の親として心より感謝申し上げます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?