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2019年からの著作権

本稿は東大のVRサークル、UT-virtualのアドベントカレンダーの一日目として作成しました。VRとは。

さて本題ですが、年末年始は著作権の改正が連続して施行されます。以下に各施行日程と文化庁による各改正概要pdfへのリンクを張りました。

2018年12月30日「環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律による著作権法改正」(以下、整備法)

2019年1月1日「著作権法の一部を改正する法律」(以下、改正法)

整備法、改正法の主な内容は下記のとおりです。

整備法の主な内容
1.著作権保護期間の延長
2.著作権侵害の一部非親告罪化
3.アクセスコントロールの回避等に関する処置
4.配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与
5.損害賠償に関する規定の見直し
改正法の主な内容
1.データの活用や新しい著作物の利用への対応のための著作権の例外規定の整備
2.教育の情報化のための例外規定の整備
3.障害者の情報アクセス機械の充実のための例外規定の整備
4.アーカイブ利用促進のための例外規定の整備

整備法は国際条約を施行するための整備のための法律なので複数のトピックが含まれます。一方、改正法は「ネット時代のための著作権の例外規定の整備」なのでトピックは一つですね。

本稿では整備法と改正法について文化庁pdfの補足を主眼として各改正を解説していきます。

1.整備法について

1.1.著作権保護期間の延長

現行法では基本的に50年だった保護期間が70年に延長されるという内容です。

TPP関連で言及されることが多いですが、TPPと別に決定しました。EPA(日欧経済連携協定)関連で2017年7月に関連国間でなされた合意に含まれていました。外務省による国内への公表は同年11月でした。キレそう。

保護期間についてはpdfにある通り下画像のように変更されます。

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引用:環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律による著作権法改正の概要

この期間についてですが、著作者の死亡した年または著作物等が公表などされた年を0年目として、数え年の要領で年数をカウントします。満70年+αという感じですね。年明けでカウントなので命日や公開日に関わらず、今年が50年目だった著作物等はすべて保護が20年延長されます。

1.2.著作権侵害の一部非親告罪化

著作権侵害は現行法(2018年12月1日時点。以下で現行法という時は2018年12月一日時点で施行されてい著作権法を指す)では親告罪です。簡単に言うと、著作権利者からの訴えがないと罪に問えません。これが30日からの改正法下では一部の著作権侵害が非親告罪となり、権利者の訴えがなくとも罪に問うことができるようになります。

では、どのような場合に非親告罪となるのでしょうか。これは新設された著作権法第123条第2,3項に記されています。これを要約すると、

目的1又は2の為に行為1又は2を行い、結果、原作有償著作物等の著作権利者の利益が害されている場合。
目的
1.利益を上げること
2.原作権利者の利益を害すること
行為
1.原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡ないし公衆送信(送信可能化)すること
2.行為1の目的のために原作を複製すること

有償著作物等とは、有償で公衆に提供又は提示されている物で著作権の保護下にある著作物や実演などの表現を指します。

公衆と出てきました。著作権法における公衆(公と表現される条項もあるが同じ意味)とは、「不特定の人」または「特定多数の人」です。任意の一人(不特定の人)や全校生徒(特定可能な人の集団)などは公衆扱いです。

また、公衆送信とは公衆への送信であり、送信可能化とは利用者がアクセスすれば受信できるような状態のことです。要するにアップロードしただけでまだ誰も受信してないという言い訳をつぶしています。

さて、この改正により違法アップロードや海賊版の製造販売は非親告罪となり、著作権者の訴えがなくても罪に問えるようになりました。「原作のまま」であることが必要なので、「ある作品のファンによる当該作品に依拠した創作活動(いわゆる同人活動)」は引き続き親告罪の範疇です。

「原作まま」の程度

しかし、この「原作まま」がどの程度まで認めれらるかも問題になってくるでしょう。前述の通り、この改正の主眼は「海賊版や違法アップロードの取り締まり強化」でしょうから、「原作まま」と言っても

・漫画雑誌に掲載されている特定の漫画の一話分が撮影ないしスキャンされた物による動画でページやコマの少々の欠落がある物

・劇場内での撮影動画で見切れが発生している物

・市販のゲームを分割してアップロードしているような物

・OP、EDが編集によって取り除かれアップロードされた放送中のアニメ

等は非親告罪化の範疇と認められるのだと思います。このとき問題になるのが「では、どの程度まで「原作まま」と判断されるのか」です。例えば次のような侵害の場合はどうでしょう。

・ゲームプレイ動画や映画、アニメのワンシーンだけ切り抜かれた違法動画

・他人のイラスト、写真を無許可でツイッターのアイコンに使う(サイズの都合で各自の意思で原作の一部をトリミングする)

一つ目については明らかに「原作全体を発信する目的ではない」ので「原作まま」とはされず、現行法のまま親告罪の範疇になると考えます。しかし、二つ目については、元画像から四隅を削っただけの「見切れ」のケースと同様の事態となっている物もありますが、逆に拡大されて利用されているために「見切れ」というより「一部の抜粋」というべき事態となっている場合もあり得ます。

一つ目について考えたときと同じく考えればした画像のアイコン2は親告罪の範疇、アイコン1は非親告罪の範疇となりますが、その境界はゲームや映画と比べると判然としません。ゲームなどのような映画の著作物とされる物は明確な長さがあるので「原作まま」利用したのかわかりやすいですが、写真やイラストのような著作物はトリミング前後で形態に大きな差が出ないので、一部が取り除かれ他場合も「原作まま」として認めるとなるとその境界の設定が難しそうです。

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1.3.アクセスコントロールの回避等に関する処置

これは現行法ですでに刑事罰の対象であった「技術的利用保護手段の回避(コピーガードなどを外す行為)の手段の提供および業としての同回避の実施」を「技術的使用制限手段(アクセスコントロール)の回避」にまで拡張させるという内容です。

同改正ではさらに、刑事罰は課されませんが、アクセスコントロールを回避してコンテンツにアクセスすること自体も新たに著作権の侵害としています。

1.4.配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与

放送事業者関係の項目なので特にいうことはないですが、放送事業者がネット配信の音源を使った場合でも実演家やレコード製作者が二次使用料を請求できるように「配信音源」を拡大したものです。今ではCDやDVDなどに固定された物でないと請求できなかったのです。(iTunes等は想定されていなかった。)

1.5.損害賠償に関する規定の見直し

損害賠償額の選択肢を増やしたという内容です。新しく設定された算出法は侵害された著作権が著作権管理事業者(日本シナリオ作家協会やNexToneなど)に管理されている物である場合に、管理業者の使用料規程(複数のプランに該当する場合は最も高額なプラン)を適用できるというものです。

2.改正法について

技術の研究開発、教育、障碍者への補償、アーカイブ利用に関する著作権の例外に関しての整備を目的とした改正です。

著作権の制限
著作権法で定められた著作権法の保護が適用されない例外。代表的なものは「私的利用」。例外の主な内容は「私的利用」「研究開発」「教育」「報道」に関しては著作権を制限するというもの。

2.1.データの活用や新しい著作物の利用への対応のための著作権の例外規定の整備

技術の研究開発、キャッシュやバックアップに際する複製、情報検索・解析サービスのための複製についての整備です。

研究開発関連

まず研究開発についてですが、現行法では基礎研究においては著作権の例外が適用されない可能性があったり、DeepLearningなどAI研究に関して対応しきれていない部分が是正されました。利用の目的や方法をより抽象的に指定しなおした形です。

具体的には、研究などの文言が外され、「著作物に表現された思想又は感情を享受する(させる)ことを目的としない場合」に「方法によらず」利用できるとされました。つまり、著作物を「データ」として扱うならばかなりひろく利用できるようになります。著作物や思想又は感情などについては下記に詳しく記述しました。

著作物
著作権法では著作物は次のように定義されます。
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(2条1項1号)
思想又は感情
データや事実はその収集や発見にどれだけのリソースが費やされていたとしても著作権法では保護しないという意味です。
創作的に
模倣でないことを求めます。
表現したもの
他人が知覚可能であることを求めます。著作権法ではアイディアそれ自体は保護しません。
文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する
実用のための物でないことを求めます。実用品は実用新案法や意匠法で保護します。(なお、美術工芸品など実用品でも著作物となる例外あり。)

キャッシュ等関連

次にキャッシュ等に関する整備です。現行法ではかなり細かく具体的要件が設定されていたところを「電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うこと(キャッシュやサーバーでの利用)または利用状態の維持、回復(バックアップでの利用)」が目的であればその行為自体やそれに付随する行為について「方法を問わず」著作権を複製できるようになりました。もちろん著作権者の利益を不当に害さない範囲でですが。

情報検索・解析サービス関連

従来はインターネット情報検索での権利制限に限定されていましたが、本改正から「所在検索サービス」「情報解析サービス」「その他社会的意義の認められる使用目的」に拡大されました。

政令で定める基準に従う者は上記の行為の準備としてのデータベースの作成において権利の制限を受けたり、上記の行為の結果の提供に際して必要限度の軽微な著作権の利用を行うことができます。

2.2.教育の情報化のための例外規定の整備

現行法では「対面授業のための教材の複製」「授業を遠隔地のほかの教室へ同時中継する際の複製物の配信」は著作権の例外として認められていましたが、「動画化してオンデマンドで配信」「講師のみが別室で授業を行い、リアルタイムで遠隔地に配信」するような場合には著作物を許諾なく利用することができませんでした。参考資料の提示にはすべて権利者の許可が必要でした。

これが改正により一元的な窓口への補償金の支払いによって一括に可能になりました。

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引用:著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料

2.3.障害者の情報アクセス機会の充実のための例外規定の整備

現行法では視覚障害者向けの音訳、点字訳が許諾なく可能でした。

今回の改正ではマラケシュ条約締結のために必要な整備として対象の拡大を行います。視覚だけでなく肢体不自由のような障害によって書籍を読むことが困難な者を広く対象に取ることになります。

マラケシュ条約
マラケシュ条約の受益者は同条約第三条に記されており、これらの印刷物等の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するための条約です。
1.盲人である者
2.視覚又は知覚若しくは読字に関する障害のある者で読書に困難を抱える者
3.身体的な障害により書籍を取り扱うことが困難であったり、読書が困難なほど焦点を合わせることや目を動かすことに困難を抱えるもの

2.4.アーカイブ利用促進のための例外規定の整備

美術館など展示展関連

現行法では美術館などが観覧者のために作品の解説・紹介をするための小冊子を作る際に許諾なく展示物の写真を掲載することが可能だった程度だったのですが、今回の改正により電子端末でも同様の利用が可能になりました。また、インターネット(企画展特設ページなど)で紹介する際、展示品のサムネイル画像を許諾なく提示できるようになりました。

著作権者不明等著作物の裁定制度

著作権者不明等著作物の利用円滑化のため、現行法では文化庁を通して事前に預ける必要があった補償金などを、利用主体が国や地方公共団体などで支払いが確実である場合には、権利者と連絡が取れた場合に事後支払いを行えばよいということに変更されます。

国立国会図書館による絶版資料等の送付

現行法では絶版などにより入手困難になった資料は国内の公共図書館に発信することが可能です。これが国外の図書館も対象になります。

終わりに

これで一通り年末年始に行われる著作権法の改正の主とした内容の紹介は終わりです。不正確にならない範囲でできるだけ簡潔になるように心がけましたが、いかがでしたか?

冒頭にリンクした文化庁のpdfで事足りた人もいるでしょうが、あれはある程度知識がないと結局別の資料を探すことになったり、公衆や著作物性などの点で思い違いが残ったままになったりするので、そう言った点を捕捉できていたら幸いです。

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