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【8・9月文楽】寿式三番叟

 2023年8月末から、国立劇場(小劇場)で、文楽の公演が行われています。10月末の閉場を控えての文楽としては最後の公演です。
 演目は、菅原伝授手習鑑(三段目以降)、寿式三番叟、曾根崎心中です。
 今回は『寿式三番叟』について、書いてみようと思います。

■「幕開き三番叟」がありませんでした

 いつもは、第一部が始まる15分くらい前に、二人遣いの人形が一体出てきて、舞を踊って帰っていきます。これを「幕開き三番叟」というそうです。
 私は今回スタンバイしていたのですが、なんと今回はありませんでした。「時間がおしているのかな」とか、「今日は忙しくて時間が無かったのかな」と思っていましたが、理由は別にありました。
 上演演目に「三番叟」がある場合、幕開き三番叟は行わないそうです。また、幕開き三番叟に、舞台を清め、公演の無事を祈る意味があることを、今回初めて知りました。
 文化デジタルライブラリーの質問の1つに上がっています。

■『寿式三番叟』について

 さて、本題の『寿式三番叟』に話を移します。本作は能楽の『翁』を文楽に移したものです。
 前半は、面箱を持って登場した千歳の舞、それに翁の舞が続きます。翁の謡の部分を床本から抜粋してみました。

とうとうたらりたらりら、たらりあがりららりとう ちりやたらりたらりら、たらりあがりららりとう

床本より

 おそらく能楽の『翁』と一致しているところと違っているところがあり、専門的な方は、比較などが出来るのかもしれません。
 床本の詞章には、天照大神の天の岩戸の部分があったり、この国の成り立ち(神話)について書かれている部分も多いようで、神聖さが伝わって来ました。

 翁の人形を遣われていたのは、桐竹勘十郎さんでした。翁の人形は、舞台奥の方で面を着け、舞の後に外すのですが、私はもう少し近くで見てみたいと思いました。
 以前、『妹背山婦女庭訓』で、お三輪が求馬の着物に糸を括りつけるときの勘十郎さんの素早い指の動きに「おおっ!」と思ったことがあり、今回の紐使いはどうなのだろうと思ったからです。
また別の機会に目を凝らして見てみようと思います。
 
 そして、こうした荘重な前半の舞に続いて、後半では、三番叟が2体の人形で演じられます。上演時間もある程度あり、結構激しい動きです。最後の辺りでは、(ストーリー上)疲れた1体がもう1体に励まされたりと、文楽らしい面白い要素も取り入れられている感じでした。
 また、舞台の上手・下手、前方・後方の四方を2体の人形が対角線上に回ります。これは、舞台の四方を清めているのだろうなぁ、と思います。

■最後に

 もう少し、太夫の方や三味線の方についても、記載出来れば良かったのですが、声や音の表現について文字で表すのは、まだまだ難しいです。

 さて、今回、第二部の頭に『寿式三番叟』が上演されましたが、これは初代国立劇場での最後の公演であり、前途を祝してという側面が大きいだろうなぁと思います。
 次の国立劇場が出来るまで少し時間があきますが、楽しみにしたいと思います。

 本日は以上です。

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