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2ミリの爪と、結婚式。

結婚した。
そして爪を切った。

10月末の金曜日、ついに結婚式を挙げることができた。今まで、本当に色々あった。
終わりよければなんとやらで、諦めずにやってよかったという感想になった。

式当日は、秋晴れの少し肌寒い日で、
予定通りガーデンウェディングを行うことができた。
親族だけ呼んだ、参加者11人のこぢんまりした家族式。

花嫁衣装に身を包んだ私は、照れくささと性に合わなさが勝り、
おしとやかな花嫁さんを演じるのは早々にやめていた。

いつも通りの太いセルフレーム眼鏡をかけ、笑う時はニカッと歯を思い切り見せ、
歩く時はドレスの歩きづらさを少しおどけてみせた。それが、花嫁衣装だからと言って借りてきた猫にはならない、私はわたしであるという、ささやかな主張だった。

それを横で見ていたパートナーは
「晴れ舞台だし、気難しい親戚がいるから、今日だけはおとなしくしてくれ」
などと咎めることもなかったので、
「あぁ、やっぱりこの人でよかった」とぼんやり思った。

それでも少しは自分を良く見せられるよう、晴れ舞台のために事前に努力していたのが、
爪を伸ばすことだった。

結婚指輪のアップ写真は必ず撮るだろうから、いつも通りの短いこの爪じゃあ格好悪い、せめて伸ばしてみよう。
そう思って式の二週間程前から意識してみたが、元々考え事をする時に爪を噛む癖が残っていたので、なかなかの努力を要した。

無事なにごともなく式が終わり、帰宅して顔を洗い、着替えて、すぐに違和感ありまくりの爪を切った。
長い長いと感じた爪は、しかし2ミリしかなかった。
2ミリが、私らしくいない努力の精一杯だった。

「結婚した自覚でましたか?」
式から何日か経った後、何人からか、この質問をもらった。
よくわからないですね、と答えた。

実感って何だろう。
たしかに私のお財布の中身は、新しい苗字に表記変更したクレジットカードやら銀行カードが割合を増やしてきている。

初めて行くお店に、電話予約で新しい苗字をたどたどしくも名乗ったら、横で聞いてたパートナーは「違和感あるね」と呟いた。

左手の薬指には、感触としてはまだまだ慣れない、異物の指輪がある。
それも毎日ではなく、外出する日に気付けば装着する程度で、よくて週1日の頻度だ。
それでいいかなと思う。

急いで慣れる必要もなし。
今まで33年間親しんだ苗字と同じく、33年間左手の薬指には何も無いのが通常だったのだから。
今までの苗字を捨てたわけではなく、バージョンアップして新しい苗字をプラスしたイメージが近いのかもしれない。
なんせ、銀行口座名義変更用紙に、新しい苗字の送り仮名を今までの苗字で書いたぐらいだから。

苗字名乗りの慣れや指輪の有無が結婚の自覚だと言ったら、自覚が芽生える気配はまだ無いけど、

買った大きなダイニングテーブルに休日の朝一に向かい合って座って、「今日やること」を2人で喋りながらメモに書き出す時間は、「この人と家族してるなぁ」と思う時間だ。

この先の人生で、他にもどんな瞬間に「この人と家族してるなぁ」と感じられるのか、楽しみでしょうがない。

2ミリの爪ぐらいの努力はしながら、気長に見つけようと思う。

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「今まであった色々」は、以下をどうぞ↓


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