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瀧本幹也「写真前夜」を読んで

 写真家であり撮影監督の瀧本幹也さん。彼は広告写真をはじめ、コマーシャルフィルムなどの幅広い分野で活躍している。「ポカリスエット」「南アルプスの天然水」、「東京シティ競馬」「ラフォーレ原宿」などの広告写真も彼の手掛けたもので、僕の大好きなMr.Childrenのアルバム写真なども撮影している。

 またその他にも、「万引き家族」や「海街diary」、「怪物」などの映画作品にも関わっており、現在の日本で名実ともにトップの一人だろう。

 そんな彼の写真・仕事に対する想いや工夫を知ることができる「写真前夜」が2023年3月に玄光社より出版された。

本書では、瀧本さんがこれまでに撮影した写真と共にその時のエピソードなどが記載されているのだが、それがほんとうにおもしろい。瀧本さんの説明がなければ、そこに写る被写体が一体なんなのか、そしてどう撮影したのかすらもわからないような写真ばかりで、読後一瞬にして「写真の世界」へと引き込まれる。

 本書のおもしろさの要因の一つに、これらの写真がほとんど「広告写真
」であるという点がある。

 「広告写真」は撮影者の意思や想いだけで成り立つものではない。クライアントの考えやコンプライアンス、世間の反応などを加味したうえで写真を撮影する必要があるため、純粋な「作品写真」とはわけが違う。

 言うなればそれは「制約のなかで行われる芸術」であり、瀧本さん自身もそのような状況下で撮影をすることが「燃える」とおっしゃっていた。

 芸術とはまた違うかもしれないが、瀧本さんの仕事に対する姿勢は商業ライターにとっても参考になるものだ。商業ライターは自身の個性を押し殺して、少しでも多くの人に伝わる文章を書く技術が必要になるわけではあるが、そのような制約のなかでも表現することを投げ出さないことが、真のプロフェッショナルなのではないかと考えさせられる。

 「自分が撮る」「自分が書く」。そのことの意味を追及し続けることは、競争のある世界においては必ずもっていたい信条だ。




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