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鹿島アントラーズの旗振り

 ピッチに背を向けている者がいた。鹿島アントラーズのスタンド最前線で指揮を執る「旗振り」たちだ。

 2023年10月27日、鹿島アントラーズ対浦和レッズの試合。いつもならピッチ上の試合ばかりに目が向く私だが、この日は少し違った。

 スタジアムに入るとスタンド席は一面が「赤色」に染まっている。その光景に度肝を抜かれた。同じく関東のチーム同士による対決ではあるが、まさかここまでの人間が集まっているとは知らなかった。
 その多くは地元鹿島アントラーズの大応援団と、埼玉の雄・浦和レッズの熱きサポーターたちであり、目を凝らすとわかるが、やや深い赤色が鹿島、太陽に照らされた発色の効いた赤色が浦和である。

 そのような色味の違いは、どこか応援のスタイルにも表れていたような気がする。

 アウェーであるにも関わらず、浦和レッズのサポーターはすさまじかった。90分以上彼らは飛び跳ね続け、なおかつ巨大なコレオを完成させてチームを鼓舞する。彼らが動くたびに発色の効いた赤色が太陽に反射し、浦和レッズというチーム全体の勢いを視覚化していた。正直なところ、声量という点でいえば浦和レッズはホームチームに勝っていて、私も最初は発色の良い方をホームチームだと勘違いしたほどである。

浦和レッズのサポーター

 一方の鹿島はホームの余裕だろうか。どこか「どっしり」とした応援の印象を受けた。鹿島の応援は浦和のように爆発的なものではなかったが、スタジアムに響くややキー低めの応援は、鹿島というクラブの歴史と誇りを感じさせるもので、その深い赤色は長年にわたり守られてきた赤色であることを感じさせる。

鹿島アントラーズのサポーター

 そしてなかでも特に印象的だったのは、鹿島の旗振りたちである。

 彼らの旗は他のチームとは少し違う。他のチームでは一般的に、多種多様な絵柄の旗が振られる一方、最前線で声をあげる鹿島アントラーズの旗振りたちは全員同じような旗を振っていた。

 まるで戦国武将が自軍と敵軍を見分けるためにのぼり旗を掲げていたように。鹿島アントラーズの旗振りたちは皆同じ旗を掲げ、同じ赤色でも自分たちは「鹿島軍」だということを全員が誇りとして抱いているように見えた。

 その誇りを胸に、鹿島の旗振りたちは「応援」という役目に身を挺する。

 たとえ鹿島のFKのチャンスでも、彼らは選手たちに「応援」が必要だと悟れば、ピッチに背を向けて鹿島大応援団の方を向いていた。サッカーファンであるならば、誰もが気になってしまうFKのチャンスにも関わらず、彼らは大きく手を振りかざし、応援団の熱い声援をリードしていた。
 その姿は、もはや監督だ。ピッチ内で選手たちを鼓舞し、戦術を指示する岩政監督とは別に、ゴール裏スタンド席でサポーターを鼓舞し、応援を扇動する旗振りという監督が鹿島アントラーズには複数人いる。

 試合は引き分けに終わり、両チームの大熱狂を聞くことはできなかった。どんなに素晴らしい応援でも、それがチームの結果として表れないことは当然ある。しかしそれでも「応援」を続け、旗を振り続ける彼らは、試合の酸いも甘いも理解している名将のようだった。名将のもと、これからも鹿島は常勝軍団であり続けるのだろう。

浦和レッズのコレオ
鹿島アントラーズのビッグフラッグ

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