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日大アメフト部の廃部について、日大生が想うこと

 日本大学アメフト部が廃部になるという方針が固まった、と今日ニュースで知った。

 アメフトに関わる友人や、いまこの時もアメフトに勤しんでいるであろう高校の後輩たちのことを想うと、やるせない気持ちになる。

 僕の高校における、一番つよい部活動といえばアメフト部で、それは日本代表なんかも輩出されるようなレベル。日大の附属高である僕の学校ではアメフトが盛んで、大学でもアメフトをやるということを早くから志す者も多かった。

 そんな彼らを横目に、僕たちはグラウンドの片側でボールを蹴っていたわけだけれど、正直に言えばアメフト部に対して多少の羨望があったことも事実だろう。

 アメフト部はスポーツドリンクを飲んでいて、僕たちは水道水だった。

 アメフト部にはかわいいマネージャーがいっぱいいて、僕たちには男のマネージャーが一人だけだった。

 アメフト部は表彰されていて、僕たちはされなかった。

 アメフト部にはいいスポーツ推薦がたくさんあって、僕たちにはなかった。

 そんなもんといえば、そんな程度のことだが、少しでも多くを「手にしたい」と考えるのは、あの頃の純粋な気持ちだろう。 

 あたりまえに、サッカーの方が好きであったわけだが、あの頃はアメフトをやっていた方が色々と「有利」だったのかもしれないなぁ、なんて考えることもあった。
 サッカーや野球は理不尽なコーチングが多いからという理由で、アメフトに鞍替えをした友人たちもいて、僕のなかでは「アメフト」というものは、一種の「頭のいい選択」に思えた。

 しかし、そんな選択が、必ずしも「いい選択」だ、と言い切れなくなったのは、「タックル事件」のときだ。

 あれは僕が高校2年生の頃だったはず。日大のアメフト部が起こしたタックル事件によって、僕たちは、ずいぶんとからかわれたもんだ。
 サッカー部なのに、僕たちがタックルをすれば相手ベンチからヤジが飛んできたり、小中学校の友人たちから冷やかしにあったりと、そんなこともあった。
 そしていつしか、自分たちでそれを自虐ネタにするまでになっていたし、「学校のブランド」なんてものは、あってないようなものだと感じていた。(学校側はそれを守るために必死だったように見えたけどね)
 そんな事件があったわけだけれど、僕は勉強をやってきていなかったし、人生に対してわりと楽観的かつ無知だったから、そのまま日大に進むことにした。なにも考えずに。

 だが、今思えば、当時のアメフト部の先輩たちや、将来のことを真剣に考えている人間たちは、この事件に対して、わりとセンシティブになっていたように記憶する。

 たぶん、この事件のせいで、日大への内部進学をやめた同級生なんかもいるだろうし、進学先の変更を薦めた親もいるんだろう。
 就職活動への影響が~、なんてことを高校生にして言うやつもいて、僕は他人事のように「日大やっちまったな」と思っていたよ。

 特にあのときの3年生は大変だったろう。進学までの時間もあまりなかったし、特にアメフトの先輩なんかは、このまま日大でアメフトを続けようか悩んでいた人も多いはずだ。

 そういった、ある種モヤモヤを抱えたまま、日大に進学した附属生は多いと思う。「これから、どうなるんだろう」って。
 世間は「日大」という単位を悪者のように映していて、それが余計に僕らの不安感を煽った。

 煽られて、煽られて。もう十分だと思った矢先に、今度は理事長問題がめくれて浮かび上がった。
 あれほどの長期政権だ、誰も知らなかったわけがない。メディアと周りの人間たちが、日大というガムを何度も味わうために曝け出した、一個の策略なのだろう。

 世間、というかネット社会では、丁度このときくらいから、「学歴社会」だとか「学歴厨」みたいな言葉がスタンダード化してきていた印象がある。  それに伴って、「日大」と名乗ることが恥ずかしいとまでは言わずとも、べつに、声を大にしてまで言うことではないのだと理解した。

 そしてそれが常態化したある日。理事長が代わるというニュースがあった。

 新理事長は林真理子氏。小説家であり、文化人でもあり、なによりOGである彼女が就任することで、多少の上昇気流は生まれたように思えたし、それが久しぶりの「明るめ」なニュースであったことは間違いない。

 彼女の就任によって、大学がすぐさまに変化を見せるということはなかったけれども、学内の行事や学長ブログなるものが新たに作られている様子を見ていると、そこには脱皮のように少しずつ訪れる良い変化が待っているのかもしれない、と思わせてくれた。

 しかし、今回の「大麻事件」が、まさに脱皮の最中に起きてしまった。

 「大麻事件」は脱皮直後の貧弱な肉体に傷をつけるものだった。
 完成しきっていない組織体制。人間関係。運営スキルは、「日大」という組織の現段階における「脆さ」を象徴していた。

 「大麻事件」の発覚直後に、林理事長がなんの根拠もなく事実を否定したことも、トップとしては間違った対応だった。
 その後の、調査・報告の段階においても、誠心誠意を世の中に示すことができずに、ついには林理事長のパワハラ報道まで噴出してしまった。

 あれだけの素晴らしい文字を綴ることのできる人間がトップにいて、どうしてあのような対応になってしまうのか、ということは謎である。
 お金や地位も、彼女は十二分に持っていたはずだ。そんな彼女がどうして上手くやれなかったのか、事の真相はまだわからない。
 だが、一つ。これは擁護ではないが、彼女が日大に対して、それなりの「愛情」を持って接してくれていたことは、彼女のエッセイや言動から、なんとなく、だが、伝わってきていた。
 もしもその「情」が、悪い方向に作用してしまったのなら、実に残念だが。

 さて、今回のアメフト部の廃部。世間はどう思ったのだろうか。

 少なくとも、ネットの即時的な反応を見ていると「しょうがない」や「ほかの部員が可哀想」、「当然のこと」などの意見が比較的多く見られた。

 これらを見て、僕が思ったこと。それは「大学スポーツ」はいったい何のためにあるのか。という疑問だ。

 もしもこの事件が、プロのスポーツチームで起きていたら、と考えてみても、そのチームが消滅する、という事態にまでは至らないのではないか、と思ってしまった。
 実際に、海外などでクスリによって多くの選手が処罰を受ける例は多々あっても、そのせいでチームが無くなるということは、少なくとも僕はあまり知らない。

 仮に、この事件の全容をチーム全員が知っていたとしても、プロスポーツとは違い、少なくともメンバーが一定周期で入れ替わる大学スポーツの舞台を、無くしてしまわずとも良かったのではないか、と考える。

 だが、実際に、大学側は部を無くすという方針を固めた。

 今回、日大のトップは「アメフト部」を無くすことで、同時に、そこにあった問題をも無くしてしまうという最悪の手法をとった。
 すなわち、それは問題解決、組織健全化への糸口を探し出して、実行していくという、決意を放棄したということに等しい。まさに、大人のやり方とでも呼ぶべきだろうか。
 きちんと手入れをすれば雄大に生い茂るはずだった森林を放置し、いざ、自然の脅威が我が身に襲い掛かることを察するやいなや、森林をまるごと燃やしてしまった。

 僕は大学スポーツが、まだまだ教育の場であると考えている。

 大学生が大人かどうか、みたいな議論はたまにあって、それこそ大学生のヤンチャ行動を大学側が対応していたりすると、それはもう「個人の問題」なんじゃないだろうか、と思うこともある。

 だけれど、そのめんどうくささ、みたいなものと一緒に歩んでいくのが、「学校」なんじゃないの?とも思う。

 もちろん、良くないことは良くないことなのだろうし、悪いことは悪いことだ。
 だけれど、そういう事をしてしまった経験が、「そういう事をしてしまった経験」として残るだけだったら、「学校」ってなんのための場所なんだろう。

 これは甘ちゃんで、矛盾しているような考え方かもしれない。また、自身が「大学生」であるからこそ、こう思うだけかもしれない。
 だけれど、「学校」という巨大なものに、散々振り回されてきた高校2年からの6年間を味わってきたからこそ、僕は言いたい。

 「学校はもっと責任もてよ」って。

 責任をもつことは、部を無くすことじゃないだろう。

 むしろ、部をもう一度誇らしい集団にしていくことだろう。

 通っている、関わっている人間たちが、誇りを抱けるようにしていくことだろう。

 問題ばかり起きてしまった部でもいいから、それでも「アメフト」がやりたいと願う学生を必死にサポートするべきだ。
 「大学でもアメフトをやりたい」。そんな想いを抱いた学生がゴロゴロいるであろうことが、アメフトの強い附属高校の生徒だったから分かる。
 「ほかの大学に行くことなんて考えていない」。そんな考えで、基礎学力到達度テスト(日大の附属高校だけで行われる、日大への付属推薦がもらえるテストの名称)を受ける高校生がいることも、自分がそうだったから分かる。

 彼らの不安を自分が理解しているとは言わない。もう4回生で、アメフト部とも大して関わりのない僕が言ったところで、結局のところは他人事のように聞こえるかもしれない。的外れかもしれない。

 しかしそれでも書いてみた。

 学ぶことがあるから学校なんだろ。

 なにも持ち合わせていないから、学校に通うんだろ。

 間違えることができなければ、それは学校じゃないだろ。

 大学スポーツが学校の一部として、教育の一端を担っているのならば、僕は、その「場」を残していくことが、真の教育的な「場」であることの義務だと思う。





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