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【ウォール街】野望と陰謀と策略渦巻く世界一苛烈なマネーバトル

※このノートにはウォール街のネタバレを含みます

 舞台は世界一の金融街と言われるウォール街、証券会社で働くただのセールスマンから超巨大資産家のバックをつけて一流へとなりあげっていく主人公、大切なものは金か情報か資産か信頼か。

 この作品における魅力はいくつかあるが一番大きかったのはアメリカの超巨大投資家ゴードン・ゲッコーである。株式仲買人の主人公にインサイダー取引を持ちかけ、主人公に他の投資家を追跡させることによってビジネスを先読みして大損を出させ、主人公が経営立て直しに燃えている父親の企業を売却解体しようとする悪党でありながら、「アメリカの金の半分は1%の金持ちが所有している」「金はある、ないのゼロサムゲームではない。社会の中で回っていて誰かの手にあるものなのだ。株や芸術品はそれそのものに価値はないが誰かが欲しいと思った瞬間に金に変わる。」という資本主義社会で財布を大きくしながら生きるためには的を射ている発言をする人物である。損を出すのが大嫌いで、金になることであれば何でもする。

 僕はこのキャラクターがとても好きだ。上昇志向が強いタイプではないが将来的に金持ちになりたいという思いがある、特に「言葉は悪いが欲望はエンジンになる」というセリフは将来社会に出て仕事をする上で強いオリジンにすらなりうるのではないかと感じた。底抜けに聡くて、服が、家が、女が、食事が、子供が、部下が全て超一流、金に変わる美術芸術や株を好み、情報を勤勉に集め、努力家で、他人を一切顧みないど悪党。悪く描かれがちな金持ちというキャラクターでありながら勤勉さと賢さで成り上がった尊敬ができる人物。一方で遵法意識がなくどこまでも欲深く最後は主人公と共に破滅する。この人物の愛すべき部分は資本主義社会で生きていく上で大切な考えだったのではないかと思う。

 もう一つの魅力は主人公の父親だ。経営が傾きかけた航空会社で働いているものの仲間から愛され、金に苦労する息子には貸してやる超人格者。労働組合に所属していて「金はその日暮らせる分だけあればいい」「お前は財布の大きさで人を見るのか」という発言をするゲッコーの対となる存在。超巨大投資家で欲深く野望の塊のようなゲッコーに対して労働組合に所属していて無欲で仕事に勤しむ父親とても綺麗な対比でありながら2人とも主人公に様々な影響を与えた人物である。父親の良さはなんと言っても信頼という点にあるだろう。人として他の人と一つの社会で生きる上で他人を欺いてはいけない、顧みなければいけない、大切にしなくてはいけない、裏切ってはいけない、家族思いで仲間思い、社会主義であろうと民主主義であろうと時代が違えど場所が違えど道徳的に大切なもの。主人公の父親にはこの魅力が詰まっていたように思える。

 3人目はモブだが主人公の上司だ、登場シーンも発言シーンも少ないが年齢から長期にわたって大金が毎日動くウォール街の第一線で生き続けてきたことがわかる人物。「ツキは一瞬しかない。この業界でやっていくには地道にやっていくしかない。」「人は光のない深淵を覗いた時に初めて自分の形がわかる。」というコツコツ続けていくことの大切さと苦境の中でこそ自分が大切にしているものは何かが初めてわかるという発言をした人物。特に面白いのは主人公との距離感だ、最初の発言は主人公がゲッコーのもとで自我を忘れるほど超一流のビジネスマンへと成り上がっているときの発言で、後者は主人公が一流の家も彼女も全てを捨てゲッコーと欺き合いのマネーゲームをして父親の企業を救った後の発言である。最初は主人公にとっては上手くいっているのを僻むような人に見えたが最後は破滅寸前の主人公に唯一会社の中で声をかけてくれた人物でもある。どこか距離があるが終始ビジネスマンとしては一日の長があるからこそ言える発言をする人物で一つひとつが金言だったように感じる。

 この作品のラストは1980年代後半のアメリカの社会情勢が反映されていてとても面白かった。作中の重要人物は4人、証券会社で成り上がりの野望を抱えて働く主人公と、金になることであれば何でもするゴードン・ゲッコー、労働組合のに入り仲間と働く主人公の父親、ゲッコーのライバルでありイギリスからきた超巨大投資家のサー・ラリー。サー・ラリーは企業を買収して立て直しを図っていたが主人公とゲッコーによる共謀によってとんでもない大打撃を受けたが、ゲッコーへの反撃と父親の企業の立て直しのために主人公と組み父親の企業を買収した人物である。

 ラスト破滅したのは成り上がりの野望を抱いていたゲッコーと主人公の2人である。一方でイギリスからきた投資家は企業の経営を立て直し、仲間と働いていた父親は明日も資本主義の社会をハートフルに生きていく。これは当時のアメリカが不況だった中で、「成り上がりの野望を持ってウォール街で働くような奴なんて自分は金を持っているだろうが仲間もいないし身の回りの一流のものは全て虚栄だし社会を乱すだけの存在だ」「今のアメリカの不況は一部の金持ち達が何の責任も持たずに悪どい事ばかりして自分の懐だけ豊かにしていたからこうなったんだ」というある種制作陣からの民意としての表れであり、一方で「虚栄な超一流じゃなくても、贅沢な毎日ができなくて不況でも幸せに生きていくことができる」「アメリカの投資家はダメなのばっかりだからイギリス出身の人間であれば、あるいはアメリカ人以外であれば何か今の不況のアメリカを変えてくれるのではないか」という思いが込められていたラストに見えた。当時の資本主義が生み出した不況から40年、日本でもリーマンショック以降不況が続くが不況でも幸せに生きていくために大切なこと、それを当時不況のアメリカを生きていた人たちが今不況の中で生きている人に伝えるタイムカプセルのような映画のようにも感じられてとても面白かった。

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