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だが、情熱はある、私にも。

職業安定所が実施する雇用保険説明会というものが、どういう頻度で、どういうサイクルで行われているかは分からないけれど、私が参加した回には、ざっと100名くらいの参加者がいた。

都内某管轄だけでその人数なのだから、全国合わせると、一体どれくらいの失業者が、日本に存在しているのだろう。

令和5年8月現在、失業率は2.7%(全国)、有効求人倍率は1.84倍(都内)。

雇用保険説明会で、こう示された。

私は今、その2.7%に属している。
好きな映画や音楽、本に関しての少数派なら進んで引き受けるが、こんなマイノリティなど、全く望んでいなかった。

有効求人倍率は、一見するとそんなに悪くないように見えるが、現実にはかなり厳しい状況にある。

職種別に見た時、大卒の女性が希望しがちな事務に限って言うと、その有効求人倍率は0.45。最も倍率が高い職種で、保安12.47。他に高い職種を挙げると、介護関連7.42。
他に、ホワイトカラーが含まれるであろう職種ならば、IT関連と販売・営業が共に2.91。

ITとも営業とも関係を結ばないとしたら、大卒能無しのアラサー転職活動者は、闇に放り込まれるのも当然だ。

求職申込みから就職までは、平均で73日かかるらしい。そして、3人に1人は1ヶ月以内に就職するそうだ。

"先手必勝!"

配られたスライドには、吹き出し付き、太字でデカデカと、当たり前の理由を添えてこう書かれていた。

経済的に。
企業側からの評価を考えた時に。
生活のリズムを保つ為に。

そして、意欲、コミュニケーション能力、営業力、事務能力等を踏まえた「就職力」は、時間と共にどんどん低下していく…。

そうなるともう、離職率が極端に高い(いわゆる)ブラック企業ぐらいにしか、拾ってもらえなくなる。

いつだったか、内田樹の著書を読んだ時、「強い人は、負け続ける体力がある人のことだ」みたいなニュアンスのことが書いてあった。

そう、背水の陣は、最弱なのだ。


私が、雇用保険説明会を受けるのは、実は今回が初めてではない。

2021年の冬にも、地元で受けた。  

今回のような会議室ではなく、広々としたホールで、席もまばらにしか埋まっていなかった。

あの時、こんな惨めな思いはもうしたくないと思ったはずが、気付けばまた、こんな所にいる。

あの時より狭い会場で、もっと大人数の中で。


母方の親戚に、もう40代半ば(もしかしたら50代かも)の男性がいて、彼は今でも、結婚せず、働きもせず、実家で暮らしている。

聞くところによると、今まで仕事が続いた試しが殆どないようだ。

私は彼の姿を見て、「こんな風にだけはなりたくない」といつも思った。

私はたくさん稼いで、親にとっては自慢の娘で、優しくて仕事ができる旦那もいるような大人になるのだと。

人生の全てが、努力した分だけ上手くいくとも、学生時代に描いた夢や理想の通りに事が運ぶとも、もちろんそんなことは微塵も思っていなかった。

でも、彼のような働かないプー太郎は、私とは流石に無縁だろうと思っていた。

いくら理想通りに物事が進まなかったとしても、仕事をしないなんてことはないだろうと。

実際には、無縁どころか、「明日は我が身」だった。


今回の説明会に参加して、2年前に感じた惨めな思いよりも深い絶望が存在する事を、私は知った。

そして、この絶望が、時を経る毎に深くなっていくことも、容易に想像がついた。

今はもう、必死に崖に捕まっている状態だ。私の細い指は、殆ど力が尽きた。ふっと力を緩めると、どこまでも深い穴に落ちてしまいそうな気がする。

でも、そう簡単に人は、希望を完全には捨て切れないということも、私は(たぶん)知っている。

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