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俺の家に無いもの

「ねぇ これ解いてみて」

ある日、家に知らないおじさんが尋ねてきた。
聞けば、同級生に聞いて、わたしの家に辿り着いたらしい。

その人は成績が優秀な学生を探していて、⬜︎⬜︎さんに紹介されて、わたしの所に来たらしい。

「君が頭が良いと思う子を教えて」

おじさんに訊ねられて、わたしは学年で一番頭が良い子の名前を言った。

わたしは、おじさんに渡された問題を適当に解いて、机にしまった。

数週間後、おじさんが問題用紙と解答用紙を回収しにきた。それ以来、おじさんが訪ねて来ることはなかった。

ほっとした。


高校に上がり、何も気にせずにテストを受けた。
結果を見て、これくらいかと思った。

しばらくすると周りの様子が変わった。
あぁ、そういうことか。

それ以来、調整するようになった。
わたしにとって、勉強は一番を取るものではない。

むしろ、一番を取ってはいけないものだった。
適度な順位をキープしておく。

一度、3番以内になった時は、実に冷ややかなものだった。5番以内には、絶対にならないようにしよう。

最初の模試は全て白紙で出した。
模試だと校内順位が上がってしまうから。


三年生の時に、先生が赴任してきた。
わたしが先生に会った最初の授業で、

「furniture。俺の家には無いものだ。」

という台詞をはいて、生徒の頭に単語を印象づけて、ツカミを得ようとしていた。


その日の放課後、先生に会った時に聞いてみた。

「ねぇ、先生の家には本当に家具はないの?」

「あぁ、ないよ。」

「何で?」

「〜〜〜〜〜」

「へぇ、そうなんだ。」

「ねぇ、先生は何で、予備校の先生を辞めて、学校の先生になったの?」

「〜〜〜〜〜」

「ふ〜ん。そういうもんなんだねー。」

「じゃぁ。先生、さようなら。」

「あぁ。さようなら。」


またある日の放課後。

「あ、先生。こんにちは。」

「お前がこの時間まで居るの珍しいな。そう言えば、⬛︎⬛︎がお前のこと心配してたぞー。」

「あぁ。△△ちゃん?△△ちゃんは、あっちの校舎だから、ほとんど会わないんだよねー。わたしのクラスは、あっちの校舎で授業無いからさ。今度、△△ちゃんのクラスに顔出すよ。」

「ねぇ、先生聞いてー。今日さぁ。あまりにも眠くて、申し訳ないなぁとは思っていたけど、授業中に寝ちゃってさぁ。そしたら、◯◯先生に教科書で叩かれて起こされたー。」

「まぁ。一番前の席で寝てたら、注意しないわけにはいかんだろ。」

「あはは。そうだよねー。」

「お前、進路決まったのか?」

「ん〜まだー。たぶん、就職すると思うよー。」

「というか、先生がそういうことを言うの珍しいね。他の先生に何か言われた?」

「いや別に。」

「だよね。先生は生徒に興味が無いし、生徒が志望校に受かろうが落ちようが、どうでもいいもんね。まぁ、先生のそういうところ、好きだけど。」

「だって、どうでもいいからな。」

「あはは。先生ひどーい。」

先生はわたしのことに興味が無いから、気楽に話せる。先生も毒のようなわたしを気にすることなく話してくれる。


夏になって、先生に言われた。

「本気で勉強したら良いのに。勿体ない。」

「え〜やだ。勉強して、良い成績を取っても意味無いし。」

「本当に就職するのか?」

「ん〜たぶんね。」


秋になって、先生に言った。

「先生。わたし、本気で勉強することにした。と言っても、進学するわけでもないし、あと3ヶ月位しか無いけどね。」

「おー良いんじゃないか。」

「本当、先生は適当だよねー。まぁ、担任でも、副担でもないしね。」

「じゃあ。先生、さようなら」

「はい。さようなら。」

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