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よくないもの

「ねぇ これはどう?」

「ううん わたしのじゃない」

少女は小さく首をふる
少女は表情を変えない

「分かった また来るね」
「うん」


「ねぇ これは?」
「違うよ わたしのじゃない」

「じゃあ こっちはどう?」
「ううん わたしのじゃない」

「ん〜 それなら これはどうかな?」
「    」

少女は無言で首をふる


「おねぇさん もういいよ 探さなくて

わたしのものはないから

どれも わたしのものじゃないから

だって どこを探してもなかったから

だからもう 探さなくていいよ」


「そっかぁ でも ぜんぶは探していないでしょ?
 だから まだ分からないよ」

少女の小さな手を きゅっと握る
ほんのりとしたぬくもりが伝わってくる


「じゃた またくるね
今度はあっちの方を探してみるね」

少女は何も言わない
少女はそこを動かない

少女は何かを探しているようで
何も探してはいないのかもしれない


その少女の言う通り
少女のものは どこにも無いかもしれない
でも 探せば 見つかるかもしれない

たとえ 少女のものはなかったとしても
誰のものでもなければ
少女のものになり得るかもしれない


「ねぇ これはどうかな?」
「違うよ わたしのじゃない」

「そっかぁ」
「ねぇねぇ おねぇさん 聞いてもいい?」
「うん いいよー なになに?」

「何で みんな 自分のものだと分かるの?
 何で 自分のものだと言えるの?」

「ん〜 あなたはどうしてだと思う?」
「分からない 悪いことではないと思う」

「じゃあ 良いことだと思う?」
「良いことかは分からない
 良くないことではないと思う」

「そっかぁ 良くないことだとダメなの?
 良いことでないとダメなのかな?」

「うん だって そう教わったから
 だから 良いことをするの」

「良くないことは したらダメなの?」
「ダメではないと思う
 でも 他に良いことがあるならしない」
「うんうん そうなんだね」


少女の価値観は 
良いことが基準になっているのかもしれない

悪いことではなけど
良くないこともダメなのかもしれない




「おねぇさん 何で みんな欲しいと思うの?
 何で やりたいと思うの?」

「ん〜 あなたはどうしてだと思う?」
「分からない 悪いことではないと思う」

「何で 本当に欲しいものでもないのに
 欲しいと言うの?」



なるほど そういうことか
少女は本当に欲しいものがないから
だから

「ぜんぶ いらない
 何も いらない」


そう言ったのだと思った
どれも 少女が選んでもいいものだったのに


本当に欲しいと思っていないから
自分が持ってはいけないのだと
自分が持つべきではないと

そう思ったのかもしれない


必要なものでさえも欲しがらない
何も持ちたがらない

何かひとつでも
少女が持つことができたら

変わるかもしれない



「ねぇ あなたにこれを受け取ってほしい
 あなたに持っていてほしいの」

「どうして?
 わたしが持っていいの?
 それは良いことなの?」

「あなたに持っていてほしいから
 あなたが持つことは良いことだよ
 あなたがこれを持っていてくれると
 わたしはとても嬉しい」

「うん 分かった」


やっと

少女が受け取ってくれた





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