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アフターコロナに注目されるのは日本の武道!?ーカミュの「ペスト」に対する思想家・内田樹さんの視点から紐解く


 コロナ禍の中、仏ノーベル賞作家カミュの「ペスト」の発行部数が日本で100万部を超えるなど改めて注目されている。


 それにあわせて再放送されていたNHKの『100分de名著ーアルベール・カミュのぺスト』第4回のゲストで出演されていたフランス文学者・思想家であり、武道家の内田樹さんの話が面白かった。

以前より、内田樹さんが思想家でありながら身体性に注目される武道家であることに興味を持っていたが、その背景には、なんとカミュの「ペスト」があったのだ。

内田さんは「ペスト」を読んで

「自分の体が持っている本来的な生物としての直感を丁寧に育てていく」

ことの重要性を感じ、その後、何十年も武道の稽古をすることになったとのこと。


 「ペスト」は、カミュが自身が体験した第二次世界大戦時から戦後におきたフランスでの対独抵抗組織(レジスタンス)と対独協力派の間の対立における人間模様を表現した作品とも言われる。

極限下の中で正義を振りかざし他者を断罪するあり方の是非と、そこから生まれる分断と対立を乗り越えるには何が必要か。
カミュの「ペスト」はそのことを全体を通して伝えているようにも思える。

特に印象的なのが、「ペスト」の後半に主人公のリウーとタルーが海水浴をするという場面。月明かりの静かな海の中で、ただ一緒に泳ぐことにおいて幸福感とお互いの共感に満ちる場面を番組でも取り上げていたが、ある意味内田さんがいう

「自分の体が持っている本来的な生物としての直感」

を感じる場面であり、そこに海という自然が介在しているのも興味深い。

自然の中に溶け込むことで感じられる本来的な生物としての感覚が、
頭の中で正義の判断軸を作り事の良し悪しで他者を切り離すという対立を超えていく共感に繋がる。


 ストレスが溜まる極限下ほど、ゆとりがなくなり、分断や対立が発生しがちになる。そこで必要になるのが冷静になれる心の力とそれを支える身体感覚への気づく力(マインドフルネス)だ。

そして、その身体感覚を聞き、生命として求めていることに気づくことこそが今もっとも大切ではないだろうか。

分断を超える共感がそこから生まれていく。


 長年”正義”というものを大事にした結果、葛藤を感じ続けたカミュは、晩年、アルジェリアの独立戦争時に

「私は正義を信じる。しかし正義よりも前に私の母を守るであろう」

と述べた。

コロナの自粛中には、人との繋がりや家族という存在の重要性を感じた方も多いと思うが、自分にとって本当に大事なものが何なのかを改めて考えさせられたように思う。

その大事なことに気づくために重要なのが、身体が発する声をしっかり聞くことではないだろうか。


 内田さんは、カミュの描いた「ペスト」を読んだあと、合気道という武道の道に進んだが、日本には武道以外にも、茶道、能、など、身体的叡智が育める文化が多分にある。

内田さんの「日本の身体」という本の中では下記の記事にあるように、日本人が古来から培ってきた身体的叡智には、分断や二極化を乗り越えるためにのヒントが多く隠されている。

 

 そして、その日本の身体的叡智は世界のビジネスリーダーにも注目されている。

2018年の日経ビジネススクール主催のMBA EXPOのエバンジェリストトーク「Beyond MBA~世界はいま、こんなことを学んでいる!?」で筆者が対談させて頂いた株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役 豊田圭一 氏がお話されていたことだが、豊田氏が卒業したMBAプログラムの世界トップランキング常連校 であるスペインのIE Business Schoolの最先端のリーダーシッププログラム Executive Master in Positive Leadership & Transformationでは、マインドフルネスの実践が取り入れられているのはもちろんのこと、JUAN HUMBERTO YOUNG教授による日本の合気道から学び得た身体的知性を活かしたプログラムが取り入れられているとのことだ。

 複雑性に満ちたこの世の中を、全てに置いて白黒ハッキリ分け、ロジカルに判断することには限界がある。複雑な分けられない世界をそのままの間合いで感じることを意思決定やリーダーシップに活かすこと、頭での理解だけでなく、”腑に落ちる”と表現されるような身体感覚を大事にしていくことが、アルゴリズムが支配するデジタルAI時代において、より一層大事になってくるのではないではないだろうか。

その感覚を育む、武道などの日本の身体的叡智に世界が注目しているのが興味深い。

日本にある身体的叡智を改めて学び直すとともに、

「自分の体が持っている本来的な生物としての直感を丁寧に育てていく」

このことを今後、より一層大事にしていきたいと思う。

※参考記事:「リーダーシップの極意」を合気道の教えから学ぶ

 


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