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スペクタルを真っ直ぐに受け止めることのできない悪癖を嘆く:映画『ナポレオン』レビュー

 ホアキン・フェニックス主演で話題だったリドリー・スコットの大作をApple TVで配信鑑賞。見応え十分。中盤の戴冠式は、ルーヴルの名高い歴史画そのもの。衣装、装置、装飾が見事で息をのむばかり。冒頭のマリー・アントワネットの断頭台シーンから長尺2時間半があっという間である。
 ナポレオンの生涯や歴史的事実は誰もが知るところであるから、これをどう描く以上に、どこに新味を出すかにならざるを得ない。リドリー・スコットは、悪妻として歴史に刻まれるジョセフィーヌ基軸で全編を描き切った。同役のヴァネッサ・カービーが好演、妖艶、自堕落な雰囲気を体現している。アカデミーの候補にならなかったのが惜しまれる。ただ、ジョセフィーヌと出逢い、結ばれることで絶頂を極め、関係の破綻が没落に直結という脚本はあまりに安易、脆弱。
 名だたる歴戦シーンはいずれも圧巻だが、近時の大作鑑賞の際の悪癖で、CG、SFXでどう処理されているのかと受け止めてしまう自分が情けない。自分にとっての大巨匠、デビット・リーンの画面ではいささかなりとも、そんなこと思いもしなかったのに。
 しかし、これが現況。それゆえにこそ成立するスペクタルは理解しているので老輩の世迷言と聞き流されたい。
 映画館に足を運ばなかったことを深く悔やんだ佳品である。

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