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映画『イニシェリン島の精霊』レビュー

多くには薦めないが観るなら映画館で観るべき作品。何より舞台となった絶景の最果ての地と称されるアイルランド、アラン諸島の架空の島の全編で描写され、背景となる風景に圧倒される。そのあまりの広辺深淵さと、ドラマそのもののきわめて個人的なこととの隔たりの大きさが印象深く、初発から内容への疑問符がずっと解消されないせいもあって2時間があっという間ではある。昨年秋の東京国際映画祭ガラ・セレクション、アジアン・プレミア上映され、ゴールデン・グローブ賞コメディ部門作品賞、主演男優賞を受賞、アカデミー賞でも8部門9ノミネート、作品賞、主演男優賞の最有力との呼び声が高い。しかしながら、個人的にはそう強く推奨できない。アイルランド問題の根深さやキリスト教が内包する主題について、作品に照らし合わせられるほどの理解を有さないと、本作が生まれた必然性や、何故多くにもてはやされるのかを十分には納得できないからだ。
老齢に至って自らが求める芸術観追求のために長年の人間関係を遮断しようとする思考に、まずもって共感できない。あまつさえ、それを阻む友人の有り様に対し自身の求めるものにあって重要であるはずのものへの自傷行為で対峙する行動原理が理解できないのである。アイルランド内戦や死生観のメタファーを読み取ったりすることで作品の内奥の豊かさを評価する向きもあるようだが、常に主人公の傍らにありつづけた存在に悲劇を設けるまでして、かくも沈鬱な抒情に終始する作品を冒頭記した通り多くに向けて必見ですとは、とても言えない。行間が大き過ぎるのである。 

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