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映画『土を喰らう十二カ月』レビュー

主演の沢田研二が次々賞レースで栄誉を得ているのを祝して劇場鑑賞。水上勉の晩年のエッセイを監督中江裕司が脚本にして、料理指導を土井善晴に乞い願い出て実現した佳品。成城に住まわれた水上勉の山荘は当初軽井沢で、その後、御牧村の勘六山房へ移っている。エッセイは軽井沢山荘暮らしを知った『ミセス』編集女史に求められ連載、上梓されたものとのこと。映画は同じ信州白馬村を舞台にして、そこでの立春から冬至までの1年間を丁寧に描いて、心穏やかに観通すことのできる良質な仕上がりである。配役も完璧。横浜ナンバーの車でやってくる編集女史に松たか子、地元の食と暮らしぶりの師匠に火野正平、亡妻の弟夫婦に尾美としのり西田尚美、そのふたりには煙たく気丈な母(義母)に奈良岡朋子と考え得る最良の芝居上手を脇に置いて、沢田研二が見事なまでに文壇の美男子水上勉になりきっている。松たか子の合いの手が気にはなったが、映画的サービスとも言える人間模様で味付けして、土井氏が原作脚本に応えて整えた料理いずれも素晴らしく、売れっ子の大友良英の音楽がいいアクセントとなって滋味深い2時間が過ごせる。欲を言えば、韓国でもリメイクされた『リトル・フォレスト』やエッセイ原作の名品『日日是好日』の後追い感が払拭しきれていない雰囲気が惜しまれる。大人、高齢者向けの一本である。

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