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ヒトリノショク

これまで当たり前にしてたことなのに、環境が変わるともう二度とできないように思えるようなことってある。
私にとってのそれは、1人での食事だろう。

大学進学を機に上京してから
一人暮らしが始まった。
そういえば最初の1年は寮生活だったから、家でひとりご飯を食べるようになったのは大学2年生のとき。
友達の少なかった私は
アパートで、朝も夜も1人でご飯を食べていた。
何を食べていたのかはあまり覚えていない。
家で、
一人で食べるご飯ってなぜだか思い出せない。

学食でも、1人で食べることはあった。
母校が力を入れていた帝国ホテルお墨付きのカレーのことはよく覚えている。
大学付近はオフィス街で、昼になると中華料理店がワンコインの中華弁当を売り出したり、サクッと入って食べれる定食屋さんがあったり、ランチには困らなかった。
その時も、もちろん一人なのだけど
なぜだか家で食べるつまらなさはなかった。
だから、
どんなものを食べていたのかよく覚えている。

賄い付きの居酒屋でアルバイトを始めてからは、夜はだいたいお店で食べていた。
バイトがあればその日の賄いをお店で食べる。
バイトがなければバイト仲間を誘って飲みに行く。
きっと1人で過ごすには大学時代の夜は退屈すぎて、しかも寂しかったんだと過去を振り返って思う。

1人の夕ご飯が当たり前になったのは、
社会人として働き始めてからだ。
同僚と飲みに行くことやバイト仲間に誘われて呑んだくれるときもあったけど、年数を重ねるごとに1人での食事が増えていった。
生活を見直そうと、
アルコールを控えてからは尚更だった。

仕事が終わったら
スーパーに寄って惣菜を買って食べる。
ラーメン屋に立ち寄って食べて帰る。
家にある春雨と飲み物でしのぐ。
適当に野菜を炒めて食べる。
たまには何か作ってみて食べることもあったけど、あの当時は料理という料理をしていたという記憶がない。

食べることは好きだから、1人でも楽しめる。
美味しいなとか、上手くできたなとか、
その時々で感動しながら食べていたはずだけど。

パートナーと同棲を始めて、
朝も夜もご飯を一緒に食べる生活が続いていた今
あの日々を思い出そうとすると
ひどくつまらなそうな自分の顔が浮かんでくる。
そして、久しぶりに1人で食事をした今日
やっぱり1人の食事はつまらないと思ってしまった。

そう、つまらないのは食べる瞬間で、
一人暮らしの時も作る時はワクワクしてた。
今日も冷凍餃子が皮パリパリに焼けてすごくワクワクした。嬉しかった。
いざ、食べるぞって時にワクワクは半減する。

あ、美味しいな。上手くできたな。以上
これで終わってしまうのが悲しい。
話す相手がいたら、
あ、美味しいな。上手くできたな。
それ以上の言葉が巡って弾むだろうに。

私は今日手軽だけど、
すこし寂しい夜を過ごした。