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ホンダ シビックe:HEV

競争率5倍以上のフラッグシップをよそに

ジドーシャメディア界隈では、シビック・タイプRが断然話題のようだ。
SUVやミニバンが全盛とはいえ、旧来からスポーツモデルは「映え」がするし、蘊蓄だけで紙幅が埋まるし、眺めているだけでなんとなく景気もよい。
そんなムードが奏功したかどうかは定かではないけれど、今回試乗したディーラーでは割り当て数100台に対して5倍以上(!)の申し込みがあったとの話。
いやぁ対応にだいぶ苦慮してます、と若い営業さんが困惑気味に教えてくれた。
と、白熱の奪い合いに水を差すようで申し訳ないのだが、個人的にはびっくりするぐらい興味がない。

※HONDA 公式Websiteより


曰く最高出力330ps、最大トルク420Nm。ニュルブルクリンクをFF最速タイムで(もういい加減比べるのやめたらどうだろう)駆け抜けた……とか。いま書くために調べてやっと知ったぐらい。
ひと握りの、しかも限られた領域や場所でしか真骨頂が味わえない性能など心底どうでもいい。
わざわざシビックの名前、使わなくてもいいんじゃないか? とも思う。

軽快・軽量でアフォーダブル。
やっぱり守旧派は初代から5代目あたりまでの鮮やかな記憶が忘れられないものだ。
サイズやフォルムは違えど、そのイメージを久々に彷彿とさせてくれたのが、今回試乗したe:HEVモデルだと思う。
結論から言ってしまえば、現行シビックの真打ちはこれだ、と異論はあるかもしれないけど勝手に断言したい。

購入候補の急先鋒として

個人的な話で申し訳ないのだけれど、今乗っているクルマの残価設定ローンの期限があと2年なのだ。
そろそろ次期購入候補を考えなければならない時期。
そのなかでひときわ気になっているのがシビックe:HEVだ。
どのジャーナリストもYoutube上で「軽快・気持ち良い」を連発しているのが気になったし、ほぼモーターで動く機構と、熱効率が高い新しいエンジンにも興味が湧く。
所有車史上、初の「デンキ入り」を導入するという趣向もドキドキするし。
そんなこんなでかなり真面目に検討を始めていたのであった。

さりげなさがとてもいい

ぐるりとクルマの周りを1周してみる。
先代までの悪夢のようなひどいフォルムは成りを潜め、最近のホンダ車共通のシンプルな面構成の採用にほっとする。
マツダやシトロエンには敵わないけれど、やっと追いつけるレベルまで来たかも、と思わずにはいられない。
ラジエターグリルのハニカム模様はまったく似合ってないので1秒でも早くやめてほしいけれど。
インテリアも特別な説明がなければガソリンモデルとの差はほとんどない。差別化しないさりげなさに好感が持てる。
ボタン式のシフトスイッチが識別ポイントぐらい。あとはリアシート下のバッテリー冷却用のスリットか。
シートの座り心地もキッチリしている。長距離でもお尻の位置をずらさなくても良さそう。パワーシートも嬉しい。

ミズスマシ復活

スタートボタンを押すとオープニング音楽が流れ(誰が必要としているのか?)スタンバイ状態に。いつでも発進してOKよ、となる。
それにしてもメーターのグラフィックが派手だ。情報量がこんなに多い必要はあるのだろうか?

※HONDA 公式Websiteより

そんなことを考えながらアクセルを踏むとしずしず、そしてスルスルとクルマが無音で動き始める。
しばらくしてエンジンが「ここにいますよ、一応……」といった風情で申し訳程度に唸るけれど、すぐに停止する。
それ以降、走行中にいつエンジンが掛かったのかほとんど見当がつかなかった。

特に感心したのが最近のホンダ車に共通するボディの立て付けの良さだ。
新型ステップワゴンでもその堅牢さに驚いたものだが、シビックではさらに際立っているように感じた。
18インチのタイヤを易々と履きこなし、若干のコツコツを伝えるものの快適さは損なわない。
VWゴルフあたりに引け目を感じる必要は今やまったく考えなくて良い。

パワーユニットも期待通りの仕上がり。なるほど、気持ちが良い。
積極的にアクセルを踏みたくなる。
静粛ゆえ、若干目立つ風切り音とともにモーターが軽く唸りを上げ、車体がスイーっと前に進む。
ステアリングの正確さも相俟って、無駄に車線変更を繰り返してしまった。

この軽快さ、オデッセイはおろかNSXすら存在しなかった時代のホンダ車を思い出す。
VTEC前夜のカタログスペックには現れないスムーズなパワーユニットで、他のライバルを走りで凌駕していたあのころの「意地っ張りだったホンダ」を彷彿とさせてくれた。


いただけないシフトスイッチ

かなりご機嫌な気分でディーラーに戻り、駐車スペースに収めてみる。
しかし。

※HONDA 公式Website動画より

e:HEVの識別点であるボタン式のシフトスイッチ、これの操作性がいただけない。
D(ドライブ)は素直に真上から押す、R(リバース)は指を突っ込んで後方に押す形式なのだが、前進と後退を繰り返すシーンでは使いにくいったらないのだ。
慣れれば問題ないのかもしれないが、初見で咄嗟の操作ができるとは思えない。
あとで広告を見たら「直感的な操作性・エレクトリックギアセレクター」とあって椅子から転げ落ちそうになった。
ガソリンモデルと同じセレクターか、最近流行りの小さいレバー方式でよかったのではないか。
ショッピングモールや自宅の駐車場で、いちいち寿司を持ち上げるような手つきで車庫入れをする気にはなれそうにない。

これからのメインストリーム

シビックにハイブリッドが初めて採用されたのは2001年。そりゃあ作り慣れているわけだ。
しかし失礼かもしれないけれど、インサイトほどの本気度はなく「プリウスに対抗して一応用意してあるんですわ」と言い訳するための”モブ扱い”としての歴史を重ねてきたのがシビックハイブリッドだったように思える。
それが今やどうだろう。堂々と主役を張ってもだれからも文句は言われない仕上がりに到達した。
スポーツ万能の帰宅部。どこかの雑誌記者が呟いたホンダ車に対する”肩肘張らない軽快さ"をたとえた絶妙なフレーズがある。
そう。肩肘張らない爽快な感覚がホンダ車のスポーティネスの真骨頂なのだ。
少なくとも歯を食いしばったタイプRが代表格ではない。
苦節20余年。その帰宅部が再びクラス対抗リレーに登場して大活躍する。
それが今回のシビックe:HEVかもしれない。