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「家を購入すべき」か「家を借りるべき」か計算してみよう(不動産ファイナンス)

人生における大きなテーマの1つである、「家を購入すべき」か「家を借りるべき」かという問題。
今回は、MBAの授業の1つとして私が受講していた「不動産ファイナンス」において、このテーマにファイナンスの観点から徹底的に取り組んだので紹介します。
(※初めてこのnoteを読んでいただいた方向けに、私は2023年から米国東海岸のビジネススクールに留学しています。)

最初に、家を「購入する」ことのメリットやデメリットを紹介し、その後に、実際にファイナンスの観点から、家を「購入する」のがお得か、「借りる」のがお得かを計算してみたいと思います。実際に、住宅を購入するか否か迷っている方の一助となると幸いです。

なお、計算方法に関しては無料版で全て記載した上で、計算に使用したエクセルファイルについては有料版で提供させていただきます。前提となる数値を皆様の設定に入れ替えるのみで簡単に再計算できるように整理しておりますので、ぜひご活用いただけると幸いです。

1. 家を購入することのメリット・デメリット

家を購入することのメリットの例は以下の通りです。
・自分の資産となる
・購入時から売却時に向けて価値が上がる可能性がある
・将来のインフレ時の保険となる
・自由に家をリフォームできる
・自身のステータスとなる
・家を持っていることで精神的な安定が得られる

一方、家を購入することのデメリットの例は以下の通りです。
・購入時から価値が下がる可能性がある
・管理費や修繕費を支払う必要がある
・引っ越すことのハードルが上がる

2. 家を「購入する」か「借りる」かファイナンスの観点から判断する材料

今回、不動産ファイナンスの観点からは、
(家を購入して売却するまでの一連の費用)が(同じ期間、同グレードの賃貸住宅に住んだ場合にかかる一連の費用)よりも、
低い場合:「購入すべき!」
高い場合:「借りるべき!」
という判断を行います。
例えば、家を購入して売却するまで15年間の総費用が5,000万円、同じ15年間同グレードの賃貸住宅に住んだ場合の総費用が5,500万円の場合には、購入すべきということになります。

これを聞くと単純そうなのですが、不動産を購入し、そこに住み、売却する一連の流れにおいては、様々な要素が絡んできます。
購入価格、不動産取得税、購入手数料、借入額、年限、所有期間、固定資産税、都市計画税、管理費、修繕費、売却価格などなどです。
次のセクションでは、これらの項目に言及しながら、具体的な計算方法を紹介します。

3. 計算方法

住宅を購入し、居住し、売却する一連のフローに関するキャッシュフローをこれから計算します。

①住宅を購入する
住宅を購入する際に検討することは、以下の通りです。
ここでは、東京都中野区に8,000万円の20坪(66㎡)の2LDKの分譲マンションを購入することを例にして説明を進めたいと思います。

購入価格
住宅を購入するときの価格です。ここでは8,000万円と仮定します。

不動産取得税
マイホームなど不動産を取得した場合に課税される税金。不動産の「取得」について課される税金で、固定資産税とは違い取得時に支払うものです。本来は土地と建物の固定資産評価額の4%ですが、住宅には減免措置(3%)がなされています。しかし、今後減免措置がどうなるかは分からないので、ここでは一旦保守的に「購入価格の4%」と仮定します。

購入手数料
仲介手数料(仲介の場合)、印紙税、登録免許税などがここに含まれます。ここでは、トータルして「購入価格の4%」と仮定します。

また、住宅を購入する多くの方々がローンを利用するかと思いますので、借入の前提についても説明します。

頭金
ローンで賄わず、購入時に直接現金で支払う金額です。ここでは、「購入価格の20% = 1,600万円」と仮定します。

ローン元本
ローンの元本です。購入価格から頭金を引いた金額となります。ここでは、(購入金額)- (頭金)= 8,000万円 - 1,600万円 = 6,400万円となります。

金利
ローンの金利です。ここでは、年率3%と仮定します。

所有期間
実際に住宅を購入してから売却するまでに何年住むか、を想定します。ここでは10年と仮定します。

ローン年限
何年物のローンを借りるか、を想定します。ここでは30年ローンと仮定します。

ローン手数料
ローンを借りる際の融資手数料です。ここでは、融資額(=6,400万円)の1%と仮定します。

毎年の支払額
毎年、ローンの元本と利息でいくら支払うかです。ここでは詳細な計算方法は省きます(付録のエクセルシートでは自動的に計算されるようになっています。)が、上記の条件に基づくと、毎年3,265,233円支払うことになります。

住宅購入の前提条件

②住宅に住む
次は、住宅を保有している際に毎年計上されるコストについて解説します。
固定資産税・都市計画税
土地や建物などの固定資産を所有していると、その固定資産が所在する「市町村」に税金を納めなければなりません。これを「固定資産税」と言います。その課税は固定資産課税台帳に記載されている価格の1.4%となります。ここでは想定として、「購入価格の1.4%」とします。
一方、都市計画税は、都市計画法による「市街化区域内」にある土地と建物が課税対象です。税率は0.3%です。ここでは、「購入価格の0.3%」とします。
また、毎年のインフレ率を2%と想定し、これらの税金は毎年2%ずつ上昇していくことを見込みます。

住宅ローン控除
住宅ローン減税制度は、住宅ローンを借入れて住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図るための制度です。この制度についても将来的に変更される可能性があるため、ここでは想定として、「毎年末の住宅ローン残高の1%」とします。

管理費・修繕費など
管理組合に支払う管理費や、修繕積立金、保険料などの住宅の維持に関わる費用です。ここでは、「購入価格のうち建物にかかる費用(ここでは購入価格の75%とおいています)の3%」と想定します。
また、毎年のインフレ率を2%と想定し、これらのメンテナンス費用は毎年2%ずつ上昇していくことを見込みます。

住宅の運営費

ここまでで、毎年の運営費用が計算することができました。

10年間の運営費用

③住宅を売却する
ここでは、10年目に住宅を売却するときの売却収益について説明します。
売却価格
住宅の価格上昇率を年間2%(インフレ率と同じ)と想定すると、10年後の売却想定価格は、8,000万円×(1+2%)^10 = 約9,751万円となります。
ここから、ローンの元本の残りと売却費用(仲介手数料)を引いたものが売却収益となります。

10年後のローン元本
計算により(付録のエクセルでは自動的に計算されます)、10年後のローン元本は約4,857万円となります。

売却時の仲介手数料
売却価格の3%(約292万円)と想定します。

売却収益
(売却価格)- (10年後のローン元本)-(売却時の仲介手数料)= 4,601万円
となります。

④キャッシュフローの作成と現在価値
①~③までで、キャッシュフローの作成に必要な要素がそろいました。各期間のキャッシュフローは以下の通りです。
0年目(購入時):出資額(マイナス)(頭金+購入手数料)
1~9年目:運営費用(マイナス)
10年目:運営費用(マイナス)+売却収益(プラス)

キャッシュフロー

このキャッシュフローについては現在価値に割り戻す必要があります。現在価値は、将来の価値を現在の価値に戻すことです。例えば、今日の100円と1年後の100円では、今日の100円の方が価値が高いです。なぜなら、今日の100円を然るべき先に投資することで、1年後に100円以上を得ることができるためです。
従って、将来の価値は「割引率」というレートで本日の価値に割り戻す必要があります。
さらに、かなり複雑なのですが、この割引率の適用に当たっては、ローン比率(ここでは物件価格の80%)を考慮すべきです。詳細には立ち入らず(実はここだけで9時間分の授業があります。また、計算については付録のエクセルで自動的になされます)簡単に説明しますが、ローンを借りている分だけ、ローンを借りない場合よりもリスクが上昇しているため、このことをリターンに反映するべき、という考えです。これらを総合すると、今回適用する割引率は23%となります。

この割引率を各年に反映し、キャッシュフローの現在価値を算出します。
0年目:-23,040,000円のまま
1年目:-5,834,561/(1+23%) = -4,743,545円
2年目:-5,912,199/(1+23%)^2 = -3,907,859円
・・・
このキャッシュフローの現在価値を0年目から10年目まで合計したものが、この住宅を取得してから売却するまでの総収支となります。ここでは、-40,298,636円となります。したがって、10年間で40,298,636円の負担となります。これを10年間賃貸住宅に住む費用と比べればよいこととなります。

帰属家賃
この40,298,636円を120か月(10年×12か月)で割ると、335,822円となります。この335,822円を帰属家賃と呼びます。帰属家賃とは、帰属家賃とは、ある人が住宅を所有し、居住(使用)するために支払わなければならない家賃のことをいいます。この帰属家賃と、賃貸住宅の月額賃料が対応します。
ということは、スーモなどの賃貸住宅紹介サイトで掲載されている、周辺の同等の住宅賃料相場とこの帰属家賃を比較することで、どれだけこの住宅を購入することが得か否かを判断することができます。たとえば、中野区の20坪(66㎡)の2LDKの賃料相場が30万円であるとき、この分析においては、賃貸マンションに住む方が得、となります。

まとめ

※一方で、一般的に分譲マンションの方が賃貸マンションよりも設備が優れていたり、他にも様々な評価項目があるので、単純なファイナンスバリューのみでは評価はできません。そのため、あくまでも参考までにお考えいただけると幸いです。

4. エクセルファイル(比較シート)

上記の計算のために作成したエクセルファイルを添付します。
30年までの期間で自由に保有期間を変更することができます。以下に示す項目(エクセル上では青字の数字)を修正することで、汎用的に使用することができます。

購入価格:本例では8,000万円。実情により修正。
不動産取得税:本例では4%。実情により修正。
購入手数料:本例では4%。実情により修正。
住宅ローン手数料:本例では1%。実情により修正。
頭金:本例では20%。実情により修正。
金利:本例では3%。実情により修正。
所有期間:本例では10年。実情により修正。
ローン年限:本例では30年。実情により修正。
固定資産税+都市計画税:本例では1.7%(固定資産税1.4%+都市計画税0.3%)。実情により修正。
住宅ローン控除:本例では1%。実情により修正。
管理費+修繕費など:本例では3%。実情により修正。
建物比率:本例では75%。実情により修正(難しい場合はそのままで大丈夫です。)
住宅価格上昇率(年率):本例では2%。固定してOKです。
売却時の仲介手数料:本例では3%。実情により修正。
ベータ(借入考慮前):リスクの度合いを測る数値。本例では1。固定してOKです。
エクイティリスクプレミアム:同じくリスクの度合いを測る数値。本例では5%。固定してOKです。
賃料上昇率(年率):本例では2%。固定してOKです。
リスクフリーレート:リスクがない資産(国債など)の金利。本例では2%。固定してOKです。


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