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期間工の仕事納め

休みは思いっきり遊んでリフレッシュしてください


年内工場勤務最終日の班長の挨拶はまさかの異動も兼ねた挨拶で締め括られた。

2ヶ月半働いて、12人からなる班のほとんどから班長は嫌われていたように感じた。

筋肉隆々でジャイアンのような見た目の班長は仕事に実直なあまり、失敗する人を怒鳴りつけては、巷でいうパワーハラスメントが横行されていたように思う。

2ヶ月半の中で、ひとりが1ヶ月で辞め、ひとりが3日後に別の班に移ったのも、班長のパワーハラスメントが原因だと思われる。

不器用な性格で、仕事以外の話をすることが苦手で、怒鳴ってしまった数分後には無理やり頑張って笑顔を作って、今後は気をつけるように、と再度接してくるような態度が多いことから、感情に左右される人柄を嫌う人が多く、全くもって班内の支持は得ていなかった。

特に新人、弱そうな人を選んでいたのもあって、過去に被害を受けた人たちは心底嫌っていた。

そんな班長を見ていると、何か自分でも葛藤しているような様子もあって、たまに接する時は、仕事に関係のない何気ない会話をすることに励んだ。

もちろんたまに理不尽な態度を取られると、こちらも腹が立つことはあったが、それよりもどうにかして班長は何が好きなのか、何に興味あるのか、などのなんてことのないような日常会話の素晴らしさに気付いてほしくて、接していくと、まず自分に対してはほとんど怒らないようになっていた。

これから班長が自分自身で気付いて、班全体の雰囲気が良くなればいいなと思っていた矢先の異動は被害を受けた人がようやく勇気を振り絞れてホットラインに相談した結果だった。

目に涙を溜めながら、俺がいなくてラッキーになる人もいると思う、こんな自分に付いてきてくれてありがとう、この班でもっといたかった、とずっと言えなかったであろう本音のようなものが吐露され、人が少し変わる瞬間を見て、こちらももらい泣きしそうになった。

ふと周りを見ると、早く終わってくれんばかりにソワソワする人や全く心に響いていない人もいて、挨拶が終わった瞬間、席を立ち帰る人もいたり、美談では語り尽くせないような現実も垣間見れた。

一生会うことはない、と泣いて笑うように言う班長の顔は晴々しく、この2ヶ月半の中で一番良い表情をしていた。

帰り道、いつも仲良くしているハタチの佐藤くんは入社当時、散々班長からひどい仕打ちを受けていたせいもあって、ルンルン気分になり、大好きなパチンコ店へと向かって行った。




人との交流が億劫になり、2ヶ月間引きこもりになり、せめてもの人との関わりが少ない中で仕事をしてみたいと始めてみた期間工も当たり前ながら人と人で成り立っている仕事で、人と人とのストーリーに泣いたり怒ったり笑ったりしている。

佐藤くんを始め、指導員をしてくれた先輩、副班長、少ないながらも関係を築けている人もおり、週末には一緒に外食に行ったり、年始には釣りに行く予定もある。

昼休みには、いつもよく恋愛相談をしてくる24歳の副班長が、彼女ができた写真を見せてくれて、一番初めに言いたかったんすよ、と満面の笑みで言ってくれた時は、こちらも本当に嬉しかった。

機械と向き合う時間も多いせいか、不器用な人が多い工場の中でも、人に生かされ生きている。

一度離れてみて、また改めて、人との関わりの素晴らしさを存分に感じれた満ち足りた心で、これから家族のもとへ夜行バスで向かう。

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