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【読書日記】9/11 秋の夜長に。「光り降る音・天つ風の音・星月夜の音/かんのゆうこ 東儀秀樹」

光り降る音 天つ風の音 星月夜の音
かんのゆうこ(文) 東儀秀樹(絵) 講談社


「笙」「龍笛」「篳篥」
こう並べて書くだけで平安文学の世界に入り込む気がします。
雅楽で使われる3つの管楽器。
字面ではお馴染みでも、実際にどんな楽器か、どんな音色か、というと甚だ心もとない私。雅楽は聞いたことがあっても、どの楽器がどの音を出しているかが分かりません。

そんな現代のごく一般的な素人にも、それぞれの楽器の特徴が分かりやすく、また透明感のある物語で教えてくれる絵本です。
「笙(しょう)」「篳篥(ひちりき)」「龍笛(りゅうてき)」の三つの楽器はそれぞれ「天」「地」「空」を表現するのだとか。

イラストを描いているのは、雅楽奏者の東儀秀樹さん。
かわいらしさと上品さがほどよくて、お話の内容によく合っています。
天は二物も三物も、と俗人丸出しで羨ましくなりますが、雅楽を守り伝える使命を帯びて生まれたゆえなのだろうな、と思います。

それぞれ、「きこえない音をきく耳をもったふしぎな白うさぎ」の物語として語られます。

光り降る音 ~「天」の音を奏でる笙のおはなし~

星の秘密のこぼれる音、花の想いのひらく音の聞こえる白うさぎ。
白うさぎには、天から降りてきた鳳凰の、どこまでも透明な天の響きが聞こえます。
月明かりのなかで、光の音を響かせながら夜空を舞う鳳凰とその音によりそって舞い踊る白うさぎ。

みんなの心がやさしい響きで満たされるのなら


ところが、その音が聞こえない他の動物たちに、「おまえはうそつきだ」と言われ、ひとりぼっちになってしまいます。
その哀しみに寄り添った鳳凰は「私が音を奏でる楽器となって、光り降る音をこの森いっぱいに響かせましょう」と楽器に姿を変えました。

笙は、鳳凰が翼をたたんで休んでいる姿に似ている。

天つ風の音 ~天と地をつなぐ「空」の音色、龍笛のおはなし~

きびしい日でりがつづきました。

白うさぎは、山奥にある龍の池で「どうか、ゆたかな雨を降らせてください」と祈ります。
すると、おおきな龍がすがたをあらわしますが、胸の奥に痛みがあり、天に昇れない、と告げます。
白うさぎは、龍の口へと入り胸をふさいでいる冷たいかたまりを引っ張り出します。
ひんやりと冷たいかたまりからは、凍えるようなさびしい音が響いています

ずっと長い間ひとりで生きてきたのですね

白うさぎは、龍のかなしみにそっとよりそい、ひんやりと冷たいかたまりを溶かします。すっかり溶けたとき、手の中に残った風のようにすがすがしい一本の笛。

白うさぎの奏でる笛にのって天にのぼった龍は天の門を開き、天と地をつなぐようにやわらかな雨が降り注ぎました

「龍笛」天と地の間を自在に駆け巡る龍の鳴き声

星月夜の音 ~地上にすまう人間の声を表すゆらぎの音、篳篥のおはなし~

涙川のほとりで、白うさぎの耳にひびくやさしい歌声。
かつてこの森に住んでいたきつねの親子の物語を語ります。

星に願いを。「かあさんとずっといっしょにいられますように」

星を眺めてこぎつねが歌う。「星くずたちが流れてゆくよ・・・」
ある日、おおかみに襲われて命を落とした子ぎつね。
母ぎつねは、子ぎつねのたからものである星のかけらを丘の上に埋めました。
母ぎつねは泣いて泣いて泣いて、涙は川となり、母ぎつねは川辺の葦となりました。
丘の上にはたけのこが顔を出し、竹林になりました。

白うさぎは、涙川を流れてきた竹を拾い、葦とあわせて竹笛を作りました。
離れ離れになった親子の心がふたたびひとつになれるように願いを込めた笛の音は星のかなたへと消えて行きました。

篳篥は魂をゆさぶる。息を通して愛情を伝える楽器(東儀秀樹氏あとがきより)

秋の夜、虫の音が響くようになりました。
そんな夜にふさわしい絵本です。