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【読書日記】7/29 出会いに感謝。「星合う夜の失せもの探し/森谷明子」

星合う夜の失せもの探し ~秋葉図書館の四季~
森谷明子(著) 東京創元社

秋葉図書館シリーズ三作目、とはいえ、第二作からだいぶ間があいてしまっているので、久々の新刊発売が嬉しくて早速読みました。

秋葉市のはずれ、野原の中にぽつんと立つ秋葉図書館には、明るく世話焼きの新人司書さん、きびきび有能で生気に満ちた司書さん、普段は眠そうで覇気に乏しいけれどいざとなると名探偵の洞察力を見せる司書さんがいます。
本や調べものに関する質問はもちろん、日々の暮らしに潜む謎や困りごとにもそっと手と本を差し出してくれます。

物語のなかだけでなく、日々の暮らしの中で起こる揉め事には、人々の思いのすれ違いや考え方の違いがからんでいます。推理小説の中の事件と違って謎解きが大団円にかならずしもなるわけではありません。
心に苦みや痛みは残るけれども、それを抱えていても生きやすくなるような心の落としどころを見つける糸口になる、という感じでしょうか。

「本」が解決を手助けするということは、本を読むことで自分の考え方だけがたったひとつの正解ではないということを知ること、多面的に検討する姿勢を持つこと、硬直した視点をときほぐす効果があることによるのだと思います。
ということは、日々、本を読んでいる私なぞは、揉め事とは無縁のはずなのですが・・・。そうはいかないところがこの憂き世の難しいところですね。

それはさておき、本書は、前二作で登場した人物のその後や関係者の方々も登場して、秋葉の四季とともに六編の謎「どこにいたの?」について語られています。

それぞれ、短編には季語の題名がつけられているのも私にはうれしいポイントでした。

『良夜』
閉店したブックカフェからいなくなった猫とアガサ・クリスティ「春にして君を離れ」

『事始』幼い日に世話になった女性にかけられた疑いと「風と共に去りぬ」

『聖樹』
自転車事故の犯人と疑われている少年と「谷川俊太郎」と「ラプンツェルとつるにょうぼう」

『春嵐』
ネットに出品された盗品と事故の日の行動と「枕草子」

『星合』
鍵をかけられた文箱と大刀自の秘密と「家計簿」と「万葉集」

『人日』
図書館開設準備の日々と旧家の兄弟の間にある思いと「カラマーゾフの兄弟」と「最初の殺人事件」

今回、とりあげられている本は、どれも私の好きな本ばかりで、それぞれの解釈も含めて楽しく読みました。

本書の中では「星合」が一番好きな章です。
秋葉本家のなくなったおばあさん(大刀自)の鍵のかかった文箱。暗証番号を知るために家計簿をたどり、大刀自の在りし日の行動を探っていきます。

帳簿に潜む物語性というのは私が興味を持っているテーマですし、旧家で「嫁」のおかれた立場や、とある昭和史に残る事件とのかかわり、「歌」への思いなど様々な要素が上手に組み合わされていき、最後には満天の星空をのぞんだような豊かで爽快な気持ちになりました。

 秋葉では、七夕は旧暦とのことですが、私の住む町でも同じで、あちこちに七夕飾りが飾られています。
この広大な宇宙で織姫と彦星が出会うのは奇跡のようなご縁。
同じように人と人、人と本が出会うのもご縁。
せっかくのご縁であるならば、悪縁とならぬようお互いに相手のことを思いやり大切にしていきたい、そう思うのです。