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日本の半導体部品製造集積地はどこなのか調べた ~大手半導体製造装置部品メーカー営業拠点所在地調査~

半導体。

最先端超高性能のコンピュータから、炊飯器まで、今やあらゆるモノに使われている半導体部品。
その需要のあまりの高さから、半導体製造は経済を左右し、さらには国家間の情勢にまで影響を与えるようになった。
かつて世界の半導体部品製造の中心にいた日本は今や世界一ではなくなったものの、今もその存在感を保ち続けている。

では、日本の半導体部品の「一大産地」はどこなのだろうか?アメリカでかつて呼ばれた「シリコンバレー」に相当する場所はどこなのだろうか?

真相を解明すべく、カメヤマは半導体製造装置の奥地へと向かった…


0. なにこれ

 タイトルの通りです。日本で半導体たくさん作ってる地域がどこか、大手半導体製造装置メーカーの営業拠点の分布をもとに調べました。
 結果が先に知りたい方は上の目次から2.結果のところまで読み飛ばしてください。

 きっかけは数年前、地元である四日市について、あることに気付きました。「キオクシアの工場があるおかげで、四日市市中心部に世界的半導体製造装置メーカーの営業拠点が集結しているな?」
 ということで調べてまとめたのが下記ツイート(当時の情報に基づいて作成しています)。

 これらメーカーはBtoBゆえ知名度が低いのとTEL以外は海外の企業なのでピンと来ないかもしれませんが、どれも企業規模もとんでもなく大きな巨大メーカーです。各企業についての解説は割愛します。ASMLはASMRじゃないぞ。

 さて、以上の事実から、ある推測が立てられます。
半導体部品製造の集積地には、半導体製造装置メーカーの営業拠点が集結しているのでは?
 ということで、日本の半導体産地を探るために、大手半導体製造装置メーカーの営業拠点の場所をすべて調べました。今回はその報告です。

1. 調査

調査対象

 半導体製造装置メーカーの売上トップ10の企業を対象としました。本当は最新の2022年のランキングにおけるトップ10の企業を出したかったのですが、毎年3月末にランキングを発表していたVSLI Research社がTechInights社に買収されたためか、2022年のランキングが未だに報じられていないため、やむなく2021年のランキングを用いることにしました。
 ランキングは下記の通りです。カッコ内は略称で、以下の記事中では略称で表記します。

2021年半導体製造装置メーカー売上ランキング
1位 アプライドマテリアルズ (AMAT)
2位 ASML
3位 東京エレクトロン (TEL)
4位 Lam Research (Lam)
5位 KLA
6位 アドバンテスト
7位 SCREENホールディングス (スクリーン)
8位 テラダイン
9位 Kokusai Electric
10位 ASM International (ASM)

(参考:今回調査対象外とした11~15位)
11位: ASMPT、12位:日立ハイテク、13位:SEMES、14位:キヤノン、
15位:ディスコ

出典:2021 Top Semiconductor Equipment Suppliers (VSLI Resarch/Tech Insights)
https://www.techinsights.com/blog/2021-top-semiconductor-equipment-suppliers

 実際には順位変動が激しく、10位前後のラインナップが入れ替わっている可能性が高いですが、データがないので2021年のこのトップ10社を対象とします。15社調べたほうがいいけど、10社でもけっこうまとめるのが大変だったのでやめました

(追記) 記事書いてる途中に、別の中国のマスメディアから2022年版ランキングが発表されていました。順位変動はあったものの、ラインナップは10社のラインナップは同じなのでこのまま続けます。いやラインナップ変わってなくてよかった…。

調査方法

 各メーカーの公式ウェブサイトに掲載されている営業拠点の住所をまとめました。全部。番地まで。
 このうち日本企業の多くは部門それぞれが子会社化されており、本社本体の営業所があまりないので、その場合は子会社の営業拠点を調べました。中でも、半導体部品工場に近いであろう、保守・点検を行う子会社の営業拠点を対象としました。
 海外企業については、日本法人の本社を除く各拠点を対象としました。
 以下、対象とした会社名になります。

AMAT:アプライドマテリアルズジャパン株式会社
ASML:エーエスエムエル・ジャパン株式会社
TEL:東京エレクトロンFE株式会社
Lam:ラムリサーチ合同会社
KLA:ケーエルエー・テンコール株式会社
アドバンテスト:株式会社アドバンテスト
スクリーン:株式会社SCREEN SPEサービス
テラダイン:テラダイン株式会社
Kokusai Electric:株式会社国際電気セミコンダクターサービス
ASM:日本エー・エス・エム株式会社

2. 結果

入力データ一覧

 国内拠点全部で83か所調べました。わかってたけど多いな…。スプシ配布してもいいけど、免責事項とかちゃんと書くの面倒なのでやめときます。
 スクリーン(SPEサービス)については、公式サイトに住所が掲載されていなかったので、代わりに電話番号から所在都市を調べました。
 拠点数を都市ごとにまとめ、ランキングにすると以下のようになりました。

都市別半導体製造装置メーカー営業拠点数ランキング

1位 熊本県北部*1  9拠点
 2位 三重県四日市市 9拠点*2
3位 広島県東広島市 8拠点
4位 岩手県北上市  7拠点
5位 山形県鶴岡市  6拠点
  長崎県諫早市  6拠点
7位 大分県大分市  5拠点
8位 富山県富山市  4拠点
9位 愛知県名古屋市 3拠点
  10位以下省略

※メーカーは2021年時点世界トップ10社。拠点数は2023年4月現在データ。
*1 熊本県菊池郡や上益城郡など複数市町村にまたがって存在
*2 熊本と同率だが、Lamが四日市市に2拠点置いているので、会社数の差で熊本を1位とした

 というわけで、日本国内で最も製造装置メーカー営業拠点が集結しているのは熊本県北部という結果になりました。市町村単位だと熊本は益城町の3拠点が最大なものの、分布からして熊本の集中度は無視できないので、まとめて1位とさせていただきました。いや世界トップ10のうち9社が位置してる時点で強すぎる。そりゃTSMCも来る。
 しかし2位以降もかなりの接戦となっており、来年以降には情勢が変わっていてもおかしくない状況です。三重県四日市市に至ってはLamリサーチが2拠点も出店しており、その重要度が伺えます。
 では、さらに分析していきます。

3. 考察と分析

トップ3都市分析

熊本県北部

地理院地図より作成 赤丸が半導体製造装置メーカー営業拠点

 最も営業拠点がいた熊本県は、イメージセンサなどを生産するソニーの工場が菊池郡菊陽町にあるほか、車載向けデバイスなどを生産するルネサスの工場が位置しています。
 これらを支える形で、半導体製造装置メーカーが熊本平野に広く点在しています。それぞれの営業所は豊肥本線の駅前にそれぞれ位置するほか、熊本空港の玄関がある益城町にも進出しています。ゆえに、工場近くというより、東京など遠方からのアクセス(九州新幹線熊本駅、熊本空港)を優先しているか、単に営業所への通勤のしやすさを優先しているのかもしれません。
 ソニーはイメージセンサでは今も世界シェアを掌握しており、その生産の中核を担う熊本の工場は非常に存在感を放っています。そして菊陽町にはソニーに加えて、世界最大手のファウンドリであるTSMCが進出予定となっています。まさに、ここ熊本が現在日本最大の半導体生産の集積地と言っても過言ではないでしょう。

三重県四日市市

地理院地図より作成

 次点の四日市市には、フラッシュメモリなどを生産するキオクシアの四日市工場があるほか、隣の桑名市にはファウンドリであるUSJCが位置しています。
 熊本と異なり、四日市の営業所は基本的に四日市市街の中心部に集中して出店しています。0章で示したツイートにもある通り、そのすべてが近鉄四日市駅から徒歩圏内にあります。ここまで集中している地域は国内に他にはなく、半導体製造装置メーカーの密度でいえば四日市市中心部が日本一の激戦区といえるでしょう。
 最寄り駅である平津駅や近鉄富田駅ではなく、近鉄四日市駅・(JR)四日市駅周辺に集中している点も興味深いところです。ともに最寄りの特急停車駅なので、熊本同様に遠方からのアクセスを優先しているのでしょうか。

広島県東広島市

地理院地図より作成

 東広島市にあるのは、DRAMメモリなどを生産するマイクロンの工場があります。おそらくメーカーはこの1社のみ?見落としていたらすみません。
 東広島も、営業所は東広島市中心部、山陽本線の西条駅前に集中しています。新幹線駅である東広島駅ではありません。この点は前の2都市と異なり、一見して遠方からは少し不便に見えます。しかし、東広島はこだまが1時間に1本しか停車しないこともあって東方からのアクセスが絶妙に悪いので、のぞみで広島まで行って山陽本線で折り返したほうが便利という判断かもしれません。

考察

 例としてトップ3都市について見てきましたが、半導体部品製造の集積地というより、「大手半導体メーカーの大工場が1~2か所ある」というところであり、シリコンバレーのような集積地とは少し違うかもしれません。いわゆる「企業城下町」といったほうが近いでしょうか。しかしながら今挙げた3都市が代表的な産地であることは否定できません。
 また4位以降も同様に、1~3社程度の大工場を支える形で各製造装置メーカーが集結しているような感じです。4位の北上市はキオクシアとジャパンセミコンダクターとTDK、5位鶴岡市はソニーとTDK、同じく5位の諫早市はソニー。見落としがあったらすみません。
 営業所の立地をそれぞれみると、どれも工場近くの駅前に集中することが多く、逆に大工場に近接させるような営業所は少ないです。各都市の分析でも述べた通り、東京など遠方からのアクセスと、通勤のしやすさを優先した結果と思われます。

何か足りない…?

 以上まで半導体製造装置メーカーの分布から半導体部品製造の集積地を探してきましたが、何か足りない気がします。当初の私の予想ではもっと上位に食い込んでくるであろう地方がいくつかありました。
 一つは滋賀県・京都府の東海道本線沿いで、もう一つは新潟など北陸の日本海沿岸地域です。前者は村田製作所やロームなどが、後者は信越化学工業やオンセミ(撤退?)などが拠点を置いています。
 これらの生産地が浮かび上がらなかった理由は、いわゆる半導体製造装置を使わない製品が主力であるためと思われます。半導体製造装置の多くはシリコンウェハを加工・評価するものがほとんどです。しかし、例えば村田製作所の主力製品はセラミックコンデンサですが、あくまでセラミック製品であり、シリコンウェハを加工するようなプロセスを用いないということなのでしょう。
 …いやウェハ加工するプロセスも村田とか京都滋賀の各社やってる気がするぞ?わからんくなってきた…。

4. まとめ

 今回は、半導体製造装置の営業拠点の分布を調べることで、日本の半導体部品製造の集積地がどこであるかを調査しました。結果として、ソニーなどがいる熊本や、キオクシアのいる四日市、マイクロンのいる東広島が最大の集積地であることが示されました。
 しかし以上の3都市だけでなくほかにも日本各地に同様の集積地があることは都市別ランキングで示した通りです。また、半導体製造装置メーカーの営業拠点の分布と相関のないような集積地があることも推測されるので、3都市が断然トップと決めつけるのは早計かもしれません。生産額調べろよというのはごもっとも

 そして今後は、熊本にTSMCが進出することで熊本の重要度がより増していくでしょう。また、昨年2022年に設立されたラピダスが日本のファウンドリとして、北海道千歳市に進出予定であることを発表しました。いやー楽しみですねえ!!!!(他人事)
 とはいえ半導体もといIT業界はムーアの法則で示されるように、あまりに情勢の変化が激しいので、今後どうなっていくかは正直誰にもわかりません。そもそも、半導体製造装置のメーカーの勢力図も激しい変化が予想されます。これからも注意深く見守っていこうと思います。

余談

 ・・・・・・・というわけで、半導体部品製造について書き上げたところで、このnoteのジャンルをかき乱す作戦が着々と進んでおります。ナナシスと半導体の両方を一つの媒体で語った人間は私が世界初かもしれない。
 大学ではMEMSを研究してて、よくSiウェハをBoschプロセスでゴリゴリ掘ってたのもあり、半導体プロセスについて何かしら書きたいなと思ってた次第です。いまの仕事でも若干半導体に関わってるし。まあ大手10社の設備は1回も使ったことないけどな!
 それと四日市のあの地図を改めて作りたかった。四日市のすごさを伝えたかった。それだけ。本当は滋賀と併せて、鈴鹿山脈を「半導体山脈」って名付けようかとも思ったけど、調査データと噛み合わなかった。というかスクリーン以外滋賀にほとんどいないのなんでなん?
 あと、半導体というよりディスプレイ製造を見落としてるんよな…亀山と茂原…。

 余談が長いぞ。さあ次は何書こうか。そもそもここまで読んでいる人がいるかわかりませんがご期待ください。

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