「暗幕のゲルニカ」原田マハ

 言わずと知れた美術ミステリの大傑作。9.11を題材に、アメリカに平和の象徴としてピカソ作、「ゲルニカ」を取り戻そうとする女性キュレーターの奮闘と、「ゲルニカ」制作に携わり、またピカソの名作「泣く女」のモデルにもなったピカソの愛人ドラ・マールの物語が交差する。

ゲルニカに描かれる戦争の悲惨さ。それを繰り返すまいと奮闘した当時の芸術家の魂が、9.11で傷ついたNY市民に勇気を与える。

 ピカソ時代の主人公はピカソ本人ではなく愛人のドラ・マール。ピカソを心から愛し、ゲルニカを共に作り上げたが、自分は妻でもなければ若い恋人でもない。そんな孤独と戦いながらも、芸術家としてのピカソを愛する一心でピカソを支え続ける。

色々なテーマが混在しているけれど、私が主に感じたのは以下の3つ。

・平和への願いと人々を心を動かす芸術の力
・芸術(家)を愛する歓びと孤独
・芸術を愛すること。それが、世界を少しずつ変えていること

 間違いなく、ゲルニカは人々の心を打った。それが描かれた何十年後の、9.11の時も。そしてその絵の裏側には、ピカソの情熱と、一人の女性の葛藤があった。それが脈々と受け継がれ、今でも人々に語りかけている。「平和とは何か」。
 そんな作品をNY市民に届けようと奮闘するキュレーター。彼女は芸術家ではないが、キュレーターという仕事を通して作品を人々に届けることで、世界を変えていく。

芸術とは何か。平和とは何か。改めて考えさせられる一冊。そして何より物語のテンポの良さ、読みやすさでページをめくる手が止まらない一冊です。



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