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中国・全人代での3つの注目点

22 日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)に関わるニュースで、投資家にとって今回注目すべきポイントは、(1)国内総生産(GDP)成長率目標が示されないのは改革方向、(2)李克強(リー・クォーチャン)首相が目立つことはテクノクラート(技術官僚)の重要性の増大、(3)香港の統制強化に向けた法案は米中摩擦の原因だが世界経済成長の足かせとは見ない、だと考えます。

まず、(1)GDP成長率の目標設定の見送りは予想の範囲内ですが、ポイントは「無理して示さない」ことにあります。これは中国国内改革派の主張で、無理な目標設定が地方政府の非効率なプロジェクトにつながるので、今回は避けるべきとの考えが採用されたと考えます。守旧派のエコノミストなどは目標設定継続を主張したようだが押さえ込まれました。今回の目標設定見送りは、投資プロジェクトを絞り込み、質を上げるという「デレバレッジ」の元々の考えに基づくもので、改革的で適切な方針と言えるでしょう。

(2)李克強(リー・クォーチャン)首相の姿が目立ったことも、(1)と似た見方ができます。中国共産主義青年団(共青団)出身の李首相は、太子党や地域閥ではなくテクノクラートの代表と目されています。新型コロナウイルス感染防止対応などをリードしてきましたが、今回は経済政策(雇用拡大)が主張の中心となりました。GDP成長率の目標設定の見送りとともに、経済・財政政策で無理をせず合理的判断を重視する傾向が強まっていると考えられ、中国経済の持続性が高まるとみています。

(3)香港の統制強化に向けた法案はサプライズの一つと言えそうです。新型コロナウイルス感染防止のため活動が低下している香港の自治権拡大要求のタイミングに重なるものだと想定しますが、投資の観点からは、貿易摩擦の原因となる不安要素と懸念されます。確かに、欧米各国が中国の新型コロナウイルス感染拡大防止への対応が悪かったとの主張とともに、中国を攻撃する材料となりそうです。特に米国は大統領選が近づいており、批判の声は強まりそうです。11月の米大統領選まで、トランプ大統領は様々な中国批判を行い、2019年に引き下げた関税率を一部戻す可能性も強まるでしょう。仮に民主党のバイデン氏が大統領となっても民主党の「人権重視」の姿勢は香港の統制強化を嫌う可能性が高いとなると、総じて中国と米国の関係は改善方向に進みにくいとみます。しかし、だからと言って世界経済全体を大幅に悪化させるとは考えにくく、そもそもコロナ・ショック対応で大幅な経済悪化が懸念される政策は取りにくいのです。仮に一部の関税を引き上げても、元々大して経済に影響を与えなかった税率ではあるので、アナウンスメント効果が主なものとなるでしょう。市場はいちいち苛立つ恐れはありますが、世界への幅広い投資の観点から、経済成長や企業収益の経済正常化による回復に紛れる程度になると想定します。

リーマン・ショック後に世界経済の成長率を引き上げた中国と似たような効果を期待できないという失望はあるようですが、そもそも当時は中国が現在ほど世界需要の中で重要ではありませんでした。計算上世界の成長率に貢献したからといって、当時先進国の需要に与えた影響は大きくなかったでしょう。一方で、現段階で失望するには、中国の世界経済への依存が大きくなりすぎています。今は、中国は、世界経済成長の数字上の機関車となるのではなく、先進国が回復するのを待つことになっているため、自国の非効率の改善に力を注いでもらう方が未来の世界にとって良いことになるでしょう。


〔チーフ・ストラテジスト神山直樹のレポート等は下記URLからご覧いただけます〕

■KAMIYAMA Reports http://www.nikkoam.com/products/column/kamiyama-reports
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