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『ウェブはグループで進化する』のレビュー

2012年7月発売。ソーシャルメディアの構造・仕組みへの理解はこの本なしには語れない、そう感じさせるほど濃い内容の本でした。

デジタルメディアに少しでも関わる業務の人にとっては、知っておくと視点がガラッと変わるはずです。情報が拡散していく流れの大枠がイメージできるようになります。

著者は、グーグルやフェイスブックで仕事をしてきた人物で、訳者あとがきによると「シリコンバレーでは引っ張りだこ」だったとか。

ネットは従来の人間関係を取り戻す役割をしている

まず前提として、今起きているネットでの変化は、人間が長いあいだ培ってきた社会的な関係性を再強化する方向に再編成されている、ということです。

従来、人間の社会性は「人中心型」であり、ウェブ上での人々の振る舞いはそれに近づいている、いや、戻ってきているというのです。

では、その長年培ってきた人間がもつ本来の社会性とはどんなものなのか?

本書で超大事なポイント

ざっくりと要約するとこんな感じです。

まさにざっくり要約しちゃいましたが、ここ、超大事なポイントしかありません。

●人間は心理面で近い人からもっとも強い影響を受ける。
●そうした近い人、親しい人は通常5人前後で多くても10人。
●その人たちとのコミュニケーションが全体の80%を占める、つまり日常会話のほとんどがかなりの少人数と交わされている。
●そうした「強い絆」もしくは「独立した小規模な友人グループ」などからの情報を最も信頼する。
●多くの人はメンバーが10人くらいのグループを4~6つ抱えており、それらの間でメンバーがかぶることはない(地元の幼馴染、家族、高校の同級生、会社同僚など)

これらは、さまざまな研究結果から明らかになっているそうです。心理学とかネットワーク理論とか、そういう方面の研究ですね。

SNSがこれだけ発達して、人々がたくさんの人とつながっているように見えても、
それは瞬間的な見せかけであり、状況はどんどん上記のような本来のかたちに戻りつつあるといいます。

たしかに言われてみれば、twitterやfacebookが発達した今でも、結局は、日常会話のほとんどは近い人とのあいだで交わされているし、そうした人からの情報をやっぱりなんとなく信じている気がします(家族のおすすめでモノを買うとか)

情報過剰社会である現代においても、人間の情報処理能力自体は変わらないのだから、人々は親しい人からの情報をより信頼するようになっていくだろうと筆者は指摘しています。

これ、SNSが急速に発達していた10年近く前に時代に書かれた本ですが、その時代にこれを言い切るのはかなり珍しいことだったと感じます。

マーケティングへの応用

マーケティング活動では、そこに焦点を当てる必要があるといいます。

具体的な話に落とし込むと、ひとりの個人が強い影響力をもつと考える「インフルエンサー理論」やマーケティングの王道ともいえる「ファネル理論」はそれほど通用しない。

「小規模な親しい人間関係や友人グループ」をベースにしてマーケティング・メッセージを伝えていくのが重要だと提唱します。

これが本書の英語タイトルの「Grouped」につながります。個人個人がもつ、小さなグループがキモになってくるという説明です。

マーケティングの話に戻せば、インフルエンサーに頼るのでもなく、認知・関心・比較・検討といったファネルを考えるのでもなく、小規模なグループに焦点をしぼってメッセージを伝えることが情報を拡散していく有力な方法でもあるわけです。

このあたりの話は『ファンベース』の理論的な根拠にもなっている話です。情報がとにかく絶望的に届かない現代、唯一の届けられる方法は、親しい人、近い人からの口コミしかない、ということです。

本書は、人間関係の仕組みをとても分かりやすく説明してくれますが、では、どういう情報だと人はそれを他人に伝えたくなるのか?ということについては触れられていません。この点については別のものを参考にする必要がありそうです。


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