見出し画像

【連載エッセー第39回】朝市に出かける

 丸山啓史さん(『気候変動と子どもたち』著者)は、2022年春に家族で山里に移り住みました。持続可能な「懐かしい未来」を追求する日々の生活を綴ります。(3月からは月3回のペースで連載します。)
*********************************************************************************

 妻は「伏見わっか朝市」の運営に携わっている。京都市伏見区にある「京エコロジーセンター」のエントランスホールを使わせてもらって、毎週土曜日の午前中に開催している朝市だ。京都で有機栽培された季節の野菜を中心に、有機大豆の豆腐や揚げ、(かやぶきの里で知られる)美山の平飼卵などが並ぶ。魚屋さんも(舟屋で有名な)伊根から来ている。手作りのパンやお菓子の販売をしてくれる人もいる。

生産者の方が野菜を届けてくれる

 もともとは、農民運動団体による朝市が長年にわたって伏見で続けられていた。私たちは自転車で10分ほどのところに住んでいたので、ときどき買い物に行くようになった。「ぜんざいのふるまいがあります」というときには、托鉢僧ではないけれど、お椀と箸を持って親子で駆けつけた。だんだんと朝市の常連になった。

 そのうち、「ちそう」という屋号の方が天然酵母のパンを朝市で売るようになった。妻とよく似た顔の、でも10歳くらい若い女性だ(姉妹?と思われることが多い)。ときどき話をするようになり、子どもの誕生日に米粉のシフォンケーキを焼いてもらったりした。

 そうこうするうちに、朝市を担っていた方々が高齢になり、朝市を終わりにするという話が出た。ところが、「なくすのはもったいない」ということで、ちそうさんが後を継ぐことになり、伏見わっか朝市が始まった。そのとき、ちそうさんから、「いっしょにやってもらえませんか」と、妻が誘われた。

 およそ2年半、ちそうさんを中心に有志で営む朝市が続いた。ちそうさんが遠くに引っ越すことになり、朝市の継続が危ぶまれたのだけれど、「なくすのはもったいない」という声が強く、妻が運営の中心を引き継ぐことになった。それから1年くらいになる。

大豆や椎茸の量り売りもしている

 ぜんざい好きで食いしん坊の子どもたちのおかげで、なんだか不思議な巡り合わせになっている。

 お金の面では「とんとん」で、もうからない朝市だ。運営の仕事に対価が出るわけではない。でも、関わる人それぞれが朝市に意義や魅力を感じて、朝市が続いている。おもしろい人たちが朝市に集まってくる。

 自然栽培の畑から野菜をもってきてくれる30代後半の男性は、作務衣に草履で現れることが多い。前は建設関係の仕事をしていたけれど、思うところがあって田舎に移り住んでいる。生きものを大事にしていて、うちの息子が蚊をたたこうとしたら、「やめて!」と言われた。

 生玄米から作ったビーガン焼き菓子を販売するaririnさんは、京都の大学に通う学生さん。本人もビーガンの食生活を送っている。お菓子はやさしい味で、本当においしい。

 先日は、ひでみ農園のみなさんが、朝市の傍らで開催する「ちいさいわっか教室」で話をしてくれた。少し前に家族で伏見から綾部市に移住して、自給自足を軸に農園を始めたとのこと。30歳くらいのきょうだい3人ともがそれぞれ仕事を辞めて移住することにしたというから驚きだ。

 なお、つい最近、京エコロジーセンターと伏見わっか朝市との連携企画ということで、私も「ちいさいわっか教室」で話をした。お題は「冷蔵庫なしのススメ」。「京都教育大学准教授」という肩書で登場したものの、何のことはない、朝市の身内だ。

 人と人とのつながりのなかで、小さいながらも貴重な朝市が成り立っている。「安心できる野菜を探していた」という常連さんが少なくない。こういう場が各地に増えていってほしい。

『気候変動と子どもたち 懐かしい未来をつくる大人の役割』
クリックすると詳細ページに飛びます

#里山 #里山暮らし #山里 #朝市 #伏見わっか朝市