見出し画像

スコットランド日和⑯ ありのままの自分の体で楽しむ

 スコットランドのエジンバラで研究生活を送っている阿比留久美さん(早稲田大学、「子どものための居場所論」)の現地レポートを連載します(月2回程度の更新予定)。
 ★「子どものための居場所論」note はこちらから読めます。
**********************************

 日本の大学で学生と接していると、毎年摂食障害を経験した学生と出会います。私に自分の経験を話してくれる学生だけでもそこそこの人数になるので、私の知らないところで摂食障害に苦しんでいる若い人たちはかなり多いのだろうと感じます。

 かくいう私も、若い頃に着ていたブランドの服を試着しようと思ったら自分が着れるサイズのものがなく、思わず「中年太りしたらおしゃれからは卒業ってことかな」とか「こんな体型じゃ着たい服も素敵に着こなせないから、おしゃれしたってあんまり意味ないんじゃ……」と感じてしまったことがあります。自分がルッキズムの呪縛にかかっていることを感じつつもそれをどうにもできないという感覚がありました。

 ですが、スコットランドに来てみると、本当にいろんな体型の人がいて、ビッグサイズの人も多い中で、だんだんと自分に対しても人に対してもボディイメージが変化してきました。

 というのも、こちらでは普通の衣料品売り場で小さいサイズから大きいサイズまで一緒に売られていることが多くて、様々な体型の人が分けられていません。しかもサイズ展開もかなり豊富です。

 日本はというと、たとえば百貨店では一般の洋服コーナーに加えて、小さいサイズコーナーと大きいサイズコーナーが置かれていますが、小さいサイズが3号から7号、大きいサイズは13号以上とされていることが多いので、「標準体型」に収まるのはわずか9号と11号のみということになります。実際には7号や13号が一般の洋服コーナーに置かれていることもありますが、確実に自分に合うサイズがほしいと思うやせ型・小柄あるいはぽっちゃり型・大柄な人は小さいサイズか大きいサイズのコーナーに行くのが無難という風になってしまいます(ユニクロやしまむらのような量販店型のアパレルではそういうことはないので、百貨店というのは値段だけでなくサイズという点でも選別的です)。「ふつう」として扱われる範囲の狭さにびっくりします。

 そして、実際日本ではある程度の範囲内に多くの人の体型が収まっていて、あまり極端に大きかったりぽっちゃりしている人はそんなに多くはありません(それにしても、ぽっちゃりしている人にはスティグマが付与されるのに対して、やせ型の人に対してはあまり負の視線は向けられないというのも日本の特徴でしょう)。

 下着屋さんのマネキンをみても、目抜き通りのウィンドウに飾られているマネキンがぽっちゃり体型だったり、商品のパッケージに印刷されているモデルのお腹に肉がぽってり乗っていたりして、スタイルのよいやせ型の人だけでなく幅広い人が自分のブランドのおしゃれの対象なのだよ、というメッセージがはっきりと発されています。

目抜き通りにあるAnn Summerのウインドウに飾られているポスター

 こちらの人は、スパッツをはくファッションが好きなようで、トップスにスパッツ、といういで立ちの人をよく見かけるのですが、あらゆる体型の人がこの服装をしていて、身体のラインが際立つ格好だからといって、どういう体型の人もその格好をすることにそこまで躊躇しないようです。

Marks & Spencerの下着のポスターとパッケージ

 ストリートミュージシャンが多いのもエジンバラの特徴ですが、ストリートミュージシャンに合わせて、中年体型の女性がへそ出しファッションで前に出てノリノリに踊っているのを見た時は、その楽しそうな様子を心の底から「いいな」と思いました。そして、若くてイケてる人しか街中で目立つことをしてはいけない、というような規範を内面化していたことに対して、そういう規範や、それを内面化してる自分ってなんだったのだろう?と改めてふりかえらさせられました。はたから見た時どう見えるかを気にしている自分、自分がどうしたいかは脇においてしまっている自分、でも実際にはその女性の様子を肯定的に捉えている自分がいるということは一般的な規範が必ずしも絶対的なものではないこと……。

 そもそも、人は他者のために生きているのでも洋服を着ているのでもなく、周りの人の目を気にするよりも、自分がどうしたいかに基準を置いたほうが健全です。今のままの自分の身体を、自分自身を大切にして、自分の表現したいことを表現できたほうが幸せで、そうしていいのだなということが、スコットランドで周りの人の服装や行動を目にしていく中で少しずつ自分に浸透しているのを感じます。

 2000年代以降、欧米では痩せすぎモデル規制が国や業界団体でつくられており、痩せていること=よいことという価値観を見直す動きが積み重ねられています。ですが、日本では2019年に日本摂食障害学会が「瘦せすぎモデル規制学会声明」を出しているものの、具体的な策はまだ実現していません。

 とはいえ、渡辺直美さんがプラスサイズモデルとして、北原弥佳さんはリアルサイズモデルとして活躍しており、そのままの自分の体型を愛し、好きなおしゃれをすることを楽しむ姿を発信しており、少しずつ社会の状況は動いています。北原さんは、多国籍の人が多く、肌の色や体型など、様々な人がいる専門学校に通い、そこで「そのままでいいんだよ」と伝え続けてくれる友達がいたことで、少しずつ自分のことを受け入れられるようになったと話しています。日本に帰国したあと、私もおおらかに自分を表現していくことで、日本でも多様性が自然に存在できるようになっていくように、少しでも空気を変えていくことの力になれたらいいなと考えています。

阿比留久美『子どものための居場所論』
クリックすると詳細ページに飛びます

★「子どものための居場所論」note はこちらから読めます。

#阿比留久美 #スコットランド #エジンバラ #子どものための居場所論 #ボディイメージ