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日本全国放浪生活を経て「秘境の村」に暮らした3年間を振り返る記憶の記録。気軽に繋がれな…

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日本全国放浪生活を経て「秘境の村」に暮らした3年間を振り返る記憶の記録。気軽に繋がれないからこそ貴重で大切な場所。なにもない山村で見つけた人生の宝物の数々。「ふるさと」はきっと自分で見つけられる。関心:農山村の暮らしや営み、祭り、民俗文化、写真、文章、聞き書き、哲学。珈琲が好き。

最近の記事

学生インターン④愛すべき光景

この日の午前中は完全ノープラン。村内を公用車でひたすらウロウロ。牛飼いのおばあさんを訪ねてみたり、村の文化財に指定されている巨大な石仏を見に行ったり、集落を見渡せる小高い絶景スポットで、ただただ景色を眺めたり。学生インターンといっても、この短期間で何かを成し遂げるために来ているわけではないのだから、こんな風に自由に、気ままに秘境の日常風景を楽しむ時間があったっていいのだ。 午後からは、山師のおじい、Kさん(普段から交流がある方だったので、こう呼ばせていただく)を訪問。こちら

    • 学生インターン③山に生きるということ

      山師参上この日は別の大学生(Yさん)も加わり、山奥で自給生活を営む方に会いに行った。最初に訪問させていただいた山師Oさんは、日常的に交流がある方ではないのだが、移住先輩の女性Hさんが「ぜひ学生たちに会わせたい」と紹介してくれたので、お言葉に甘えて連れて行ってもらうことにした。「T HE・山道」感の溢れる道中に、一同驚きを隠せない。このような秘境で生活をしている人々がTVで大々的に取り上げられるようになり、娯楽コンテンツとして消費されている感の強い今日この頃であるが、山奥に根を

      • 学生インターン②一巡り、人めぐりの旅

        秘境のスイス?前々から行ってみようと思いながら忘れていた場所があることを思い出して、Sさんと一緒に訪れてみた。鬱蒼としたくねくねの山道を登りきると、突然小さな集落が現れる。一番手前のお宅の玄関で、おばさんたちが何やら雑談をしている様子。緊張しつつも声をかけたあと、それぞれの自己紹介をして、その輪に混ぜてもらう。とにかく暑い日だったことを覚えているのだが、玄関開けたらすぐ居間!という風通し抜群の住宅構造で、時々吹きぬけてゆく風が、とても気持ちよかった。 途中でお米の配達にや

        • 学生インターン①駆け抜けた暑い夏

          山間部は酷暑だった新緑の季節も終わり、季節は夏へ。最南部といっても信州なのだから、夏もそれなりに涼しいだろうとタカをくくっていた自分。正確に言えば同じ村内でも標高や集落の場所によって気候・気温差があるのだが、この時に住んでいた地区のあまりの暑さには、正直に言って打ちのめされた。記憶が確かならば、40℃オーバーを計測した日もあって、昨年よりますます過酷さを増している気配すらある。何度か自宅で熱中症になってしまい、残念ながら今後はクーラーなしでは夏を越せないかもしれないとすら感じ

        学生インターン④愛すべき光景

          風景をつくりだすもの

          人の案内が多かった春の花盛りも過ぎ、あっという間に冴えわたる新緑の季節が巡ってきた。もはやこの村にいると新緑=茶摘みという図式が成り立ってしまうようになった。思えば都会に住んでいた時は、この季節には〇〇の行事があるとか、この時季には〇〇が採れるとか、そんなことは露程も意識したことがなかった。ただただ目の前の仕事や生活とか、いかに自分を高めるかとか、何が欲しいとかあれが食べたいとか、そんなことばかり考えて過ごしていた。 慣れない手つきで、無心になって茶葉を摘んでいく。急斜面に

          風景をつくりだすもの

          ムラビトのモノガタリ

          人生を記録するということ移住1年目の冬頃から、村で生まれ育った70代後半~80代の方々にお話を聞き「ライフヒストリー」をつくる作業を始めていた。お話を聞いたはいいものの、どんな風にまとめようかあれこれ思案しているうちに、すっかり春になってしまった。せめて10名分くらいは記録して、最後に1冊にまとめようと思っていたところ、お話を聞いた方から「自分の話をまとめたものが欲しい」という意見をいただいため、その人の個性が滲み出るような冊子にするにはどうしたら良いのか、ずっと考えていたの

          ムラビトのモノガタリ

          桃源郷の村を往く

          フォトギャラリーで知り合った写真家Kさん・彼女の知人で写真民俗研究家Mさんの来村案内の日がやってきた。秘境の村は春真っ盛りで、まるで桃源郷のよう。タイトなスケジュールの中で、どれだけ観光ではない深い部分を伝えられるだろうか。ちょっと早めに集合して村内を軽く回ってから、国選択無形民俗文化財に指定されている行事を見に行くことになっている。公用車に2名を乗せ、雑談と景色の美しさを楽しみながら車を走らせる。 信州で最も早く咲くというカンザクラの名所に差し掛かると、何やら野外での神事

          桃源郷の村を往く

          学生と辿る村の暮らし

          写真家さんたちの来村のちょっと前、ふとしたきっかけで知り合った大学生に村内を案内することになった。初めての来村案内。彼女が何を求めて村に来るのか?何がしたいのか?明確なニーズをそれとなく掴むため、メッセンジャーでやりとりをする。結論を言うと「なんでも大丈夫!」ということになったので、山仕事体験・地域をぶらぶら歩く・地元民に昔話を聞く、の三本柱で行くことに決めた。 まずは村内を公用車でウロウロ。山桜や茶畑の広がる春の景色を満喫する。それから、恒例の山のお師匠(?)のところで、

          学生と辿る村の暮らし

          CHAPTER2:秘境の春-second season-

          早くも季節は一巡り。環境にも慣れはじめて、1年目には持てなかった心の余裕と、周囲の人々と交流する時間を少しづつ持てるようになったのもこの頃か。なにしろ3年日記を1か月くらいでやめたほどの三日坊主で、過去の思い出を辿るとき、参考にするものがfacebookの投稿くらいしかない。しかも、当然ながら調子のよい時に良いことしか書いていないのが、SNS。 公用車の運転も少しは上達して、村内を回れるレベルにはなった。桜、花桃、ミツバツツジ……植物名には明るくない私だが、秘境の春の美しさ

          CHAPTER2:秘境の春-second season-

          受け継がれゆく神楽

          2019年1月。村に来て2回目の冬。1年目はとにかく村のことを知る!と決めていた私は、国重要無形民俗文化財にも指定されている神楽をすべて見ることにした。ありがたいことに12月の練習(舞習い)から見せていただいた祭りもあって、とにかく本番が楽しみで仕方なかったことを覚えている。こんな山奥で600年近くも受け継がれているなんて、一体どんな祭りだろうと。 目に見える「祭り」という舞台の裏側に積み重なっているであろう、受け継がれてきた伝承の世界や、舞の美しさにすっかり魅了されてしま

          受け継がれゆく神楽

          壮麗なる秋の祭り

          秘境の村に残る四季の祭りや地域行事。ここに来て初めて秋祭りを見た。大名行列にお練りに獅子舞、青年太鼓と、全部盛りのような壮麗なお祭りだ。田舎や「ふるさと」と呼べる場所が無いまま育った私がイメージするお祭りといえば、夏祭りの屋台くらいだろうか……なんとも寂しい。 思えば「伝統のお祭り」というものをじっくりと見たのは、これが初めてだったと思う。出る側も見る側も、見知った顔の村人たちがいつもとは違う雰囲気をまとっていて、1年に1度しかないこの時間を思い思いに楽しんでいるように見え

          壮麗なる秋の祭り

          栃の実とお手製篠笛

          移住者の先輩から、林業を営む山暮らしマスターの男性を紹介された。齢70手前の端正な顔立ちの方で、纏うオーラの清々しいことこの上なし。接しているこっちまで良いエネルギーをもらえるような感じがする。ただシンプルに、生きるために働いている人だな、というのが第一印象。 「生きる力をつけたい」なんて大層な目標を掲げてはみたけれど、この秘境における山暮らしがどう成り立っているのかなんて、私は何ひとつ知らないのだ。せっかく知り合えた師匠に色々と教えてもらいたくて、時々会いに行っては、色々

          栃の実とお手製篠笛

          家庭菜園の愉しみ

          公社が所有している小さな畑を借りれることになった。放浪生活の途中で農作業はたくさん経験したけれど、ゼロから自分でやるのは初めての経験。捻くれもの精神を発揮して、どうせならちょっとレアな野菜を作ってみよう!と意気込みつつ、まずは書籍でお勉強。 いろんな色のミニトマト、タイなす、イスラエルのダビデ星オクラ、カラーいんげん、バジル数種、レモングラス、白ゴーヤ……。毎日少しづつ畑づくりをした。土日のお休みに作業をしていると、近所のおばさんが「頑張ってるね」と声をかけてくれるのがちょ

          家庭菜園の愉しみ

          新緑のグラデーション

          全方位が山々に囲まれた秘境の村は、5月ともなれば目に沁みるような新緑の季節。同じ緑でもこんなに多様なグラデーションがあるのか……と感動する日々。知人から原付をレンタルできることになって、ほんの少し行動範囲が広がったこともあり、やや元気を取り戻したのもこの頃だったと記憶する。 村の特産品のひとつでもあるお茶。夏も近づく八十八夜……♪ということで、茶摘みシーズンの開始。ようやく「地域活動」っぽいことが出来る!と喜んでいたのもつかの間。半端ない急斜面に立ち続けるせいで起こる足腰の

          新緑のグラデーション

          甘くない生活

          協力隊募集要項には「農ある暮らしをしたい人」とあり、豊かな山の資源を活かして自活する方法として、農家民泊・農作物の加工や販売などを考えていた私。しかし、待っていたのは派遣社員・農業Ver.のような生活だった。毎日、畑と自宅の往復で終わってしまう毎日……。近所のおじいちゃんやおばあちゃんとの交流風景は夢の世界の話なのだろうか? 自家用の移動手段(車)がない、地元の人を紹介してくれたり、繋いでくれるような存在がいない、平地がほぼ皆無・道路が狭すぎて公用車の運転が怖すぎる(この時

          甘くない生活

          CHAPTER1:秘境へ-first season-

          秘境生活の3年間が終わった。長いようでとてつもなく短く濃密な時間だった。振り返ってみれば、良いことも悪いことも、通常の5割増しくらいの感覚だったように感じる。 普通に暮らしていたら絶対に出会えなかった人との出会い、起こらなかったに違いない出来事を山のように体験しては反芻して、大きく成長できた自分がいることは確実。 少しづつ記憶の引き出しを開けながら、振り返りもかねて、ここに記憶の記録をしたためていこうと思う。 2018年、あれは確か12月のこと。 静岡でゲストハウス改

          CHAPTER1:秘境へ-first season-